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Accidents will happen
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「ごめんな。志織が離れていくのが怖くて、だったら嫌われる前に俺から離れようって……。勝手なこと言うなって思うかも知れないけど……俺は志織が好きだよ。好きで好きで、どうしようもないくらい好きだから、ずっとそばにいて欲しい」
「うん……私も潤さんが好き。潤さんがいてくれたら、他になんにもいらないくらい大好き。ずっと一緒にいたいから…………潤さん、私と……結婚してください」
抱きしめられながら私がそう言うと、潤さんは慌てて私の肩をつかんで体から引き離し、覗き込むようにまじまじと私の顔を見た。
「……本気?」
「本気じゃなかったらこんなこと言わない」
じっと目を見つめ返すと、潤さんは少し戸惑った表情を見せる。
「でもほら……志織は俺の実家のことで……」
「うん、でももう大丈夫。何があっても潤さんを支えていく覚悟はできてるから」
私は今度こそ迷うことなくきっぱりと言い切った。
潤さんはまばたきするのも忘れて目を大きく見開いている。
そして少し目をそらして頬をかいた。
「そのことに関してなんだけど……実は志織に謝らないといけないことがあって……」
「えっ……?謝らないといけないことって……」
覚悟を決めて私からプロポーズしたのに、もしかして断られてしまうのかも知れないという不安がよぎる。
「ちゃんと話すから……とりあえず、座って」
一体何を言われるのかとビクビクしながら、そばにあったイスに座る。
「親父の後を継ぐ気はないってずっと言ってるのは本当のことなんだけど……実は今年に入ってからちょっと向こうの状況が変わって来て……」
潤さんは言葉を選びながら、潤さんが今置かれている状況と、潤さん自身の気持ちを話し始めた。
「あじさい堂は今、俺の祖父が会長で親父が社長なんだけど……」
潤さんのおじいさんは御歳91歳という高齢でありながら、業界最大手の企業の会長として精力的に仕事をこなしているそうだ。
しかし『寄る年波には勝てない』と本人が言うように、年々体力が衰え、些細なことでも体調を崩しやすくなってしまい、今年に入ってから『そろそろ隠居したい』と言い出したらしい。
おじいさんが会長職を退くと、現社長であるお父さんが会長職に就き、社長として後を継ぐのは当然社長の息子である潤さんだとお父さんは言っているようだ。
「それで俺に早く身を固めろって見合い話とか持ってくるようになって……俺は会社を継ぐ気も見合いする気もなかったから両方断り続けてたんだけど、うちの親父がかなり強引で、一度食事しようって騙されて見合いさせられたことがある」
お父さんはなかなか首を縦に振らない潤さんにしびれを切らしたのだろう。
なんとなくそのときの光景が目に浮かぶ。
お父さんの顔を立てるために見合いの席はそつなくやり過ごしたものの、潤さんはその見合い話を丁重にお断りしたそうだ。
その後、お父さんが用意した見合い話を断るなら、潤さん自身が選んだ相手を連れて来いと言われて途方にくれ、瀧内くんに『うっかり口を滑らせてしまった』と潤さんは言った。
「あのときはバレーの飲み会で『親が結婚しろってうるさい』ってぼやいたら、モナちゃんが立候補するとか言い出して困ってたのもあるし、ちょっと参ってたんだよな。それで玲司が『偽婚約者作戦で行こう』って言い出して……。俺は一応断ったんだけど、玲司が独断で強行して、志織を親に紹介したって言う……」
なるほど、それで今に至るわけか。
瀧内くんが私を偽婚約者に選んだのは、潤さんがずっと私を好きだったことに気付いていたからなんだと思う。
きっと瀧内くんも葉月と同じように、奥手な潤さんをじれったく思い、イライラしていたのだろう。
「それで親父は俺が志織と結婚して後を継ぐと思ってるし、俺も最近じいさんに会ったときに、三代続いた会社をよその人間の手には渡したくないとか、四代目として会社を守れるのは潤しかいないって拝み倒されてさ……。おばあちゃん子の玲司と同じで、俺もじいさんには弱いんだ。親父には育ててもらった恩もあるし、今の俺があるのはあの会社があってこそだから、無下に断れなくて……」
きっと今の潤さんの気持ちは、『お父さんの後を継いで代々続いてきた会社を守りたい』という方向に傾いて来ているのだと思う。
優しい潤さんのことだから、お父さんやおじいさんにそれだけ強く望まれたら、どうにかして期待に応えたいと思うのだろう。
潤さんがそんな家族思いの優しい人で良かったとつくづく思う。
