パドックで会いましょう

櫻井音衣

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最終レースが終わると、おじさんが僕とねえさんを競馬場近くの小さな居酒屋に連れていってくれた。
その店は、おばあさんと呼ぶにはまだ少し若い女将さんが一人で切り盛りしている。
友人や先輩たちと行くようなチェーン店の居酒屋とは違う、温かみのある店だった。

「おねーちゃん、好きなもん頼めよ!」
「ほんならビールとモツ煮込みと揚げ出し豆腐ちょうだい!」
「アンチャンも遠慮すんな。何飲むんや?」
「それじゃ、僕もビールいただきます」

おじさんはビールと、料理をいくつか適当に注文した。

「競馬のあと、よく二人で一緒に飲みに来たりするんですか?」
「たまにな。おねーちゃんのおかげで大穴当てた時は、こうやってお礼するんや」

おじさんはねえさんと僕、それから自分のグラスにビールを注いだ。

「ほな、お疲れさん。かんぱーい!」
「かんぱーい!!」
「乾杯!いただきます!」

三人で乾杯して、ビールを飲んだ。
普段はあまり飲まないけれど、今日のビールはなんだか美味しい。

それからしばらくの間、女将さんの美味しい料理をつつきながらビールを飲んだ。
ねえさんとおじさんは今日のレースを振り返って盛り上がっていた。
興味深かったのは、僕が思っていた関西と実際の関西が違うことだ。

ねえさんは自分のことを『アタシ』と呼ぶ。
関西の女性はみんな、自分のことを『ウチ』と呼ぶものかと思っていたけれど、実際は違うようだ。

「アタシのまわりで、自分のこと『ウチ』言う子なんか、あんまりいてへん」
「そうなんですか?僕、ほとんどの女性がそう呼ぶんだと思ってました」
「アンチャン、テレビか漫画かなんかの見すぎちゃうか?関西言うても広いんやで。関西イコール大阪とちゃうしな。兵庫かって広いんやから、ここらへんと神戸は全然ちゃうし、県の北部なんかまったくちゃうからな」

ねえさんは笑いながらタバコに火をつけた。

「そう言えば、『ワイ』とか『おおきに』とか、『でんがな』とか『まんがな』とか、言いませんね」
「ここら辺のモンはあんまり言わんな。それ、ベタな大阪やろ」

土地が違えば、言葉も料理の味付けも違う。
女将さんの料理は出汁をきかせた優しい味で、素材の味が生きていて、とても美味しかった。


3時間ほど経って店を出た。
おじさんはすぐ近所に住んでいるらしく、店の前で別れた。

「アンチャン、電車か?」
「はい、電車です」
「ほな、駅まで一緒に行こか」

ねえさんと並んで駅まで歩いた。
ほろ酔い加減で頬を上気させたねえさんは、楽しそうに鼻唄を歌いながら歩く。

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