35 / 60
恋人ごっこ
7
しおりを挟む
「じゃあ……ベッドに横になって。僕、そばにいますから」
ねえさんは黙ってうなずいた。
固くて冷たい床に、ねえさんを寝かせるわけにはいかない。
もしかすると、そんなことは自分に対する言い訳かも知れない。
僕はただ、今にも消えてしまいそうなほど儚げなねえさんを、どこにも行かないように抱きしめたいと、そう思ったのだから。
ねえさんはベッドに横になると、僕の目をじっと見つめた。
「アンチャンも、ここに一緒に寝て」
ためらったのは、ほんの少しだけだった。
僕はねえさんの隣で横になり、華奢なその背中に腕をまわして抱きしめた。
「こうしていても、いいですか」
「うん……」
ねえさんは僕の腕の中で、仔猫のようにおとなしくしている。
ねえさんの髪からは、いつもとは違う、僕と同じシャンプーの匂いがした。
それだけのことで煽られる欲情を、僕は必死で理性で抑え込もうと固く目を閉じる。
「アンチャン、あったかいな」
「あったかい?暑くないですか?」
「うん、あったかくて気持ちいい」
今すぐこの手で、ねえさんのすべてを温められたらいいのに。
ねえさんの背中にまわした腕に、力がこもる。
「眠れそうですか?」
「どうやろ……。でもアタシよりアンチャンが寝られへんか?」
「えっ?!」
「心臓、めちゃめちゃドキドキ言うてる」
「……仕方ないでしょう。僕はこういうことに慣れてないんです」
こんなふうに女の人を抱きしめるのも、一緒に寝るのも、慣れてないどころか初めてだよ!!
しかもそれが大好きなねえさんなんだから、ドキドキするなって言う方が無理な話だ。
「心臓の音、聞いとったらな……なんかようわからんけど、安心するねん」
「それ、なんかで聞いたことありますよ。母親のお腹にいる時に、胎内で聞いた母親の心音の記憶がどこかに残ってるとか」
「うーん……なんやろな。似てるけど、そういうのとはまたちょっとちゃう気がする」
ねえさんは目を閉じて、僕の左胸に耳を押し当てた。
そして少し笑って、顔を上げた。
「でもやっぱり……これは速すぎるな」
ねえさんにドキドキしていることを、ねえさん本人に指摘されたのが恥ずかしくて、また鼓動が速くなった。
こんな僕は、大人の男には程遠い。
情けなくて奥歯をギュッと噛みしめる。
「……やっぱり僕じゃダメですね。ねえさんが一人で不安な時も、安心させてあげられない」
僕がねえさんの体から腕をほどくと、ねえさんは小さく笑って、僕の胸に顔をうずめた。
ねえさんは黙ってうなずいた。
固くて冷たい床に、ねえさんを寝かせるわけにはいかない。
もしかすると、そんなことは自分に対する言い訳かも知れない。
僕はただ、今にも消えてしまいそうなほど儚げなねえさんを、どこにも行かないように抱きしめたいと、そう思ったのだから。
ねえさんはベッドに横になると、僕の目をじっと見つめた。
「アンチャンも、ここに一緒に寝て」
ためらったのは、ほんの少しだけだった。
僕はねえさんの隣で横になり、華奢なその背中に腕をまわして抱きしめた。
「こうしていても、いいですか」
「うん……」
ねえさんは僕の腕の中で、仔猫のようにおとなしくしている。
ねえさんの髪からは、いつもとは違う、僕と同じシャンプーの匂いがした。
それだけのことで煽られる欲情を、僕は必死で理性で抑え込もうと固く目を閉じる。
「アンチャン、あったかいな」
「あったかい?暑くないですか?」
「うん、あったかくて気持ちいい」
今すぐこの手で、ねえさんのすべてを温められたらいいのに。
ねえさんの背中にまわした腕に、力がこもる。
「眠れそうですか?」
「どうやろ……。でもアタシよりアンチャンが寝られへんか?」
「えっ?!」
「心臓、めちゃめちゃドキドキ言うてる」
「……仕方ないでしょう。僕はこういうことに慣れてないんです」
こんなふうに女の人を抱きしめるのも、一緒に寝るのも、慣れてないどころか初めてだよ!!
しかもそれが大好きなねえさんなんだから、ドキドキするなって言う方が無理な話だ。
「心臓の音、聞いとったらな……なんかようわからんけど、安心するねん」
「それ、なんかで聞いたことありますよ。母親のお腹にいる時に、胎内で聞いた母親の心音の記憶がどこかに残ってるとか」
「うーん……なんやろな。似てるけど、そういうのとはまたちょっとちゃう気がする」
ねえさんは目を閉じて、僕の左胸に耳を押し当てた。
そして少し笑って、顔を上げた。
「でもやっぱり……これは速すぎるな」
ねえさんにドキドキしていることを、ねえさん本人に指摘されたのが恥ずかしくて、また鼓動が速くなった。
こんな僕は、大人の男には程遠い。
情けなくて奥歯をギュッと噛みしめる。
「……やっぱり僕じゃダメですね。ねえさんが一人で不安な時も、安心させてあげられない」
僕がねえさんの体から腕をほどくと、ねえさんは小さく笑って、僕の胸に顔をうずめた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
鎌倉讃歌
星空
ライト文芸
彼の遺した形見のバイクで、鎌倉へツーリングに出かけた夏月(なつき)。
彼のことを吹っ切るつもりが、ふたりの軌跡をたどれば思い出に翻弄されるばかり。海岸に佇む夏月に、バイクに興味を示した結人(ゆいと)が声をかける。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる