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カオス
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それから食事と後片付けを済ませ、誕生日に葉月からもらった高級ブランドの入浴剤を入れたお風呂に浸かった。
いい香りのする温かいお湯の中に、練習とその他諸々の今日の疲れが、体から溶け出していくようだ。
たったの一日なのに、いろいろありすぎて今日はとても長かった気がする。
お湯に浸かりながら今日の出来事を振り返ると、三島課長の甘い言葉まで思い出してしまった。
……『俺の隣にいて』とか、言うんだな。
『朝は志織の作った味噌汁が飲みたい』とか、『俺はやっぱり彼女を選ぶよ』とか言われたら、本当に私の婚約者なんじゃないかと妙な錯覚を起こしてしまいそうだ。
そういえば三島課長は、好きな人が自分を好きになってくれるのをもう悠長に待っていられないから、もっと相手の方から好きだと言わせる努力をした上で待つとか言っていた。
きっと私の知らないところでは、好きな人に対しても私に言ったのと同じように……いや、演技であれなら、本物の彼女にはもっと甘いのかも知れない。
そんなことを考えながら、ぬるめのお湯にゆっくりと浸かった。
お風呂から上がっても上気した肌からは入浴剤のいい香りがして、なんとなくよく眠れそうな気がする。
ついでに念入りにスキンケアをして部屋に戻ると、スマホのランプが点滅していた。
画面を開いて確認すると、1時間ほど前に三島課長からの着信履歴が残っていて、トークのメッセージも届いていた。
【今日はお疲れ様。面倒なことに巻き込んで、イヤな思いさせてごめん。次の練習は水曜日です。勝手なお願いだけど、今日のことで気を悪くして辞めたりしないで、できればこれからも続けて欲しい】
三島課長は私がモナちゃんにいろいろ言われたことを気にして電話をくれたのだと思う。
私がお風呂に入った直後で電話に出られなかったから、メッセージを送ってくれたのだろう。
本当に誰に対しても気遣いのできる優しい人だ。
だけど彼女の立場なら、これだけ優しいと無自覚でたくさんの女性に気を持たせているんじゃないかと、少し心配になるかも知れない。
かつての葉月の気苦労がなんとなくわかる気がする。
電話した方がいいかなと思ったけれど、時刻はもう11時になろうとしている。
もう寝ているかも知れないし、こんな遅い時間に電話して迷惑になるといけないから、メッセージの返信だけしておこうかと文字を入力しかけたとき、画面に着信表示が映った。
こんな時間に誰だろうと思ったら、発信者は護だった。
無視してしまおうかと思ったけれど、一度切れてもまたすぐに電話がかかってきて、着信音はいつまでも鳴り響く。
仕方がないので用件だけ聞いて手短に済ませることにした。
「……もしもし」
電話に出た私の声は、いつもより自然と低めのトーンになった。
『もしもし志織?もしかしてもう寝てた?』
「うん、寝てた」
『ごめんな』
護は私が寝ているところを起こされて不機嫌になっていると思い込んでいるらしい。
本当は起きていたけれど、面倒だから寝ていたことにして、さっさと電話を切ってもらおう。
『あのさ……会いたいんだ。明日の夜、志織の家に行っていい?』
私に会いたいって……そんなこと思ってもいないくせに、いまさらなんで?
また私に夕飯でもたかるつもり?
「たぶん明日からしばらくは残業で遅くなると思うから」
それは嘘ではなく、明日からはいつもの業務に加え、もうすぐ部署を異動する人の引き継ぎや、先月発売したばかりの商品のデータの集計を任されているから、きっといつもより帰りはかなり遅くなるはずだ。
『俺は遅くなってもいいんだけど……』
どうして護がこんなに会いたがるのかわからないけど、できれば私は会いたくない。
「私はちょっと余裕ないと思うから、仕事が少し落ち着いてからでもいい?」
『……わかった。でも時間ができたら教えて。早く志織に会いたいから』
他にもたくさん相手がいるはずなのに会いたがるということは、そんなに急ぐほどの用があるんだろうか?
でもそれを聞くのも面倒だから、「わかった」とだけ返事をして電話を切った。
護との電話を終えるとさらに時間が遅くなってしまったので、三島課長への返信はやめておくことにした。
また明日にでも会社で会ったときに、サークルを辞めたりはしないから大丈夫だと話せばいいだろう。
そんなことを思いながら目覚ましをセットして床に就いた。
いい香りのする温かいお湯の中に、練習とその他諸々の今日の疲れが、体から溶け出していくようだ。
たったの一日なのに、いろいろありすぎて今日はとても長かった気がする。
お湯に浸かりながら今日の出来事を振り返ると、三島課長の甘い言葉まで思い出してしまった。
……『俺の隣にいて』とか、言うんだな。
『朝は志織の作った味噌汁が飲みたい』とか、『俺はやっぱり彼女を選ぶよ』とか言われたら、本当に私の婚約者なんじゃないかと妙な錯覚を起こしてしまいそうだ。
そういえば三島課長は、好きな人が自分を好きになってくれるのをもう悠長に待っていられないから、もっと相手の方から好きだと言わせる努力をした上で待つとか言っていた。
きっと私の知らないところでは、好きな人に対しても私に言ったのと同じように……いや、演技であれなら、本物の彼女にはもっと甘いのかも知れない。
そんなことを考えながら、ぬるめのお湯にゆっくりと浸かった。
お風呂から上がっても上気した肌からは入浴剤のいい香りがして、なんとなくよく眠れそうな気がする。
ついでに念入りにスキンケアをして部屋に戻ると、スマホのランプが点滅していた。
画面を開いて確認すると、1時間ほど前に三島課長からの着信履歴が残っていて、トークのメッセージも届いていた。
【今日はお疲れ様。面倒なことに巻き込んで、イヤな思いさせてごめん。次の練習は水曜日です。勝手なお願いだけど、今日のことで気を悪くして辞めたりしないで、できればこれからも続けて欲しい】
三島課長は私がモナちゃんにいろいろ言われたことを気にして電話をくれたのだと思う。
私がお風呂に入った直後で電話に出られなかったから、メッセージを送ってくれたのだろう。
本当に誰に対しても気遣いのできる優しい人だ。
だけど彼女の立場なら、これだけ優しいと無自覚でたくさんの女性に気を持たせているんじゃないかと、少し心配になるかも知れない。
かつての葉月の気苦労がなんとなくわかる気がする。
電話した方がいいかなと思ったけれど、時刻はもう11時になろうとしている。
もう寝ているかも知れないし、こんな遅い時間に電話して迷惑になるといけないから、メッセージの返信だけしておこうかと文字を入力しかけたとき、画面に着信表示が映った。
こんな時間に誰だろうと思ったら、発信者は護だった。
無視してしまおうかと思ったけれど、一度切れてもまたすぐに電話がかかってきて、着信音はいつまでも鳴り響く。
仕方がないので用件だけ聞いて手短に済ませることにした。
「……もしもし」
電話に出た私の声は、いつもより自然と低めのトーンになった。
『もしもし志織?もしかしてもう寝てた?』
「うん、寝てた」
『ごめんな』
護は私が寝ているところを起こされて不機嫌になっていると思い込んでいるらしい。
本当は起きていたけれど、面倒だから寝ていたことにして、さっさと電話を切ってもらおう。
『あのさ……会いたいんだ。明日の夜、志織の家に行っていい?』
私に会いたいって……そんなこと思ってもいないくせに、いまさらなんで?
また私に夕飯でもたかるつもり?
「たぶん明日からしばらくは残業で遅くなると思うから」
それは嘘ではなく、明日からはいつもの業務に加え、もうすぐ部署を異動する人の引き継ぎや、先月発売したばかりの商品のデータの集計を任されているから、きっといつもより帰りはかなり遅くなるはずだ。
『俺は遅くなってもいいんだけど……』
どうして護がこんなに会いたがるのかわからないけど、できれば私は会いたくない。
「私はちょっと余裕ないと思うから、仕事が少し落ち着いてからでもいい?」
『……わかった。でも時間ができたら教えて。早く志織に会いたいから』
他にもたくさん相手がいるはずなのに会いたがるということは、そんなに急ぐほどの用があるんだろうか?
でもそれを聞くのも面倒だから、「わかった」とだけ返事をして電話を切った。
護との電話を終えるとさらに時間が遅くなってしまったので、三島課長への返信はやめておくことにした。
また明日にでも会社で会ったときに、サークルを辞めたりはしないから大丈夫だと話せばいいだろう。
そんなことを思いながら目覚ましをセットして床に就いた。
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