パドックで会いましょう

櫻井音衣

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競馬場デビュー

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「ほらアンチャン、こっち来てみ」

ねえさんは柵に手を掛けて手招きをした。
僕が隣に立つと、ねえさんは正面を指差した。

「あの正面にあるのがゴール板な。馬が1着目指してさ、必死になって駆け込んで来るんよ。ここから観るのが一番迫力あるねん。テレビで観るのとは迫力が全然違うで」
「へぇ……」

よほど競馬が好きなのか、ねえさんは目をキラキラさせて競馬の魅力を語る。

「ところでなぁ、アンチャン」
「はい、なんでしょう」
「いまさら聞くのもなんやけどな……アンタ、未成年ちゃうの?」

ああ、まただ。
入場券を買う時にも同じことを聞かれたんだ。

「違いますよ……。成人してます」
「成人してても、大学生は馬券うたらあかんのやで」

そう、これも聞かれた。
学生さんではありませんか?って。
もうため息しか出ないよ。

「……こんな見た目ですけどね……成人した社会人です」

声を大にして叫びたい。
童顔で背も低いけど、僕は成人した社会人だ!
どこに行っても高校生と間違われるけど、僕はもう大人なんだ!

「そうかぁ、あんまり可愛い顔してるから、未成年の学生さんやと思った。ごめんやで」
「……いつものことだから慣れてます」

こんな綺麗な大人の女の人に面と向かって言われると、ものすごく子供だと言われているようで、正直ヘコむ。

「なんや、いつも言われてしょげてるんか。若いんやから焦らんでもええよ。これからどんどん大人っぽく男らしくなれるって」
「なりたいですけどね……」

できればあなたのような大人の女性に釣り合うくらいの大人の男にね、なんて歯の浮くような台詞、僕には似合わない。

「せめて、どこに行っても年齢確認されないようになりたいです」

肩を落として呟く僕の肩を、ねえさんはポンポンと叩いて笑った。

「なれるなれる。そのうちイヤでもオッサンになるからな」
「オッサンですか……」

それでは僕は、オッサンになるまで見た目は子供だということか?

「歳下の可愛い男が好きー!っていう女もおるから、若いうちはええんちゃう?」
「……いればいいんですけどね」

可愛いとか童顔とか、イヤと言うほど言われてきたけれど、恋愛対象として見られたことなんて一度もない。
人並みの恋愛経験をすることもできなかった過去を振り返って、余計に落ち込んでしまった。

「しょげるな、そのうちアンタのことがええって言う女が一人くらいは現れるはずやと思うで、きっと、多分、おそらく」
「なんですか、それ……。すっごく曖昧ですね……」

励ますには望みの薄過ぎる言い方だろう。
嘘でもいいから、もうちょっと強く希望を持たせてくれないかな。
思わずため息をつくと、ねえさんは僕の丸めた背中をバシンと叩いた。

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