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社内恋愛終了のお知らせ
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この店では結婚指輪は私の指に合う8号サイズも用意してあると言うことだったので、試しに二人で指につけてみることにした。
潤さんは薬指に指輪をつけた左手を少し照れくさそうに眺めている。
だけど口元がずっとゆるんでいるところを見ると、かなり嬉しいのだろう。
私は好きな人とペアの指輪をつけるなんて初めてで、それが潤さんとの結婚指輪だと言うことがとても嬉しい。
「これすごくいい感じ。潤さんも気に入った?」
薬指に指輪をつけた左手を見せながら尋ねると、潤さんも同じように私に左手を見せる。
「志織が気に入ったのにしよう。俺はきっとどんな指輪でも、志織との結婚指輪なら嬉しいんだ」
不意討ちの甘い言葉に私が顔を赤らめていると、ゆうこさんがそろえた指先で口元を隠して上品に笑う。
「うふふ……とっても仲良しで素敵ですね」
ゆうこさんが見ている前で甘い言葉を言われるのは照れくさいけれど、潤さんがそんな風に思ってくれていることは本当に嬉しかった。
「この指輪でしたら、シンプルなデザインなので年齢を重ねても違和感なく手に馴染むと思います。重ね付けする場合は先に結婚指輪、その上に婚約指輪をつけてください」
言われた通り結婚指輪の上に婚約指輪をつけてみると、先ほどより指周りのゆとりが少なくなったように思う。
こうして重ねてつけるためにセットで作られたのかと思うほどしっくりくる。
「うん、すごくいい。志織、この指輪にしようか」
「そうだね、これがいい」
ゆうこさんは二人で選んだ指輪にどんな文字を刻印するのかと私たちに尋ねた。
一般的には結婚記念日や相手の名前などを入れるそうなので、私たちも今日の日付と相手の名前を入れることにした。
文字を入れてもらうのなら指輪は仕上がり日までお預けかと思ったら、店の奥に刻印する機械があるので今すぐできるらしい。
ゆうこさんは私たちの選んだ指輪を持って店の奥に入って行く。
待っている間、潤さんも先ほど行った店で婚約指輪に刻印してもらったと言うので、指輪を外して裏側を見てみる。
「『All the way together』……?」
「これからの人生を『共に歩もう』って意味。志織、ずっと一緒にいような」
潤さんはそっと私の右手を握って照れくさそうに呟いた。
「うん……ずっとね」
手を握り返して答えると、潤さんは愛しそうに目を細めて微笑んだ。
私たちはお互いの手を握り、これから先の長い人生を共に歩むことを誓い合う。
千絵ちゃんが言っていたように、私も何十年も先の天寿をまっとうするときに、この人を選んで良かったと思える人生が送れるといいなと思った。
それからしばらく経って、刻印してもらった結婚指輪をつけて店を出たあと、ゆうこさんに家まで送ってもらった。
時刻はすでに午後6時半になろうとしている。
『上がってお茶だけでも』と勧めたけれど、ゆうこさんは家に帰って晩御飯の支度をすると言って、そのまま帰って行った。
二人で家の中に入ると、葉月はキッチンで晩御飯の用意をしていて、瀧内くんは葉月の隣で料理をお皿に盛り付け、伊藤くんはリビングのテーブルを拭いていた。
「お帰りなさい」
私たちの姿に気付いたみんなは、手を止めて私たちの方を振り返る。
「ただいま。遅くなってすまない。みんなありがとな」
「ちょうど今晩御飯できたとこなんです。すぐ用意しますんで、座って待っててください」
私と潤さんがコートを脱いで洗面所で手を洗っている間に、できたばかりの料理をみんながリビングのテーブルに並べて用意してくれる。
「今日はハンバーグか。うまそうだな」
「多めに作ってありますんで、よかったらおかわりしてくださいね」
食事を始めようとテーブルを囲んだとき、違和感を覚えて首をかしげた。
私の隣には潤さん、その向かいには葉月と瀧内くん、そして伊藤くんは瀧内くんの隣に座っている。
たしか伊藤くんはいつも葉月の隣に座っていたはずだ。
二人の間にはさまれた瀧内くんはいつもに増して無表情で、黙って箸を手に取った。
「なんか今日はいつもと席が違うね」
私が何気なく尋ねると、葉月は少し眉間にシワを寄せてハンバーグソースを手に取る。
「そうか?」
「うん、いつもは葉月の隣には伊藤くんが座るでしょ?」
「そんなん別に決まってるわけやないしな」
葉月の言葉を聞いた伊藤くんは、仏頂面でハンバーグを切り分けている。
そして瀧内くんはサラダのレタスをつつきながら大きなため息をついた。
これは葉月と伊藤くんの間で何かあったに違いない。
「んー……?何かあったのかなー……?」
「別になんもないよ」
葉月が答えると、伊藤くんは顔をしかめてちらっと葉月の方を見る。
「まったく何もないよ、俺はな」
「俺はな、ってなんやねん!私かてなんもないわ!」
