社内恋愛狂想曲

櫻井音衣

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社内恋愛終了のお知らせ

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「言うても結婚すんのもまだもう少し先のことやし……そんなん言うたらめんどくさいことになるやろ」
「そうだよ、それが原因でどっちかが異動させられるのも困るし……」

あー……うん、そうか、なるほど。
二人は結婚するギリギリまでは同じ部署で働きたい……と言うか、離ればなれになるのがいやだから、付き合っているのを内緒にしていたいのだろう。
みんなに知られるとめんどくさいと言う気持ちはよくわかる。
そのめんどくさいことを回避するために、私も護との社内恋愛を3年も隠していたのだから。

「あー、めんどくさい。だから社内恋愛っていやなんだよなぁ……」

瀧内くんは吐き捨てるようにそう言って、箸を手に取り冷めかけたハンバーグを口に運んだ。

「まぁ……たしかに社内恋愛はめんどくさいな。だけどそれを理由に内緒にしてると、もっとめんどくさいことになるんだよ。俺も玲司の意見に賛成だな」

そう言って潤さんも箸を手に取った。
潤さんも私も、秘密の社内恋愛で苦い経験をしている。
周りに秘密にしていなければ、あんなことにはならなかっただろうか?
それも今となってはわからない。

「そんなこと言って、潤くんだって6年以上も佐野に社内片想いしてたじゃん。それだって佐野にコクってもしフラれたら、気まずくなって同じ部署には居づらくなるとか、そういう理由だろ?そのくせまだ付き合うどころか告白すらしてもないのに、みんなの前で『志織は俺の婚約者だ』とか言うんだもんな」

伊藤くんが不服そうに呟くと、潤さんは眉間にシワを寄せて右の眉をピクリと動かした。

「潤くんは休職中だから知らないだろうけど、佐野は会社の人に潤くんとのこといろいろ聞かれてるじゃん。うまく行ったから良かったけど、もし佐野に他に好きな人がいたら、もっとめんどくさいことになってたと思うよ? 嘘でも本気でも婚約中でも社内恋愛なんだからさ」

潤さんはまたテーブルに箸を置いて、顔をひきつらせながら伊藤くんの顔を見る。

「もう終わった」

潤さんの一言に3人は耳を疑い、顔を寄せてひそひそと話し始めた。

「えっ、終わったって……」
「あんなに盛り上がってたのに、まさかもう別れたんですかね?」
「別れたら一緒に帰って来んやろ」
「いや、だって佐野はマンションには戻れないから、別れてもここに帰ってくるしかないわけだし……」

ずいぶん大きなひそひそ話だな。
全部丸聞こえなんですけど。
普通に話してるけど、さっきまで喧嘩していたのを忘れたんだろうか。

「潤くん……終わったって言うのはもしかして……」

伊藤くんがおそるおそる尋ねると、潤さんは私の動かせない左手の横に自分の左手を並べてみんなに見せた。

「今日入籍した。だから志織との社内恋愛は終わったんだよ。今日から俺と志織は夫婦だ」

みんなは私と潤さんの薬指に光るまっさらな結婚指輪を見て唖然としている。

「焦ったー……!終わったてそっちかいな……!」
「マジか……!超スピード婚じゃん……!」

みんなが驚くのも無理はない。
3日前の金曜日に潤さんが退院して一緒に暮らし始め、一昨日の土曜日に急遽潤さんの両親と一緒に私の両親に挨拶に行ったばかりなのだから。
もっと言えば、あの歓迎会の日からまだ3週間ちょっとしか経っていないのだ。
驚きを隠せない伊藤くんと葉月を見て、潤さんは満足そうな表情を浮かべた。
これが『ドヤ顔』ってやつか。

「なんとでも言え。俺は最初から絶対志織と結婚するって決めてたから、早くてもいいんだよ」
「社内恋愛からの職場結婚で、二人はこれから家庭内恋愛するわけですね。それ最高だと思います」

瀧内くんの言葉を聞いて、潤さんは少し照れくさそうに頬をかいた。

「家庭内恋愛って……。うん、でもまぁ、そうなるかな。社内恋愛って言っても、付き合ってる期間がほとんどなかったもんな。これからは誰に気兼ねする必要もないし、心置きなくゆっくり関係を深めていくつもりだよ。な、志織?」
「うん、そうだね」

私と潤さんが二人で笑い合っていると、瀧内くんがパチンと手を叩いた。

「それじゃあ今日は潤さんと志織さんのおめでたい日ということで、笑って食事をしましょう」

先ほどまで喧嘩していた伊藤くんと葉月は、お互いの顔をチラッと見てから、視線を料理の方に移した。
そして料理に箸を伸ばす。
二人ともまだ納得はしていないようだけど、とりあえずこの場で喧嘩をするのはやめておこうと思っているようだ。

「それにしても……まさか今日入籍するとはなぁ。前もって言ってくれたらお祝いの準備くらいしておいたのに」

伊藤くんがハンバーグを口に運びながらそう言うと、葉月も瀧内くんもうなずいて同意する。

「ありがとう、その気持ちだけで嬉しいよ。土曜日に志織の実家で話してるときに、今日入籍することに急遽決まったんだ。みんな忙しいだろうし、わざわざ連絡するのもなんだかなと思ってさ」
「遠慮しないで連絡くれれば良かったのに。それじゃあお祝いは改めてまた別の日にしよう」

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