パドックで会いましょう

櫻井音衣

文字の大きさ
上 下
33 / 60
恋人ごっこ

しおりを挟む
引き出しの中からゆったりめの部屋着を出しながら、この状況が普通じゃないことをだんだん理解し始めて、酔いが覚めていく頭とは逆に、鼓動はどんどん速くなった。
まずいな、これ。
後先なんにも考えずに僕の部屋に連れてきちゃったけど、僕だって男だし、何が起こってもおかしくない状況だ。
酔って正しい判断ができなくなっているねえさんを前にして、僕の理性は保てるだろうか?
ホントにいろいろまずい状況だ。
男なら美味しい状況だと思うのが当たり前かも知れないけれど、僕はねえさんが好きだからこそ、その場の雰囲気に流されて一線を越えるようなことがあってはいけないと思う。
理性が崩壊して無理やり襲いかかるとか、とにかくそれだけは何があってもしないように気を付けよう。

「今日は暑かったから汗かいたでしょう。ねえさん、シャワー使って下さい。これ着替えです」

目一杯平静を装って部屋着を手渡すと、ねえさんは小さく首を横に振った。

「アタシは後でええから。アンチャン先に使って」

やっとねえさんがしゃべった。
酔っていても意識はしっかりしているのだとわかって、少しホッとした。

「じゃあ……もししんどくなったら、横になってて下さいね。ベッド使っていいですから」
「うん、ありがとう」

シャワーを浴びながら、ありもしないことへの期待に、うるさいくらいに胸が高鳴っていた。
頭では有り得ないと思っているのに、体は正直なようで、理性では抑えきれないみたいだ。
とにかく身体中が熱い。
身体中の血が沸きたつように、熱い。
テンパって非常にまずいことになっている。
このままではねえさんを襲いかねない。
もし万が一そんな状況になったとしても、まさかの事態だから、なんの準備もしていない。
それこそ非常にまずいだろう。
そうならないための予防策として、自力でなんとかクールダウンしておこう。
……情けないけど。
僕がシャワーを浴びながら煩悩まみれになっているなんて、ねえさんは思いもしないだろう。
歳だけはもう大人なのに、余裕の欠片もない、こんな自分が本当に恥ずかしい。

僕が浴室から出たあと、ねえさんも続いてシャワーを済ませた。
ねえさんが僕の部屋着を着ていることに、またドキドキしてしまう。
なんでもない部屋着を着ているだけなのに、内側からにじみ出る色気がダダ漏れだ。
完全にこれは反則だろう。
色っぽすぎて、直視できない。
余計なことは考えずに、とっとと寝てしまおう。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...