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かけて引いたり、足して割ったり
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「同じ営業部ですよ?伊藤先輩が木村先輩の担当事務員じゃなくても、営業職の社員は部署に携帯の番号を教えるんですから、それを見て自分のスマホに登録するくらいは簡単でしょう。木村先輩は伊藤先輩が本社に戻ってきてから、一度は電話してみようとしたってことじゃないですか?」
どうやら図星だったようで、葉月は赤い顔をして下を向いている。
「あ、そうか。なるほどね」
私も営業部で事務をしていたのに、なんでそんな簡単なことに気付かなかったんだろう。
素朴な疑問が解決してスッキリしたと思っていると、瀧内くんが紙ナフキンを手に取り、なんでもないことのように私の唇の左側をサッと拭った。
あまりに自然な手付きだったので、私も葉月と伊藤くんも呆気に取られてしまう。
「あ……りがとう……」
「佐野主任って、仲のいい同僚が付き合ってても気付かないし、浮気されても目撃するまで気付かないし、もし誰かにものすごく好かれたり嫌われたりしていても全然気付かないんでしょうね。そういうところが気楽そうで本当に羨ましいです」
気楽そうで羨ましいって……それは遠回しに、単純でバカだってけなしてるのか……?
私の方が3つも歳上なのに、なんだかものすごく子ども扱いされているような気がするけれど、ここで声を荒らげるのは大人げない。
「瀧内くん……それは誉め言葉かしら?」
少し皮肉っぽく言ってやったつもりなのに、瀧内くんはいつもよりわかりやすく笑ってうなずいた。
「もちろんですよ。僕にはない部分なので、女性として理想的ですね」
理想の女性じゃなくて、女性として理想的?
瀧内くんの言いたいことはよくわからない。
普段一緒に仕事をしていても見られない一面なのか、伊藤くんも驚いているようだ。
「瀧内……もしかして歳上好きか?」
「そうですね。アレしてコレしてってうるさい小娘よりは、落ち着いた大人の女性が好きですよ」
「ほぉー……」
普通はこれくらいの歳なら、自分と同じくらいか若くてかわいい子に興味がいきそうだけど、それが言えるということは、この若さでもかなりの恋愛経験を積んでいるんじゃないだろうか?
それとも以前に若い女の子と付き合ってひどい目にあって、何か特別な思い入れとかトラウマみたいなものでもあるのかも知れない。
「瀧内くんって、若いのに渋いこと言うね」
「もっと言うと、理想のタイプは木村先輩と佐野主任を足して2で割って、プラスアルファって感じの女性です」
私と葉月は顔を見合わせて思いきり首をかしげ、例えがあまりにもおかしくて笑ってしまった。
「なんやそれ?」
「わかりにくっ……」
私たちが笑っている中、伊藤くんだけがただただ怪訝な顔をして瀧内くんを見ている。
「そうですか?一途で健気で、二人ともかわいいと思いますよ」
その言葉はいつになく優しく微笑んだ瀧内くんの口から、あまりにもさらりと発せられた。
私と葉月は不意打ちを食らって胸を押さえ、今にもキュン死にしてしまいそうになっている。
「かっ……」
「かわ……いい……?!」
かわいいって……かわいいって……なんだそれは!
私たちを喜ばせてどうするつもり?!
お世辞とか言葉の綾から出た言葉なのだとわかっていても、普段あまり言われる機会がないので、『かわいい』なんて言われるとつい嬉しくなってしまう。
女ですもの、いくつになっても『かわいい』と言われれば嬉しいに決まっている。
それが若くて綺麗な顔立ちのイケメンに言われたなら、喜びは倍増だ。
もしかして私のこういうところが、単純で気楽そうでいいのか?!
いや、私だけでなく葉月だって抑えようとしてはいるけれど、はにかみながらニヤニヤが止まらないところを見ると、嬉しいのが手に取るようにわかる。
一方、伊藤くんは頭を抱えて絶句している。
いつも誰にでも優しく接しているくせに、甘い言葉には免疫がないらしい。
こんなので本当に、葉月に対して好きだという気持ちを伝えられていたんだろうか?
