社内恋愛狂想曲

櫻井音衣

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社内恋愛終了のお知らせ

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食事をしながら、みんなは私と潤さんにいろいろと尋ねてきた。

「結婚式はどうするん?」
「その辺はまだこれからゆっくり相談して決めるつもりだけど……潤さんは神前式がいいんだよね?」
「いや、神前式にこだわりはないよ。ただ志織は和装が似合いそうだから白無垢がいいかなって思ってただけ。でもやっぱりウエディングドレス姿も一度は見てみたいから迷うんだよな」

潤さんがそう答えると、みんなはニヤニヤ笑いながら潤さんをみた。
その視線に気付いた潤さんは怪訝な顔をして箸を止める。

「……なんだよ?」
「いやぁ……それはノロケなのかなぁって」

伊藤くんに冷やかされ、潤さんはわざとらしく咳払いをする。

「志織はどっちがええの?」
「どっちがいいか迷うなぁ……。私も両方着てみたい」
「結婚式場で両方着られるやん?どっちかで式挙げて、もう片方は写真だけ残すとか」

伊藤くんとの結婚準備の真っ只中の葉月は、具体的なアドバイスをしてくれた。

「思いきって2回式挙げるのもありやで。1回目は二人だけとか身内だけでこぢんまりして、2回目は親戚とか友人とか呼んで披露宴もするねん。ほんで職場結婚で新郎新婦の部署が別々の人は、同僚の人数が多いから、だいたいみんな二次会だけ呼ぶやろ」

式場選びは雑誌やネットなどで調べて、いくつか候補をあげて回ってから決めた方がいいとか、料理や引き出物を選ぶときは親戚のことも考えて両家の両親の意見も取り入れた方がいいとか、招待客のリストは早めに作っておいた方がいいとか、二次会の幹事は友人に任せるなど、葉月は華やかさとはかけ離れたことを教えてくれた。

「なるほど。考えなきゃいけないことがいろいろあるんだね。潤さんと一緒に両親とも相談してみる」

いつかそのうち私も結婚するんだろうなと思っていたときには淡い憧れしかなかった結婚式も、いざ現実となるといろいろ大変なようだ。

「そう言えば……結婚したってことは、もう佐野じゃないんだな。俺、これからなんて呼べばいいんだろう?『三島』って言うと潤くんのことも呼び捨てにしてるみたいし……勝手に『志織』って呼ぶと潤くんににらまれそうだから……『奥さん』……いや、やっぱ『三島さんの奥さん』かな?」

冷やかしなのか真面目に言っているのか、伊藤くんは首をかしげて考えている。

「それを言うと葉月だって結婚したら木村じゃなくなるでしょ?潤さんも葉月のこと『伊藤さんの奥さん』って呼ぶの?」
「潤くんは上司だから、そこは『伊藤』で良くないか?俺のことは『志岐』って呼ぶんだから」
「あっそうか、たしかにそうだね。私のことは『佐野』でも『志織』でも、伊藤くんが呼びやすいように呼んでくれたらいいよ」

そう言ったあと、潤さんと葉月が眉間にシワを寄せていることに気付いた。

「『佐野』のままか『三島さん』が妥当じゃないか」
「どうしても名前で呼びたいんやったら、玲司みたいに『志織さん』って呼べばええねん」

どうやら選択肢に『志織』は入っていないらしい。
二人とも伊藤くんが私のことを『志織』と呼ぶのは面白くないようだ。
こんな些細なことでヤキモチを焼いているのだとすると、潤さんも葉月も、やっぱりかわいいと思う。

「じゃあ『佐野』のままでいいか」
「いいんじゃない?」

私たちがそんな話をしている間、瀧内くんは黙々と箸を進めていた。
こういう話にはあまり興味がなさそうではあるけれど、瀧内くんも結婚とか将来のことを考えたりはするんだろうか。
それ以前に、瀧内くんに好きな人とか彼女がいると言う話は一度も聞いたことがない。
もしいるとしたら、普段はクールな瀧内くんも彼女の前では甘くなったりするのかなとか、このきれいに整った顔をフニャッとさせたり、甘い言葉を囁いたりするのかな、などと思ったりする。
一度考え始めると気になってしょうがないけど、瀧内くんの性格を考えると自分から進んでそんな話はしそうにないし、思いきってさりげなく聞いてみようか。
瀧内くんが食事を終えて箸を置いたタイミングで、私は思いきって口を開く。

「そう言えば……一度も聞いたことないけど、瀧内くんって彼女とか好きな人はいるの?」

思いきった私の質問に、潤さんも伊藤くんも葉月も驚いて目を大きく見開いている。
瀧内くんの雰囲気がそうさせないのか、やっぱりみんな直接聞いたことはないらしい。
差し詰め私はチャレンジャーってとこだろうか。
瀧内くんは食後のお茶をすすりながら、私の方を横目でチラッと見た。
『くだらんこと聞きやがって!』とか思われてたりして……。
怒られることを覚悟で作り笑いを浮かべたけれど、おそらく私の顔はかなりひきつっているだろう。
『いません』と端的に答えるか、もしかして無言でやり過ごされるのかと思ったけれど、意外なことに瀧内くんは口から湯飲みを離して「いますよ」と答えた。

「……いるの?」
「ええ、彼女ではありませんけど……妻がひとり」
「へぇ、そうなんだ。妻がひとりね。へぇ、妻が…………えぇっ、妻?!」

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