社内恋愛狂想曲

櫻井音衣

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怪我とプリンの巧妙?

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「あ、あ、愛の巣って……!」

その言葉は同棲よりもっといやだ……!
もしかして伊藤くんと瀧内くんは、私と潤さんを数時間に一度は冷やかさないと気が済まない生き物なんだろうか?
私はまた顔を赤らめ、黙って下を向く。
潤さんは私の頭をポンポンと優しく叩きながら、また大きなため息をついた。

「バカなことばっかり言ってんじゃないよ。まぁ……さすがに毎日入り浸られるのは困るけどな。おまえらバカみたいに食うから。志織もいちいちこいつらの言うこと気にしてたらきりがないぞ」
「はい……」

すぐに真に受けて恥ずかしがってしまう私とは違って、いつの間にか潤さんは冷やかされることに耐性がついたようだ。

「志岐も玲司も嬉しいのはわかるけど、ほどほどにしときや。志織、ごめんな。こいつらあとで私が責任持ってシメとくから、堪忍やで」
「う……うん……」

葉月はいつから二人のボスになったのだ?
正座させられ葉月に説教されて小さくなっている二人の姿を想像して、思わず吹き出しそうになった。

「とりあえずビールですね。志岐くん、早くビールとグラス持ってきて」

瀧内くんがお好み焼きを眺めながら伊藤くんの方も見ずに指図すると、伊藤くんはリビングに戻って来て瀧内くんの耳を引っ張った。

「いてっ」
「お・ま・え・も・て・つ・だ・え」

伊藤くんが耳から手を離すと、瀧内くんは耳をさすりながらしぶしぶ立ち上がる。

「しょうがないな。今回だけですよ」
「なんでだよ!おまえももっと俺に遠慮しろよ!」

なんだかんだ減らず口を叩きながらも、仲の良い二人のやり取りがあまりにもおかしくて、ついに吹き出してしまった。
伊藤くんはニヤニヤ笑いながら瀧内くんの腕を肘で小突く。

「ほら見ろ玲司、笑われてるぞ」
「笑われてるのは僕じゃなくて志岐くんでしょう」

瀧内くんが真顔でやり返すと、潤さんがまたまた呆れ顔でため息をついた。
今日何度目のため息だろうか。

「笑われてんのはおまえら二人だよ」
「……なんでだろ?」
「さぁ……?」

この3人がいとこ同士であることも、3人集まるとこんなに面白いと言うことも、ただの同僚だった数か月前まではまったく知らなかった。
彼らがもうすぐ私の身内になるのだと思うと、とても楽しみな気持ちになる。
伊藤くんと瀧内くんが用意してくれたビールで乾杯してひと息つくと、葉月がフライ返しでお好み焼きの焼け具合を確かめた。

「よっしゃ、そろそろひっくり返そか」

葉月はお好み焼き屋さんの使う大きなテコの代わりにフライ返しをふたつ使って、クルリとお好み焼きをひっくり返した。
ほどよい焼き色がついて、それだけでもうすでに美味しそうだ。
その様子を食い入るように見つめていた伊藤くんと瀧内くんが、また「おおーっ」と歓声をあげる。

「さすがですね、葉月さん」
「そんなんあたりまえやん、子どもの頃からやってるしな」

大阪では幼稚園くらいの子どもでも、タコ焼きをクルッと上手に回すと聞いたことがあるけど、大阪の家庭ではお好み焼きの英才教育もやっているんだろうか。
もしかしたら葉月の子どもも、小さな頃から『粉もん』の極意を仕込まれるのかも知れない。
葉月は焼き上がったお好み焼きにソースを塗り、マヨネーズとかつお節、青のりをかけて格子状に切り分けお皿に取り分けた。

「変わった切り方するんだね」
「お好みの切り方て言うたらこれに決まってるやろ?」
「丸い物を均等に分けるには、放射状に切るんだと思ってたけど」
「それは『ピザ切り』っちゅうやっちゃな。お好みの切り方は絶対これやねん」

関西人はお好み焼きの味と作り方だけでなく、切り方にまでこだわるらしい。

「ほら、どんどん焼くから冷めんうちに食べや」

葉月は大阪の世話焼きなオカンのように、私たちにお好み焼きの乗ったお皿を差し出した。
みんなで「いただきます」と手を合わせ、熱々のお好み焼きを口に運ぶ。

「……美味しい!」
「ホントだ、店で食べるのよりうまい!」
「葉月さん、美味しいです!お店出せるんじゃないですか?」

私と潤さんと瀧内くんが、あまりの美味しさに目を丸くして声をあげると、なぜか伊藤くんが得意気な顔で私たちを見た。

「だろ?葉月のお好み焼き、めちゃくちゃうまいんだ」
「あんたなんにもしてへんやん。なんであんたがえらそうに言うねん」
「なんでって、葉月はもうすぐ俺の奥さんになるから」
「なんやそら。キャベツくらい切れるようになってから言え」

伊藤くんと葉月の夫婦漫才さながらのやり取りに、また笑いが込み上げた。
二人が結婚して夫婦になったら、きっと他愛ない会話も漫才みたいに面白くて、笑いの絶えない家庭になるんだろうな。
そんなことを思いながらみんなで食べた葉月特製のお好み焼きは、今まで食べたお好み焼きの中で一番美味しかった。


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