それこそ、瀧内くんと伊藤くんを足して2で割って、プラスアルファって感じがちょうどいいのかも……なんて言ったら二人に怒られるかも知れないけれど、普段はクールなのに、たまにしれっと甘い言葉を言える瀧内くんのこういうところを、伊藤くんはどんどん見習うべきだと思う。
とは言え、甘い顔を見せるのは誰にでもではなく、もちろん好きな人限定での話なのだけれど。
どうやら図星だったようで、葉月は赤い顔をして下を向いている。
「あ、そうか。なるほどね」
私も営業部で事務をしていたのに、なんでそんな簡単なことに気付かなかったんだろう。
素朴な疑問が解決してスッキリしたと思っていると、瀧内くんが紙ナフキンを手に取り、なんでもないことのように私の唇の左側をサッと拭った。
あまりに自然な手付きだったので、私も葉月と伊藤くんも呆気に取られてしまう。
「あ……りがとう……」
「佐野主任って、仲のいい同僚が付き合ってても気付かないし、浮気されても目撃するまで気付かないし、もし誰かにものすごく好かれたり嫌われたりしていても全然気付かないんでしょうね。そういうところが気楽そうで本当に羨ましいです」
気楽そうで羨ましいって……それは遠回しに、単純でバカだってけなしてるのか……?
私の方が3つも歳上なのに、なんだかものすごく子ども扱いされているような気がするけれど、ここで声を荒らげるのは大人げない。
「瀧内くん……それは誉め言葉かしら?」
少し皮肉っぽく言ってやったつもりなのに、瀧内くんはいつもよりわかりやすく笑ってうなずいた。
「もちろんですよ。僕にはない部分なので、女性として理想的ですね」
理想の女性じゃなくて、女性として理想的?
瀧内くんの言いたいことはよくわからない。
普段一緒に仕事をしていても見られない一面なのか、伊藤くんも驚いているようだ。
「瀧内……もしかして歳上好きか?」
「そうですね。アレしてコレしてってうるさい小娘よりは、落ち着いた大人の女性が好きですよ」
「ほぉー……」
普通はこれくらいの歳なら、自分と同じくらいか若くてかわいい子に興味がいきそうだけど、それが言えるということは、この若さでもかなりの恋愛経験を積んでいるんじゃないだろうか?
それとも以前に若い女の子と付き合ってひどい目にあって、何か特別な思い入れとかトラウマみたいなものでもあるのかも知れない。
「瀧内くんって、若いのに渋いこと言うね」
「もっと言うと、理想のタイプは木村先輩と佐野主任を足して2で割って、プラスアルファって感じの女性です」
私と葉月は顔を見合わせて思いきり首をかしげ、例えがあまりにもおかしくて笑ってしまった。
「なんやそれ?」
「わかりにくっ……」
私たちが笑っている中、伊藤くんだけがただただ怪訝な顔をして瀧内くんを見ている。
「そうですか?一途で健気で、二人ともかわいいと思いますよ」
その言葉はいつになく優しく微笑んだ瀧内くんの口から、あまりにもさらりと発せられた。
私と葉月は不意打ちを食らって胸を押さえ、今にもキュン死にしてしまいそうになっている。
「かっ……」
「かわ……いい……?!」
かわいいって……かわいいって……なんだそれは!
私たちを喜ばせてどうするつもり?!
お世辞とか言葉の綾から出た言葉なのだとわかっていても、普段あまり言われる機会がないので、『かわいい』なんて言われるとつい嬉しくなってしまう。
女ですもの、いくつになっても『かわいい』と言われれば嬉しいに決まっている。
それが若くて綺麗な顔立ちのイケメンに言われたなら、喜びは倍増だ。
もしかして私のこういうところが、単純で気楽そうでいいのか?!
いや、私だけでなく葉月だって抑えようとしてはいるけれど、はにかみながらニヤニヤが止まらないところを見ると、嬉しいのが手に取るようにわかる。
一方、伊藤くんは頭を抱えて絶句している。
いつも誰にでも優しく接しているくせに、甘い言葉には免疫がないらしい。
こんなので本当に、葉月に対して好きだという気持ちを伝えられていたんだろうか?
それこそ、瀧内くんと伊藤くんを足して2で割って、プラスアルファって感じがちょうどいいのかも……なんて言ったら二人に怒られるかも知れないけれど、普段はクールなのに、たまにしれっと甘い言葉を言える瀧内くんのこういうところを、伊藤くんはどんどん見習うべきだと思う。
とは言え、甘い顔を見せるのは誰にでもではなく、もちろん好きな人限定での話なのだけれど。
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