262 / 268
社内恋愛終了のお知らせ
13
しおりを挟む
食事をしながら、みんなは私と潤さんにいろいろと尋ねてきた。
「結婚式はどうするん?」
「その辺はまだこれからゆっくり相談して決めるつもりだけど……潤さんは神前式がいいんだよね?」
「いや、神前式にこだわりはないよ。ただ志織は和装が似合いそうだから白無垢がいいかなって思ってただけ。でもやっぱりウエディングドレス姿も一度は見てみたいから迷うんだよな」
潤さんがそう答えると、みんなはニヤニヤ笑いながら潤さんをみた。
その視線に気付いた潤さんは怪訝な顔をして箸を止める。
「……なんだよ?」
「いやぁ……それはノロケなのかなぁって」
伊藤くんに冷やかされ、潤さんはわざとらしく咳払いをする。
「志織はどっちがええの?」
「どっちがいいか迷うなぁ……。私も両方着てみたい」
「結婚式場で両方着られるやん?どっちかで式挙げて、もう片方は写真だけ残すとか」
伊藤くんとの結婚準備の真っ只中の葉月は、具体的なアドバイスをしてくれた。
「思いきって2回式挙げるのもありやで。1回目は二人だけとか身内だけでこぢんまりして、2回目は親戚とか友人とか呼んで披露宴もするねん。ほんで職場結婚で新郎新婦の部署が別々の人は、同僚の人数が多いから、だいたいみんな二次会だけ呼ぶやろ」
式場選びは雑誌やネットなどで調べて、いくつか候補をあげて回ってから決めた方がいいとか、料理や引き出物を選ぶときは親戚のことも考えて両家の両親の意見も取り入れた方がいいとか、招待客のリストは早めに作っておいた方がいいとか、二次会の幹事は友人に任せるなど、葉月は華やかさとはかけ離れたことを教えてくれた。
「なるほど。考えなきゃいけないことがいろいろあるんだね。潤さんと一緒に両親とも相談してみる」
いつかそのうち私も結婚するんだろうなと思っていたときには淡い憧れしかなかった結婚式も、いざ現実となるといろいろ大変なようだ。
「そう言えば……結婚したってことは、もう佐野じゃないんだな。俺、これからなんて呼べばいいんだろう?『三島』って言うと潤くんのことも呼び捨てにしてるみたいし……勝手に『志織』って呼ぶと潤くんににらまれそうだから……『奥さん』……いや、やっぱ『三島さんの奥さん』かな?」
冷やかしなのか真面目に言っているのか、伊藤くんは首をかしげて考えている。
「それを言うと葉月だって結婚したら木村じゃなくなるでしょ?潤さんも葉月のこと『伊藤さんの奥さん』って呼ぶの?」
「潤くんは上司だから、そこは『伊藤』で良くないか?俺のことは『志岐』って呼ぶんだから」
「あっそうか、たしかにそうだね。私のことは『佐野』でも『志織』でも、伊藤くんが呼びやすいように呼んでくれたらいいよ」
そう言ったあと、潤さんと葉月が眉間にシワを寄せていることに気付いた。
「『佐野』のままか『三島さん』が妥当じゃないか」
「どうしても名前で呼びたいんやったら、玲司みたいに『志織さん』って呼べばええねん」
どうやら選択肢に『志織』は入っていないらしい。
二人とも伊藤くんが私のことを『志織』と呼ぶのは面白くないようだ。
こんな些細なことでヤキモチを焼いているのだとすると、潤さんも葉月も、やっぱりかわいいと思う。
「じゃあ『佐野』のままでいいか」
「いいんじゃない?」
私たちがそんな話をしている間、瀧内くんは黙々と箸を進めていた。
こういう話にはあまり興味がなさそうではあるけれど、瀧内くんも結婚とか将来のことを考えたりはするんだろうか。
それ以前に、瀧内くんに好きな人とか彼女がいると言う話は一度も聞いたことがない。
もしいるとしたら、普段はクールな瀧内くんも彼女の前では甘くなったりするのかなとか、このきれいに整った顔をフニャッとさせたり、甘い言葉を囁いたりするのかな、などと思ったりする。
一度考え始めると気になってしょうがないけど、瀧内くんの性格を考えると自分から進んでそんな話はしそうにないし、思いきってさりげなく聞いてみようか。
瀧内くんが食事を終えて箸を置いたタイミングで、私は思いきって口を開く。
「そう言えば……一度も聞いたことないけど、瀧内くんって彼女とか好きな人はいるの?」
思いきった私の質問に、潤さんも伊藤くんも葉月も驚いて目を大きく見開いている。
瀧内くんの雰囲気がそうさせないのか、やっぱりみんな直接聞いたことはないらしい。
差し詰め私はチャレンジャーってとこだろうか。
瀧内くんは食後のお茶をすすりながら、私の方を横目でチラッと見た。
『くだらんこと聞きやがって!』とか思われてたりして……。
怒られることを覚悟で作り笑いを浮かべたけれど、おそらく私の顔はかなりひきつっているだろう。
『いません』と端的に答えるか、もしかして無言でやり過ごされるのかと思ったけれど、意外なことに瀧内くんは口から湯飲みを離して「いますよ」と答えた。
「……いるの?」
「ええ、彼女ではありませんけど……妻がひとり」
「へぇ、そうなんだ。妻がひとりね。へぇ、妻が…………えぇっ、妻?!」
「結婚式はどうするん?」
「その辺はまだこれからゆっくり相談して決めるつもりだけど……潤さんは神前式がいいんだよね?」
「いや、神前式にこだわりはないよ。ただ志織は和装が似合いそうだから白無垢がいいかなって思ってただけ。でもやっぱりウエディングドレス姿も一度は見てみたいから迷うんだよな」
潤さんがそう答えると、みんなはニヤニヤ笑いながら潤さんをみた。
その視線に気付いた潤さんは怪訝な顔をして箸を止める。