なんにもないと言う割には、葉月も伊藤くんも相当機嫌が悪そうだ。
瀧内くんは横目で葉月と伊藤くんを交互に見てまたため息をついた。
潤さんは薬指に指輪をつけた左手を少し照れくさそうに眺めている。
だけど口元がずっとゆるんでいるところを見ると、かなり嬉しいのだろう。
私は好きな人とペアの指輪をつけるなんて初めてで、それが潤さんとの結婚指輪だと言うことがとても嬉しい。
「これすごくいい感じ。潤さんも気に入った?」
薬指に指輪をつけた左手を見せながら尋ねると、潤さんも同じように私に左手を見せる。
「志織が気に入ったのにしよう。俺はきっとどんな指輪でも、志織との結婚指輪なら嬉しいんだ」
不意討ちの甘い言葉に私が顔を赤らめていると、ゆうこさんがそろえた指先で口元を隠して上品に笑う。
「うふふ……とっても仲良しで素敵ですね」
ゆうこさんが見ている前で甘い言葉を言われるのは照れくさいけれど、潤さんがそんな風に思ってくれていることは本当に嬉しかった。
「この指輪でしたら、シンプルなデザインなので年齢を重ねても違和感なく手に馴染むと思います。重ね付けする場合は先に結婚指輪、その上に婚約指輪をつけてください」
言われた通り結婚指輪の上に婚約指輪をつけてみると、先ほどより指周りのゆとりが少なくなったように思う。
こうして重ねてつけるためにセットで作られたのかと思うほどしっくりくる。
「うん、すごくいい。志織、この指輪にしようか」
「そうだね、これがいい」
ゆうこさんは二人で選んだ指輪にどんな文字を刻印するのかと私たちに尋ねた。
一般的には結婚記念日や相手の名前などを入れるそうなので、私たちも今日の日付と相手の名前を入れることにした。
文字を入れてもらうのなら指輪は仕上がり日までお預けかと思ったら、店の奥に刻印する機械があるので今すぐできるらしい。
ゆうこさんは私たちの選んだ指輪を持って店の奥に入って行く。
待っている間、潤さんも先ほど行った店で婚約指輪に刻印してもらったと言うので、指輪を外して裏側を見てみる。
「『All the way together』……?」
「これからの人生を『共に歩もう』って意味。志織、ずっと一緒にいような」
潤さんはそっと私の右手を握って照れくさそうに呟いた。
「うん……ずっとね」
手を握り返して答えると、潤さんは愛しそうに目を細めて微笑んだ。
私たちはお互いの手を握り、これから先の長い人生を共に歩むことを誓い合う。
千絵ちゃんが言っていたように、私も何十年も先の天寿をまっとうするときに、この人を選んで良かったと思える人生が送れるといいなと思った。
それからしばらく経って、刻印してもらった結婚指輪をつけて店を出たあと、ゆうこさんに家まで送ってもらった。
時刻はすでに午後6時半になろうとしている。
『上がってお茶だけでも』と勧めたけれど、ゆうこさんは家に帰って晩御飯の支度をすると言って、そのまま帰って行った。
二人で家の中に入ると、葉月はキッチンで晩御飯の用意をしていて、瀧内くんは葉月の隣で料理をお皿に盛り付け、伊藤くんはリビングのテーブルを拭いていた。
「お帰りなさい」
私たちの姿に気付いたみんなは、手を止めて私たちの方を振り返る。
「ただいま。遅くなってすまない。みんなありがとな」
「ちょうど今晩御飯できたとこなんです。すぐ用意しますんで、座って待っててください」
私と潤さんがコートを脱いで洗面所で手を洗っている間に、できたばかりの料理をみんながリビングのテーブルに並べて用意してくれる。
「今日はハンバーグか。うまそうだな」
「多めに作ってありますんで、よかったらおかわりしてくださいね」
食事を始めようとテーブルを囲んだとき、違和感を覚えて首をかしげた。
私の隣には潤さん、その向かいには葉月と瀧内くん、そして伊藤くんは瀧内くんの隣に座っている。
たしか伊藤くんはいつも葉月の隣に座っていたはずだ。
二人の間にはさまれた瀧内くんはいつもに増して無表情で、黙って箸を手に取った。
「なんか今日はいつもと席が違うね」
私が何気なく尋ねると、葉月は少し眉間にシワを寄せてハンバーグソースを手に取る。
「そうか?」
「うん、いつもは葉月の隣には伊藤くんが座るでしょ?」
「そんなん別に決まってるわけやないしな」
葉月の言葉を聞いた伊藤くんは、仏頂面でハンバーグを切り分けている。
そして瀧内くんはサラダのレタスをつつきながら大きなため息をついた。
これは葉月と伊藤くんの間で何かあったに違いない。
「んー……?何かあったのかなー……?」
「別になんもないよ」
葉月が答えると、伊藤くんは顔をしかめてちらっと葉月の方を見る。
「まったく何もないよ、俺はな」
「俺はな、ってなんやねん!私かてなんもないわ!」
なんにもないと言う割には、葉月も伊藤くんも相当機嫌が悪そうだ。
瀧内くんは横目で葉月と伊藤くんを交互に見てまたため息をついた。
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