パドックで会いましょう

櫻井音衣

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卒業アルバム

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「たち悪いな、絡み酒かい!」
「すみませんね、どうしようもない後輩で」
「しゃあないのう……。可愛い後輩やからな、今日だけは多めに見たるわ」

先輩は僕の頭をグシャグシャと撫でた。
イケメンに頭を撫でられたら、男の僕でもなんとなく嬉しいものだ。
きっとたくさんの女の子にも同じことをして、無駄に気を持たせてきたに違いない。

「先輩は男にも優しいんですねぇ。そりゃモテるよ……。この際だから、先輩と付き合っちゃおうかな……」
「それだけは勘弁してくれ……。なんぼおまえが可愛くても、俺は男には興味ないぞ」
「もちろん冗談ですよ……。僕だって男には興味ないですからね……」

グラグラと不安定に揺れる視界の片隅に、本棚を見つけた。
なぜだかやけに気にかかる。
前にもこんなこと、あったかな?
僕はフラフラと四つん這いになって、その本棚の前に移動した。

「どないした?なんか気になる本でもあるんか?」
「ええーっと……いやなんとなく」

その本棚の片隅に、どこかで見たような茶色い背表紙のアルバムを見つけた。
それを勝手に手に取ってみる。

「なんや、それか?中学の卒業アルバムや」
「卒業アルバム……?」

表紙をめくると、先輩が通っていたであろう中学校の校舎や、教師たちの集合写真。
もう一枚めくると、今度は3年生のクラス写真がそこにあった。

「懐かしいなあ。もう何年になるやろ?」
「先輩は何組だったんですか?」
「3年の時は……たしか3組やったな」
「3組……。先輩の中学時代って、どんな感じでした?」

3年3組のクラス写真のページを開き、先輩の姿を探す。

「俺の中学時代なぁ……。3年の時はかなりまともやったな」
「3年の時はまとも?じゃあ2年までは?」
「ヤンチャしとったからなあ。頭は金髪でな、制服も改造やったわな」
「それはいわゆる、ヤンキーと言うやつですか?」
「まあ、そんなとこやな」

僕の地元ではヤンキーなんてとっくの昔に絶滅危惧種になったと思っていたのに、こちらでは先輩が中学生の頃にはまだ当たり前のように生息していたことに驚く。
集合写真の端の方に、斜に構えた少年の姿を見つけた。
間違いない、これ、先輩だ。

「3年になって、急に変わったんですか?」
「いやー……3年の時の担任がめっちゃええやつでな。最初はうるさいと思てたんやけど、だんだん言うこと聞かなあかんような気ぃしてきて。気ぃ付いたらまともに学校通って授業受けてたわ。勉強でわからんとこあったら、俺がちゃんとわかるまで根気よく付きうてくれたし、そのおかげで私学やけどなんとか高校にもはいれた」
「へぇ……ものすごくいい先生ですね」

集合写真の前列真ん中に写る男性が担任なのだろう。
歳の頃は30手前といったところか。
こざっぱりした風貌の、どこにでもいそうな感じの先生だ。
一緒に並んでいる生徒たちと比べてみると、背はまあまあ高い方。
めちゃくちゃ美形とまではいかないけれど、割と整った端正な顔立ちをしている。

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