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怪我とプリンの巧妙?
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「志岐……ホンマにあんたは気が利かんやっちゃな……。そっとしといたりぃや」
キッチンから顔を出した葉月も呆れ顔で伊藤くんを責めた。
もしかしたら葉月も気付いていたのにそっとしておいてくれたのかと思うと、余計に恥ずかしい。
「あー……ごめんごめん、邪魔して悪かったよ。俺たちのことは気にしないでいいから、どうぞ続けて」
「続けられるか!」
さすがにこれ以上は続けられるわけもなく、潤さんは松葉杖をついてキッチンへ向かう。
私もこの場所から離れたいけれどキッチンへ行っても邪魔になるだけだし、どうすれば良いものかと下を向いたまま考えていると、瀧内くんが私のそばに近付いてきた。
「これ、昨日預かっていた志織さんの荷物です。僕が運びますから、とりあえず2階の空いている部屋に片付けますか?」
「あ……うん、そうしようかな……」
瀧内くんの後ろを歩きながら、潤さんが事故にあったことを知った日に瀧内くんが言った言葉をふと思い出した。
たいした意味はなかったのかも知れないけれど、私はずっとその言葉がなんとなく心に引っ掛かっている。
「あのね、瀧内くんは覚えてないかも知れないんだけど……瀧内くんの言ったことがずっと気になってるの」
「僕の言ったことが?」
瀧内くんはあのときたしかに、潤さんが事故にあって入院していることを、私には『あえて知らせなかった』と言った。
その『あえて』の意味を知りたいと言うと、瀧内くんは潤さんの寝室の隣の部屋のドアを開けて、微かに笑みを浮かべた。
「そうですね。志織さんにはあえて知らせなかったんです。志織さんが事故で怪我をしたことも、潤さんにはあえて知らせませんでした」
「それはどうして?」
瀧内くんは私の荷物の入ったバッグを床に置いて、クローゼットのドアを開ける。
「潤さんと志織さんがお互いに好きなのも前からわかっていたし、二次会のあとにおそらくお互いの気持ちを伝え合っただろうと思ってたんです」
「うん……まぁ、瀧内くんの推測通りだよ」
床に座ってバッグを開けようと、たどたどしい手付きでファスナーを引っ張りながら答えると、瀧内くんは私のそばに近付いてきてしゃがみ、難なくファスナーを開けてくれた。
「事故のあとで潤さんと会って話したときも、本来なら真っ先に志織さんに知らせてくれって言うはずなのに、心配かけたくないから志織さんには知らせないでくれって潤さんは言うし……志織さんが出張から帰ってくる日も知ってたはずなのに、翌日になっても潤さんの口からは志織さんの名前すら出てこなかったんです。二人の間に何か良くないことがあったんだなって思うでしょ?例えば気持ちのすれ違いとか、激しい温度差みたいなものとか」
私が瀧内くんの立場だったら、そんなところまでは考えが及ばないだろう。
それだけのことでそこまで推測する瀧内くんの洞察力に、畏怖の念に近いものを感じて背筋が寒くなった。
「志織さんは潤さんのことを遠回しに聞こうとするから分かりやすかったですね。少しカマをかけてみたら簡単に口を割ったので、おかげで確信が持てました」
カマをかけたと言うのは、潤さんが私にフラれたと言ったと嘘をついたことを言っているのだろう。
あっさり信じてしまった私は、相変わらずチョロいと思われたに違いない。
「それがどうして事故のことを知らせないって言う判断に行き着くの?」
「二人とも周りに気を使って、自分のことはいろいろあきらめようとするじゃないですか。僕らもいつまでもそばにいて二人の背中を押し続けられるわけではないので、お互いが相手のことを本当に好きなら、自分たちで解決してもらいたいなと思ったんですよ。それで、相手の状況もわからず会いたくても会えない状態が続いたらどうするのかなと」
何も言わなくても瀧内くんにはお見通しだったようだ。
結局私は瀧内くんの思惑通り、潤さんとまったく連絡が取れなくなったことにうろたえ、親や親しい同僚の前で取り乱して泣きわめいて、私にとって一番大切なのは、何があっても潤さんと一緒にいることだと気付いた。
それに関しては感謝するけれど、やっぱり瀧内くんは私にとって、得体の知れない謎多き存在だと思う。
「つまり私はずっと瀧内くんの手のひらで転がされてたってことだね。……悔しいけど」
