214 / 268
Accidents will happen
18
しおりを挟む
父が言っていた、『潤くんは志織のことを信じきれていない』と言うのは、このことだったんだろうか。
いつも余計なことは言わない穏やかで優しい父が、潤さんの焦りや私に対する後ろめたさを見透かした上で厳しい一言を言ったのだとすると、あの父も母と同様にしたたかで、一筋縄ではいかない人なのかも知れない。
「そうなんだ……。だからあんなに急いでたの?」
「うん……。まぁ、志織は他の人と真逆の反応だったから余計に焦ったんだけどな」
「どうしても先入観が邪魔して……。母がそれに気付かせてくれたんだけど……」
「お母さんが?」
私は潤さんに、母がネットで検索してプリントアウトした潤さんのお父さんの記事を渡してくれたことと、記事を読んで母の言った通り自分の持っていた『大企業の社長』の先入観が覆ったことを話した。
「私の好きになった潤さんは、しっかりお父さんやおじいさんたちの心を受け継いでるんだなぁって思った。だから潤さんがまだ私と一緒にいることを望んでくれるなら、私はその気持ちに応えたいし、この先何があってもずっとそばにいて潤さんを支えていきたい」
今の私の精一杯の素直な想いを伝えると、潤さんはうつむいて私の右手を握り「ありがとう」と呟いた。
私の目には、潤さんが少し涙ぐんでいるように見えた。
「潤さん、もしかして泣いてるの?」
「……泣いてない」
潤さんは片手で私の頭を胸に抱き寄せて、その隙にもう片方の手で目元を拭った。
そして私の頬を両手で包み込み、まっすぐに私の目を見つめる。
「改めて言うよ。一生志織だけを愛して大切にするから、俺と結婚してください」
「はい、よろしくお願いします」
私が笑ってそう言うと、潤さんも嬉しそうに笑った。
「もう何があっても離さないからな」
「私も絶対に離れない」
抱きしめ合ってキスをしたあと、潤さんは「いてて……」と声をもらして肋骨を押さえる。
「もしかして痛いのずっと我慢してた?」
「うん、まぁ……ちょっとくらいはカッコつけないとって思って……」
「無理しなくていいのに」
私たちは額をくっつけながらお互いの痛々しい姿に苦笑いを浮かべた。
「カッコ悪いプロポーズだなぁ……」
「でもきっと何年経ってもずっと忘れないと思う」
「それならまぁいいか」
潤さんはベッドにもたれて、私の頭を優しく撫でる。
「事故にあって死ぬかもって思った瞬間に、志織の泣きそうな顔が浮かんだんだ。死ぬ前にもう一度会って謝りたいなとか、もっと一緒にいたかったなとか、俺の手で志織を幸せにしたかったなぁって」
人間が死を覚悟した瞬間に、心残りなことや大切な思い出が走馬灯のように蘇ると言うけれど、潤さんの脳裏をよぎったのは私のことだらけだったようだ。
そんなにも私のことを想ってくれていたのだと知って、嬉しさのあまり口元がゆるむ。
「病院のベッドの上で目が覚めたとき、せっかく命拾いしたんだからもう一度志織に好きだって言って、何年かかっても志織の気持ちを取り戻して、今度こそ絶対に志織を幸せにしようって思った」
「ありがとう……すごく嬉しい……」
後悔するばかりでなく、潤さんが前向きに私との未来を考えてくれていたのだと思うと嬉しくて、今度は涙が溢れた。
潤さんは私の涙を指先で拭って笑みを浮かべる。
「ずっと片想いだったこと考えたら、好きだって気持ちを伝えられたし、志織が好きだって言ってくれて、一度でもこの手で抱きしめられて、本当に幸せだったと思ってあきらめようとしたんだけど……あの幸せを知ったらそんな簡単にあきらめられるわけないよな。もっと志織を愛したい、もっともっと志織に愛されたいって欲が出てきちゃったから」
「うん……。私も前は潤さんが幸せになれるならと思ってあきらめようとしたけど、今は潤さんの思う幸せの中にいたいと思ってる。他の人が知らない潤さんをもっとたくさん知りたいし、一緒に幸せになりたい」
「なろうよ、二人で。いや……そのうち子どもができて家族が増えたら、もっと幸せかな」
「潤さん、気が早い……」
二人で描く未来はとてもあたたかく、穏やかで優しい。
他の人とは違う特別豪華な生活とか、誰もがうらやむようなステータスとか、そんなものは欲しいと思わない。
私が望むのはただひとつ、潤さんとお互いを想い、どんなときも支え合って、これからの生涯を共にすること。
それだけだ。
だから私は、今の気持ちを大事にしようと思う。
いつも余計なことは言わない穏やかで優しい父が、潤さんの焦りや私に対する後ろめたさを見透かした上で厳しい一言を言ったのだとすると、あの父も母と同様にしたたかで、一筋縄ではいかない人なのかも知れない。
「そうなんだ……。だからあんなに急いでたの?」
「うん……。まぁ、志織は他の人と真逆の反応だったから余計に焦ったんだけどな」
「どうしても先入観が邪魔して……。母がそれに気付かせてくれたんだけど……」
「お母さんが?」
私は潤さんに、母がネットで検索してプリントアウトした潤さんのお父さんの記事を渡してくれたことと、記事を読んで母の言った通り自分の持っていた『大企業の社長』の先入観が覆ったことを話した。
「私の好きになった潤さんは、しっかりお父さんやおじいさんたちの心を受け継いでるんだなぁって思った。だから潤さんがまだ私と一緒にいることを望んでくれるなら、私はその気持ちに応えたいし、この先何があってもずっとそばにいて潤さんを支えていきたい」
今の私の精一杯の素直な想いを伝えると、潤さんはうつむいて私の右手を握り「ありがとう」と呟いた。
私の目には、潤さんが少し涙ぐんでいるように見えた。
「潤さん、もしかして泣いてるの?」
「……泣いてない」
潤さんは片手で私の頭を胸に抱き寄せて、その隙にもう片方の手で目元を拭った。
そして私の頬を両手で包み込み、まっすぐに私の目を見つめる。
「改めて言うよ。一生志織だけを愛して大切にするから、俺と結婚してください」
「はい、よろしくお願いします」
私が笑ってそう言うと、潤さんも嬉しそうに笑った。
「もう何があっても離さないからな」
「私も絶対に離れない」
抱きしめ合ってキスをしたあと、潤さんは「いてて……」と声をもらして肋骨を押さえる。
「もしかして痛いのずっと我慢してた?」
「うん、まぁ……ちょっとくらいはカッコつけないとって思って……」
「無理しなくていいのに」
私たちは額をくっつけながらお互いの痛々しい姿に苦笑いを浮かべた。
「カッコ悪いプロポーズだなぁ……」
「でもきっと何年経ってもずっと忘れないと思う」
「それならまぁいいか」
潤さんはベッドにもたれて、私の頭を優しく撫でる。
「事故にあって死ぬかもって思った瞬間に、志織の泣きそうな顔が浮かんだんだ。死ぬ前にもう一度会って謝りたいなとか、もっと一緒にいたかったなとか、俺の手で志織を幸せにしたかったなぁって」
人間が死を覚悟した瞬間に、心残りなことや大切な思い出が走馬灯のように蘇ると言うけれど、潤さんの脳裏をよぎったのは私のことだらけだったようだ。
そんなにも私のことを想ってくれていたのだと知って、嬉しさのあまり口元がゆるむ。
「病院のベッドの上で目が覚めたとき、せっかく命拾いしたんだからもう一度志織に好きだって言って、何年かかっても志織の気持ちを取り戻して、今度こそ絶対に志織を幸せにしようって思った」
「ありがとう……すごく嬉しい……」
後悔するばかりでなく、潤さんが前向きに私との未来を考えてくれていたのだと思うと嬉しくて、今度は涙が溢れた。
潤さんは私の涙を指先で拭って笑みを浮かべる。
「ずっと片想いだったこと考えたら、好きだって気持ちを伝えられたし、志織が好きだって言ってくれて、一度でもこの手で抱きしめられて、本当に幸せだったと思ってあきらめようとしたんだけど……あの幸せを知ったらそんな簡単にあきらめられるわけないよな。もっと志織を愛したい、もっともっと志織に愛されたいって欲が出てきちゃったから」
「うん……。私も前は潤さんが幸せになれるならと思ってあきらめようとしたけど、今は潤さんの思う幸せの中にいたいと思ってる。他の人が知らない潤さんをもっとたくさん知りたいし、一緒に幸せになりたい」
「なろうよ、二人で。いや……そのうち子どもができて家族が増えたら、もっと幸せかな」
「潤さん、気が早い……」
二人で描く未来はとてもあたたかく、穏やかで優しい。
他の人とは違う特別豪華な生活とか、誰もがうらやむようなステータスとか、そんなものは欲しいと思わない。
私が望むのはただひとつ、潤さんとお互いを想い、どんなときも支え合って、これからの生涯を共にすること。
それだけだ。
だから私は、今の気持ちを大事にしようと思う。
0
お気に入りに追加
429
あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語

甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
深冬 芽以
恋愛
あらすじ
俵理人《たわらりひと》34歳、職業は秘書室長兼社長秘書。
女は扱いやすく、身体の相性が良ければいい。
結婚なんて冗談じゃない。
そう思っていたのに。
勘違いストーカー女から逃げるように引っ越したマンションで理人が再会したのは、過去に激しく叱責された女。
年上で子持ちのデキる女なんて面倒くさいばかりなのに、つい関わらずにはいられない。
そして、互いの利害の一致のため、偽装恋人関係となる。
必要な時だけ恋人を演じればいい。
それだけのはずが……。
「偽装でも、恋人だろ?」
彼女の甘い香りに惹き寄せられて、抗えない――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる