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使えるものは親でも使え
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「結婚願望とか結婚相手の理想のタイプとかはないんですか?」
私が尋ねると三島課長は少し困った顔をして、それをごまかすように笑った。
「うーん……なくはないっていうか……もちろん結婚願望はあるけど……現実はいろいろと厳しいんだ」
それはつまり、瀧内くんからチラッと聞いた『忘れられないひと』のことを言っているんだろうか。
もしかするとその人には恋人とか婚約者がいたりするのかな?
「そんなに厳しいんですか?」
「うん、厳しい」
いや、お相手はまさかの既婚者だったりして……。
だとしたら、そんな不毛な恋はあきらめて、将来性のある恋愛をした方が幸せになれると思う。
三島課長に結婚願望があるのならなおさらだ。
でもこれは瀧内くんからほんの少し聞いただけの不確かな情報から私が勝手に予想しただけで、私が三島課長から直接聞いた話ではないから、余計なことを言うのはやめておこう。
そう思うのだけど、お節介焼きの私の悪い癖が出て、何か三島課長の恋が成就するお手伝いができないかとか、それが無理でも三島課長がその人よりも好きになっちゃうような素敵な女性を紹介できないかなどと、親戚のおばさんみたいなことを考えてしまう。
「三島課長の好きな人って、どんな人ですか?」
「えっ?!」
赤信号で車がとまるタイミングでうっかり単刀直入に尋ねると、三島課長が珍しくいつもより強めにブレーキを踏んで、その衝撃で体が前のめりにカクンと揺れる。
「悪い!大丈夫か?!」
三島課長はすぐさま私の方を向いて心配そうに尋ねた。
「私は大丈夫です。すみません、変なこと聞いてしまって」
「いや……変なことっていうか、いきなりだったから驚いて」
急ブレーキを踏む必要のないところだったのに、思わずブレーキペダルを踏み込んでしまったということは、私の質問に相当動揺していたんだろう。
後続車がすぐ真後ろにいなくて良かったけれど、一歩間違えば事故に繋がっていたかも知れない。
運転中は話題にも気を付けなければと反省する。
「だけどなんでいきなり好きな人……?もしかして瀧内から何か俺の話を吹き込まれた?」
ヤバイ、三島課長のいないところで瀧内くんから過去の恋愛話を聞いたことがバレてしまう!
「いえっ、断じてそんなことは!」
「……聞いたんだな」
なぜかバレている……!
ここは素直に謝っておこう。
「…………聞きました、すみません。あっ、でもホントにほんの少しです!詳しいことは聞いてませんから!」
「どうせ周りには秘密の社内恋愛で大失恋したとか、そんなとこだろ?」
「……はい」
「入社して半年くらいから、同じ部署の5歳上の先輩と付き合ってたんだ。結婚も考えてたけど、付き合って1年半くらい経った頃に、その人は突然一方的に別れ話を俺に突き付けて、その直後に同じ部署の上司と結婚した。つまりは二股だから秘密だったってオチだ。あれはさすがにショックだったな」
たしか前にも誰かからこんな話を聞いたような……。
そうだ、千絵ちゃんから聞いた話に似ているんだ。
そして護も私との社内恋愛を周りには秘密にしているのをいいことに、他の人と浮気をしている。
社内恋愛って……こんなとんでもないことがよく起こるくらい険しいものだったの?
「もしかしてその人たちは今も営業部に……?」
「いや、その直後に上司に異動の辞令が出て、二人一緒に転勤したから」
ということは、二人とも私の知らない人たちということだ。
さすがに同じ部署で毎日顔を合わせるのはまるで拷問みたいだから、二人ともいなくなったと聞いて少しホッとした。
「それからは恋愛に対してかなり慎重……というか、臆病になったと自分でも思うよ。特に社内恋愛にはなかなか踏み込めなくて、好きな人ができてもまた失敗したらと思うと何も言えなくて……。でもあきらめきれないから思いきって告白しようと決心したら、恋人ができたってことがわかって、告白前に玉砕した」
私の知っている三島課長はいつも笑っていたけれど、その裏では社内恋愛でつらい経験をして傷付いていたことは私にとってはかなり衝撃的で、なんだか悲しくてちょっと涙が出そうになった。
信号が青になり、三島課長はいつものようにゆっくりと車を発進させた。
軽々しく聞いていい話ではなかったような気がして申し訳なくて、私は助手席のシートに深く身を沈めたまま、ただひたすら指先をこすり合わせ、それをじっと見つめる。
すると三島課長は左手で、無意識に項垂れていた私の頭を撫でるようにポンポンと軽く叩いた。
私が尋ねると三島課長は少し困った顔をして、それをごまかすように笑った。
「うーん……なくはないっていうか……もちろん結婚願望はあるけど……現実はいろいろと厳しいんだ」
それはつまり、瀧内くんからチラッと聞いた『忘れられないひと』のことを言っているんだろうか。
もしかするとその人には恋人とか婚約者がいたりするのかな?
「そんなに厳しいんですか?」
「うん、厳しい」
いや、お相手はまさかの既婚者だったりして……。
だとしたら、そんな不毛な恋はあきらめて、将来性のある恋愛をした方が幸せになれると思う。
三島課長に結婚願望があるのならなおさらだ。
でもこれは瀧内くんからほんの少し聞いただけの不確かな情報から私が勝手に予想しただけで、私が三島課長から直接聞いた話ではないから、余計なことを言うのはやめておこう。
そう思うのだけど、お節介焼きの私の悪い癖が出て、何か三島課長の恋が成就するお手伝いができないかとか、それが無理でも三島課長がその人よりも好きになっちゃうような素敵な女性を紹介できないかなどと、親戚のおばさんみたいなことを考えてしまう。
「三島課長の好きな人って、どんな人ですか?」
「えっ?!」
赤信号で車がとまるタイミングでうっかり単刀直入に尋ねると、三島課長が珍しくいつもより強めにブレーキを踏んで、その衝撃で体が前のめりにカクンと揺れる。
「悪い!大丈夫か?!」
三島課長はすぐさま私の方を向いて心配そうに尋ねた。
「私は大丈夫です。すみません、変なこと聞いてしまって」
「いや……変なことっていうか、いきなりだったから驚いて」
急ブレーキを踏む必要のないところだったのに、思わずブレーキペダルを踏み込んでしまったということは、私の質問に相当動揺していたんだろう。
後続車がすぐ真後ろにいなくて良かったけれど、一歩間違えば事故に繋がっていたかも知れない。
運転中は話題にも気を付けなければと反省する。
「だけどなんでいきなり好きな人……?もしかして瀧内から何か俺の話を吹き込まれた?」
ヤバイ、三島課長のいないところで瀧内くんから過去の恋愛話を聞いたことがバレてしまう!
「いえっ、断じてそんなことは!」
「……聞いたんだな」
なぜかバレている……!
ここは素直に謝っておこう。
「…………聞きました、すみません。あっ、でもホントにほんの少しです!詳しいことは聞いてませんから!」
「どうせ周りには秘密の社内恋愛で大失恋したとか、そんなとこだろ?」
「……はい」
「入社して半年くらいから、同じ部署の5歳上の先輩と付き合ってたんだ。結婚も考えてたけど、付き合って1年半くらい経った頃に、その人は突然一方的に別れ話を俺に突き付けて、その直後に同じ部署の上司と結婚した。つまりは二股だから秘密だったってオチだ。あれはさすがにショックだったな」
たしか前にも誰かからこんな話を聞いたような……。
そうだ、千絵ちゃんから聞いた話に似ているんだ。
そして護も私との社内恋愛を周りには秘密にしているのをいいことに、他の人と浮気をしている。
社内恋愛って……こんなとんでもないことがよく起こるくらい険しいものだったの?
「もしかしてその人たちは今も営業部に……?」
「いや、その直後に上司に異動の辞令が出て、二人一緒に転勤したから」
ということは、二人とも私の知らない人たちということだ。
さすがに同じ部署で毎日顔を合わせるのはまるで拷問みたいだから、二人ともいなくなったと聞いて少しホッとした。
「それからは恋愛に対してかなり慎重……というか、臆病になったと自分でも思うよ。特に社内恋愛にはなかなか踏み込めなくて、好きな人ができてもまた失敗したらと思うと何も言えなくて……。でもあきらめきれないから思いきって告白しようと決心したら、恋人ができたってことがわかって、告白前に玉砕した」
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軽々しく聞いていい話ではなかったような気がして申し訳なくて、私は助手席のシートに深く身を沈めたまま、ただひたすら指先をこすり合わせ、それをじっと見つめる。
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