「俺は昔から、親があじさい堂の社長だって知ったとたんに周りの見る目が変わるのがいやで、できるだけ知られないようにしてたんだ。志織がどう変わるのかが怖かったから、みんなに婚約者だって言ったのを利用して、早く結婚してお互いに後戻りできないようにしてしまおうって、ずるいこと考えてた。ホントにごめん」
「うん……私も潤さんが好き。潤さんがいてくれたら、他になんにもいらないくらい大好き。ずっと一緒にいたいから…………潤さん、私と……結婚してください」
抱きしめられながら私がそう言うと、潤さんは慌てて私の肩をつかんで体から引き離し、覗き込むようにまじまじと私の顔を見た。
「……本気?」
「本気じゃなかったらこんなこと言わない」
じっと目を見つめ返すと、潤さんは少し戸惑った表情を見せる。
「でもほら……志織は俺の実家のことで……」
「うん、でももう大丈夫。何があっても潤さんを支えていく覚悟はできてるから」
私は今度こそ迷うことなくきっぱりと言い切った。
潤さんはまばたきするのも忘れて目を大きく見開いている。
そして少し目をそらして頬をかいた。
「そのことに関してなんだけど……実は志織に謝らないといけないことがあって……」
「えっ……?謝らないといけないことって……」
覚悟を決めて私からプロポーズしたのに、もしかして断られてしまうのかも知れないという不安がよぎる。
「ちゃんと話すから……とりあえず、座って」
一体何を言われるのかとビクビクしながら、そばにあったイスに座る。
「親父の後を継ぐ気はないってずっと言ってるのは本当のことなんだけど……実は今年に入ってからちょっと向こうの状況が変わって来て……」
潤さんは言葉を選びながら、潤さんが今置かれている状況と、潤さん自身の気持ちを話し始めた。
「あじさい堂は今、俺の祖父が会長で親父が社長なんだけど……」
潤さんのおじいさんは御歳91歳という高齢でありながら、業界最大手の企業の会長として精力的に仕事をこなしているそうだ。
しかし『寄る年波には勝てない』と本人が言うように、年々体力が衰え、些細なことでも体調を崩しやすくなってしまい、今年に入ってから『そろそろ隠居したい』と言い出したらしい。
おじいさんが会長職を退くと、現社長であるお父さんが会長職に就き、社長として後を継ぐのは当然社長の息子である潤さんだとお父さんは言っているようだ。
「それで俺に早く身を固めろって見合い話とか持ってくるようになって……俺は会社を継ぐ気も見合いする気もなかったから両方断り続けてたんだけど、うちの親父がかなり強引で、一度食事しようって騙されて見合いさせられたことがある」
お父さんはなかなか首を縦に振らない潤さんにしびれを切らしたのだろう。
なんとなくそのときの光景が目に浮かぶ。
お父さんの顔を立てるために見合いの席はそつなくやり過ごしたものの、潤さんはその見合い話を丁重にお断りしたそうだ。
その後、お父さんが用意した見合い話を断るなら、潤さん自身が選んだ相手を連れて来いと言われて途方にくれ、瀧内くんに『うっかり口を滑らせてしまった』と潤さんは言った。
「あのときはバレーの飲み会で『親が結婚しろってうるさい』ってぼやいたら、モナちゃんが立候補するとか言い出して困ってたのもあるし、ちょっと参ってたんだよな。それで玲司が『偽婚約者作戦で行こう』って言い出して……。俺は一応断ったんだけど、玲司が独断で強行して、志織を親に紹介したって言う……」
なるほど、それで今に至るわけか。
瀧内くんが私を偽婚約者に選んだのは、潤さんがずっと私を好きだったことに気付いていたからなんだと思う。
きっと瀧内くんも葉月と同じように、奥手な潤さんをじれったく思い、イライラしていたのだろう。
「それで親父は俺が志織と結婚して後を継ぐと思ってるし、俺も最近じいさんに会ったときに、三代続いた会社をよその人間の手には渡したくないとか、四代目として会社を守れるのは潤しかいないって拝み倒されてさ……。おばあちゃん子の玲司と同じで、俺もじいさんには弱いんだ。親父には育ててもらった恩もあるし、今の俺があるのはあの会社があってこそだから、無下に断れなくて……」
きっと今の潤さんの気持ちは、『お父さんの後を継いで代々続いてきた会社を守りたい』という方向に傾いて来ているのだと思う。
優しい潤さんのことだから、お父さんやおじいさんにそれだけ強く望まれたら、どうにかして期待に応えたいと思うのだろう。
潤さんがそんな家族思いの優しい人で良かったとつくづく思う。
「俺は昔から、親があじさい堂の社長だって知ったとたんに周りの見る目が変わるのがいやで、できるだけ知られないようにしてたんだ。志織がどう変わるのかが怖かったから、みんなに婚約者だって言ったのを利用して、早く結婚してお互いに後戻りできないようにしてしまおうって、ずるいこと考えてた。ホントにごめん」
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