「なんにせよ、二人が収まるところに収まってくれて良かったです。僕は潤さんには本当に幸せになって欲しいので、ずっとそばで見守って来ましたけど……これからは潤さんのことは志織さんにお願いしますね」
キッチンから顔を出した葉月も呆れ顔で伊藤くんを責めた。
もしかしたら葉月も気付いていたのにそっとしておいてくれたのかと思うと、余計に恥ずかしい。
「あー……ごめんごめん、邪魔して悪かったよ。俺たちのことは気にしないでいいから、どうぞ続けて」
「続けられるか!」
さすがにこれ以上は続けられるわけもなく、潤さんは松葉杖をついてキッチンへ向かう。
私もこの場所から離れたいけれどキッチンへ行っても邪魔になるだけだし、どうすれば良いものかと下を向いたまま考えていると、瀧内くんが私のそばに近付いてきた。
「これ、昨日預かっていた志織さんの荷物です。僕が運びますから、とりあえず2階の空いている部屋に片付けますか?」
「あ……うん、そうしようかな……」
瀧内くんの後ろを歩きながら、潤さんが事故にあったことを知った日に瀧内くんが言った言葉をふと思い出した。
たいした意味はなかったのかも知れないけれど、私はずっとその言葉がなんとなく心に引っ掛かっている。
「あのね、瀧内くんは覚えてないかも知れないんだけど……瀧内くんの言ったことがずっと気になってるの」
「僕の言ったことが?」
瀧内くんはあのときたしかに、潤さんが事故にあって入院していることを、私には『あえて知らせなかった』と言った。
その『あえて』の意味を知りたいと言うと、瀧内くんは潤さんの寝室の隣の部屋のドアを開けて、微かに笑みを浮かべた。
「そうですね。志織さんにはあえて知らせなかったんです。志織さんが事故で怪我をしたことも、潤さんにはあえて知らせませんでした」
「それはどうして?」
瀧内くんは私の荷物の入ったバッグを床に置いて、クローゼットのドアを開ける。
「潤さんと志織さんがお互いに好きなのも前からわかっていたし、二次会のあとにおそらくお互いの気持ちを伝え合っただろうと思ってたんです」
「うん……まぁ、瀧内くんの推測通りだよ」
床に座ってバッグを開けようと、たどたどしい手付きでファスナーを引っ張りながら答えると、瀧内くんは私のそばに近付いてきてしゃがみ、難なくファスナーを開けてくれた。
「事故のあとで潤さんと会って話したときも、本来なら真っ先に志織さんに知らせてくれって言うはずなのに、心配かけたくないから志織さんには知らせないでくれって潤さんは言うし……志織さんが出張から帰ってくる日も知ってたはずなのに、翌日になっても潤さんの口からは志織さんの名前すら出てこなかったんです。二人の間に何か良くないことがあったんだなって思うでしょ?例えば気持ちのすれ違いとか、激しい温度差みたいなものとか」
私が瀧内くんの立場だったら、そんなところまでは考えが及ばないだろう。
それだけのことでそこまで推測する瀧内くんの洞察力に、畏怖の念に近いものを感じて背筋が寒くなった。
「志織さんは潤さんのことを遠回しに聞こうとするから分かりやすかったですね。少しカマをかけてみたら簡単に口を割ったので、おかげで確信が持てました」
カマをかけたと言うのは、潤さんが私にフラれたと言ったと嘘をついたことを言っているのだろう。
あっさり信じてしまった私は、相変わらずチョロいと思われたに違いない。
「それがどうして事故のことを知らせないって言う判断に行き着くの?」
「二人とも周りに気を使って、自分のことはいろいろあきらめようとするじゃないですか。僕らもいつまでもそばにいて二人の背中を押し続けられるわけではないので、お互いが相手のことを本当に好きなら、自分たちで解決してもらいたいなと思ったんですよ。それで、相手の状況もわからず会いたくても会えない状態が続いたらどうするのかなと」
何も言わなくても瀧内くんにはお見通しだったようだ。
結局私は瀧内くんの思惑通り、潤さんとまったく連絡が取れなくなったことにうろたえ、親や親しい同僚の前で取り乱して泣きわめいて、私にとって一番大切なのは、何があっても潤さんと一緒にいることだと気付いた。
それに関しては感謝するけれど、やっぱり瀧内くんは私にとって、得体の知れない謎多き存在だと思う。
「つまり私はずっと瀧内くんの手のひらで転がされてたってことだね。……悔しいけど」
「なんにせよ、二人が収まるところに収まってくれて良かったです。僕は潤さんには本当に幸せになって欲しいので、ずっとそばで見守って来ましたけど……これからは潤さんのことは志織さんにお願いしますね」
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