「……なんだよ?」
「いやぁ……それはノロケなのかなぁって」
伊藤くんに冷やかされ、潤さんはわざとらしく咳払いをする。
「志織はどっちがええの?」
「どっちがいいか迷うなぁ……。私も両方着てみたい」
「結婚式場で両方着られるやん?どっちかで式挙げて、もう片方は写真だけ残すとか」
伊藤くんとの結婚準備の真っ只中の葉月は、具体的なアドバイスをしてくれた。
「思いきって2回式挙げるのもありやで。1回目は二人だけとか身内だけでこぢんまりして、2回目は親戚とか友人とか呼んで披露宴もするねん。ほんで職場結婚で新郎新婦の部署が別々の人は、同僚の人数が多いから、だいたいみんな二次会だけ呼ぶやろ」
式場選びは雑誌やネットなどで調べて、いくつか候補をあげて回ってから決めた方がいいとか、料理や引き出物を選ぶときは親戚のことも考えて両家の両親の意見も取り入れた方がいいとか、招待客のリストは早めに作っておいた方がいいとか、二次会の幹事は友人に任せるなど、葉月は華やかさとはかけ離れたことを教えてくれた。
「なるほど。考えなきゃいけないことがいろいろあるんだね。潤さんと一緒に両親とも相談してみる」
いつかそのうち私も結婚するんだろうなと思っていたときには淡い憧れしかなかった結婚式も、いざ現実となるといろいろ大変なようだ。
「そう言えば……結婚したってことは、もう佐野じゃないんだな。俺、これからなんて呼べばいいんだろう?『三島』って言うと潤くんのことも呼び捨てにしてるみたいし……勝手に『志織』って呼ぶと潤くんににらまれそうだから……『奥さん』……いや、やっぱ『三島さんの奥さん』かな?」
冷やかしなのか真面目に言っているのか、伊藤くんは首をかしげて考えている。
「それを言うと葉月だって結婚したら木村じゃなくなるでしょ?潤さんも葉月のこと『伊藤さんの奥さん』って呼ぶの?」
「潤くんは上司だから、そこは『伊藤』で良くないか?俺のことは『志岐』って呼ぶんだから」
「あっそうか、たしかにそうだね。私のことは『佐野』でも『志織』でも、伊藤くんが呼びやすいように呼んでくれたらいいよ」
そう言ったあと、潤さんと葉月が眉間にシワを寄せていることに気付いた。
「『佐野』のままか『三島さん』が妥当じゃないか」
「どうしても名前で呼びたいんやったら、玲司みたいに『志織さん』って呼べばええねん」
どうやら選択肢に『志織』は入っていないらしい。
二人とも伊藤くんが私のことを『志織』と呼ぶのは面白くないようだ。
こんな些細なことでヤキモチを焼いているのだとすると、潤さんも葉月も、やっぱりかわいいと思う。
「じゃあ『佐野』のままでいいか」
「いいんじゃない?」
私たちがそんな話をしている間、瀧内くんは黙々と箸を進めていた。
こういう話にはあまり興味がなさそうではあるけれど、瀧内くんも結婚とか将来のことを考えたりはするんだろうか。
それ以前に、瀧内くんに好きな人とか彼女がいると言う話は一度も聞いたことがない。
もしいるとしたら、普段はクールな瀧内くんも彼女の前では甘くなったりするのかなとか、このきれいに整った顔をフニャッとさせたり、甘い言葉を囁いたりするのかな、などと思ったりする。
一度考え始めると気になってしょうがないけど、瀧内くんの性格を考えると自分から進んでそんな話はしそうにないし、思いきってさりげなく聞いてみようか。
瀧内くんが食事を終えて箸を置いたタイミングで、私は思いきって口を開く。
「そう言えば……一度も聞いたことないけど、瀧内くんって彼女とか好きな人はいるの?」
思いきった私の質問に、潤さんも伊藤くんも葉月も驚いて目を大きく見開いている。
瀧内くんの雰囲気がそうさせないのか、やっぱりみんな直接聞いたことはないらしい。
差し詰め私はチャレンジャーってとこだろうか。
瀧内くんは食後のお茶をすすりながら、私の方を横目でチラッと見た。
『くだらんこと聞きやがって!』とか思われてたりして……。
怒られることを覚悟で作り笑いを浮かべたけれど、おそらく私の顔はかなりひきつっているだろう。
『いません』と端的に答えるか、もしかして無言でやり過ごされるのかと思ったけれど、意外なことに瀧内くんは口から湯飲みを離して「いますよ」と答えた。
「……いるの?」
「ええ、彼女ではありませんけど……妻がひとり」
「へぇ、そうなんだ。妻がひとりね。へぇ、妻が…………えぇっ、妻?!」
0
お気に入りに追加
429
あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語

甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
深冬 芽以
恋愛
あらすじ
俵理人《たわらりひと》34歳、職業は秘書室長兼社長秘書。
女は扱いやすく、身体の相性が良ければいい。
結婚なんて冗談じゃない。
そう思っていたのに。
勘違いストーカー女から逃げるように引っ越したマンションで理人が再会したのは、過去に激しく叱責された女。
年上で子持ちのデキる女なんて面倒くさいばかりなのに、つい関わらずにはいられない。
そして、互いの利害の一致のため、偽装恋人関係となる。
必要な時だけ恋人を演じればいい。
それだけのはずが……。
「偽装でも、恋人だろ?」
彼女の甘い香りに惹き寄せられて、抗えない――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる