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備えあれば憂いなし?
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「もう護とどうこうしたいとは思ってないけど、いずれはちゃんとケジメつけないといけないんだよね」
「志織の気が済むようにしたらええと思うよ。悪いのは橋口の方やし、志織が泣き寝入りする必要はないと思うで」
「そうだね。どうするべきか、もう少しよく考えてみるよ。じゃあ……もう遅いし、そろそろ寝ようか」
私が照明のリモコンに手を伸ばして部屋の電気を消そうとすると、葉月はニヤニヤしながら布団に潜り込んだ。
「せやな。明日は三島課長とデートやし、いざっちゅうときに備えてしっかり寝んとな」
「いざってとき……?」
「もしかしたら、なんとなくええ雰囲気になって……とかいうことも、ないとは言い切れんしなぁ」
そう言って葉月は両腕を胸の前で交差させ、首を少し傾けるようなしぐさをした。
「荒れた肌を至近距離で見られとうないやろ?」
それはまさか、もしかして……?!
そんなことがあるはずもないのに、頭の中でドラマか何かで見たようなキスシーンが、私と三島課長の配役で勝手に再生された。
三島課長が私の名前を呼びながら頭を引き寄せ、唇を近付ける。
途端に心臓が大きな音を立てて暴走し始め、私は顔を真っ赤にしてそれを必死で打ち消した。
「もう!またそんなことばっかり言って!三島課長がそんなことするわけないでしょ?!」
「そうかぁ?いくらええ人でも、三島課長かって男やで」
葉月に冷やかされて、照れくささと恥ずかしさで、また少し胸の奧がムズムズした。
こんな煽られ方であんな想像をしてしまったら、意識するなと言う方が無理な話だ。
自分の知らないうちに他人の頭の中で勝手にあんな役を演じさせられて、なんだか三島課長に申し訳ない。
私は明日、三島課長の顔をまともに見られるだろうか……?
「雰囲気に流されて好きでもない相手にそんなことする人じゃないと思うけど……。ねぇ、三島課長は私の彼氏が護だって、知ってるのかな?」
「うーん……いや、知らんのちゃうかなぁ……。瀧内くんも志岐も、余計なことは多分言わんと思うで」
どの辺が余計なことなんだろう?
いくら仲が良くても、他人のプライベートなことを勝手に話したりはしないとか、そういうことだろうか。
「そっか……。じゃあ、そろそろ電気消すね。おやすみ」
「おやすみー」
私が部屋の照明を消すと、葉月はあっという間に寝息を立て始めた。
そう言えば、葉月が伊藤くんのことを『志岐』って呼ぶの、初めて聞いたな。
いろいろあったけど、この二人はこの二人でうまくやっているようだ。
私もバレーの練習とか今後に備えて、明日は三島課長のことを『潤さん』と自然に呼べるように頑張ってみよう。
翌朝は平日と同じ時間に起きて、着替えを済ませてから1階に下りた。
一応葉月にも声をかけたけれど、ゆうべのお酒のせいか、まだまだ起きられそうにもないので、もう少し寝かせておくことにする。
ゆうべは遅くまでお酒を飲んだし、休日の朝だから他のみんなもまだ眠っているようだ。
さすがにアラサーにもなると寝起きの素顔を見られるのは恥ずかしいから、みんなが起きてくるまえに洗顔や化粧を済ませ、朝食の準備をしておこうとキッチンへ行くと、三島課長が冷蔵庫を覗き込んでいた。
「おはようございます」
声をかけると三島課長は少し驚いた様子で振り返る。
「おはよう……もう起きてたのか」
「はい、朝食の準備でもと思って。もしかして……」
三島課長も?と言いかけて、一瞬口ごもる。
そうだ、潤さんって呼ぶことになったんだった。
でもやっぱり照れくさくて、すんなりと出てこない。
「うん、俺も同じ」
「私やりますよ。何作りましょうか?」
「あいつら朝からガツガツ食うから、やっぱりパンより米だな。それから味噌汁と卵焼きと……」
「寝る前にお米研いでおけばよかったですね」
私が吊り戸棚に手を伸ばして、お味噌汁を作るのにちょうどいい鍋を探そうとすると、三島課長が私の後ろから鍋に手を伸ばした。
私の肩に三島課長の胸の辺りが微かに触れた瞬間、ゆうべのあらぬ妄想がよみがえりドキッとする。
いや……ないない、三島課長がそんなことするわけないから!
頭ではそう思っているのに、胸のドキドキがなかなかおさまらない。
「俺がやるから、佐野はゆっくりしてていいよ」
……なんだ、いつも通りでいいんだ。
私だけ意識して、なんだかちょっと恥ずかしい。
「いえ、せっかく早起きしたので。三島課長こそゆっくりしててくださいよ」
「そうか?じゃあ手伝ってもらおうかな。味噌汁頼んでいいか?」
「もちろん。具は何を入れましょう?」
「玉ねぎとワカメと豆腐にしよう。俺はとりあえず米を研ぐよ」
三島課長は鍋をコンロの上に置いて、冷蔵庫から玉ねぎと豆腐、棚の中から乾燥ワカメと顆粒の鰹だしを取り出し、ライスストッカーの中のお米を計量カップで計ってザルに移した。
私も鍋に水を入れてコンロの火にかけ、玉ねぎの皮を剥く。
「志織の気が済むようにしたらええと思うよ。悪いのは橋口の方やし、志織が泣き寝入りする必要はないと思うで」
「そうだね。どうするべきか、もう少しよく考えてみるよ。じゃあ……もう遅いし、そろそろ寝ようか」
私が照明のリモコンに手を伸ばして部屋の電気を消そうとすると、葉月はニヤニヤしながら布団に潜り込んだ。
「せやな。明日は三島課長とデートやし、いざっちゅうときに備えてしっかり寝んとな」
「いざってとき……?」
「もしかしたら、なんとなくええ雰囲気になって……とかいうことも、ないとは言い切れんしなぁ」
そう言って葉月は両腕を胸の前で交差させ、首を少し傾けるようなしぐさをした。
「荒れた肌を至近距離で見られとうないやろ?」
それはまさか、もしかして……?!
そんなことがあるはずもないのに、頭の中でドラマか何かで見たようなキスシーンが、私と三島課長の配役で勝手に再生された。
三島課長が私の名前を呼びながら頭を引き寄せ、唇を近付ける。
途端に心臓が大きな音を立てて暴走し始め、私は顔を真っ赤にしてそれを必死で打ち消した。
「もう!またそんなことばっかり言って!三島課長がそんなことするわけないでしょ?!」
「そうかぁ?いくらええ人でも、三島課長かって男やで」
葉月に冷やかされて、照れくささと恥ずかしさで、また少し胸の奧がムズムズした。
こんな煽られ方であんな想像をしてしまったら、意識するなと言う方が無理な話だ。
自分の知らないうちに他人の頭の中で勝手にあんな役を演じさせられて、なんだか三島課長に申し訳ない。
私は明日、三島課長の顔をまともに見られるだろうか……?
「雰囲気に流されて好きでもない相手にそんなことする人じゃないと思うけど……。ねぇ、三島課長は私の彼氏が護だって、知ってるのかな?」
「うーん……いや、知らんのちゃうかなぁ……。瀧内くんも志岐も、余計なことは多分言わんと思うで」
どの辺が余計なことなんだろう?
いくら仲が良くても、他人のプライベートなことを勝手に話したりはしないとか、そういうことだろうか。
「そっか……。じゃあ、そろそろ電気消すね。おやすみ」
「おやすみー」
私が部屋の照明を消すと、葉月はあっという間に寝息を立て始めた。
そう言えば、葉月が伊藤くんのことを『志岐』って呼ぶの、初めて聞いたな。
いろいろあったけど、この二人はこの二人でうまくやっているようだ。
私もバレーの練習とか今後に備えて、明日は三島課長のことを『潤さん』と自然に呼べるように頑張ってみよう。
翌朝は平日と同じ時間に起きて、着替えを済ませてから1階に下りた。
一応葉月にも声をかけたけれど、ゆうべのお酒のせいか、まだまだ起きられそうにもないので、もう少し寝かせておくことにする。
ゆうべは遅くまでお酒を飲んだし、休日の朝だから他のみんなもまだ眠っているようだ。
さすがにアラサーにもなると寝起きの素顔を見られるのは恥ずかしいから、みんなが起きてくるまえに洗顔や化粧を済ませ、朝食の準備をしておこうとキッチンへ行くと、三島課長が冷蔵庫を覗き込んでいた。
「おはようございます」
声をかけると三島課長は少し驚いた様子で振り返る。
「おはよう……もう起きてたのか」
「はい、朝食の準備でもと思って。もしかして……」
三島課長も?と言いかけて、一瞬口ごもる。
そうだ、潤さんって呼ぶことになったんだった。
でもやっぱり照れくさくて、すんなりと出てこない。
「うん、俺も同じ」
「私やりますよ。何作りましょうか?」
「あいつら朝からガツガツ食うから、やっぱりパンより米だな。それから味噌汁と卵焼きと……」
「寝る前にお米研いでおけばよかったですね」
私が吊り戸棚に手を伸ばして、お味噌汁を作るのにちょうどいい鍋を探そうとすると、三島課長が私の後ろから鍋に手を伸ばした。
私の肩に三島課長の胸の辺りが微かに触れた瞬間、ゆうべのあらぬ妄想がよみがえりドキッとする。
いや……ないない、三島課長がそんなことするわけないから!
頭ではそう思っているのに、胸のドキドキがなかなかおさまらない。
「俺がやるから、佐野はゆっくりしてていいよ」
……なんだ、いつも通りでいいんだ。
私だけ意識して、なんだかちょっと恥ずかしい。
「いえ、せっかく早起きしたので。三島課長こそゆっくりしててくださいよ」
「そうか?じゃあ手伝ってもらおうかな。味噌汁頼んでいいか?」
「もちろん。具は何を入れましょう?」
「玉ねぎとワカメと豆腐にしよう。俺はとりあえず米を研ぐよ」
三島課長は鍋をコンロの上に置いて、冷蔵庫から玉ねぎと豆腐、棚の中から乾燥ワカメと顆粒の鰹だしを取り出し、ライスストッカーの中のお米を計量カップで計ってザルに移した。
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