社内恋愛狂想曲

櫻井音衣

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「そうだ。前から気になってたんだけど、伊藤くんはどうして私と護が付き合ってることを知ってるの?葉月に聞いた?それとも伊藤くんも瀧内くんみたいにどこかで見掛けたのかな?」
「いや、付き合ってるって聞いたから」
「へぇ、付き合ってるって……えっ?!聞いたって誰から?」
「橋口本人から」

詳しく聞いてみると、2か月前に伊藤くんが本社に戻って来て間もないときに、営業部の後輩たちが部署の歓迎会とは別に飲み会を開いてくれたそうだ。
せっかくだからと出席してみると、営業部の後輩たちが声を掛けて集めた、商品管理部の若い女の子たちがいたらしい。
男女それぞれ7~8人と、けっこうな人数がいたようだけど、いわゆる合コンみたいなものだったそうだ。
伊藤くんはそういうノリが苦手だから、色目を使ってくる女の子を適当にあしらいながら飲んだり食べたりして、一次会だけはなんとかやり過ごして帰ろうと思ったけれど、後輩たちに強引に引っ張られ、結局二次会までは付き合ったという。

「あいつらやけにこなれてたから、ああいう飲み会をしょっちゅうやってるんだろうな。二次会になると酔いも回ってくるし、途中で盛り上がって抜けるやつらもいたなぁ。橋口は最後までいたけど、飲みすぎて具合悪くなった若い子を送ったみたいだ」
「若い子を送った……?」
「あの感じだと、ただ送っただけじゃなかったみたいだけどな」

もしかしてそれが奥田さんだったのか、それとも別の女の子なのか。
どちらにせよ護は、私の知らないところでそんな飲み会に参加して、女の子をお持ち帰りしたりなんかしちゃってたわけだ。
どうりで同僚との付き合いの飲み会が多いはずだよ。

「でもそんな楽しい飲み会の席で、私の話をするタイミングなんてないんじゃないの?」
「飲み会中はな。俺のデスクは橋口の隣なんだけど、次の日に橋口が画像出したままスマホをデスクに置いてて、佐野とのツーショットが見えちゃったんだよなぁ。もしかして付き合ってるのかって聞いたら、そうですよってあっさり認めたよ、あいつ」
「えーっ、何それ……。もしかして隠してたのは私だけ?」
「いや、2つ歳上の料理上手な彼女がいるとはいつも言ってるけど、それが佐野だっていうことは、会社では一応隠してるみたいだな」

話によると、伊藤くんが本社に戻ってから葉月の反応を見るために、同期で仲の良い私と転勤前に噂になったときは本当にただの噂だったけど、今度は本気で口説こうかなとか口走ったことで、どうやら護は独占欲に火がついて伊藤くんを牽制したつもりらしい。
前日に一緒に合コンに行って女の子をお持ち帰りしたところを見られてるのに、私と付き合ってることを、私と仲のいい伊藤くんにばらすなんて、護ってバカなんじゃないだろうか。

「あいつ浮気してるぞって、私にばらされるとは思わないのかな?」
「現場見られてなきゃ、いくらでも言い逃れできるじゃん。ただ送っただけとか、介抱してただけとかさ」
「うーん……見てなきゃね。でも私は護のキスシーンをこの目で見たし、その子以上に体の相性がいい人は他にいないとか言ってるのも聞いちゃったからなぁ……」
「マジか……!だったらなおさら、さっさと別れりゃいいじゃん」

伊藤くんも他の人たちと同じ見解らしい。
私も今の話を聞いて、護との結婚はあり得ないと改めて思った。
私が好きだった護からは考えられないような話ばかりで、私は3年もの間、一体護のどこを見ていたんだろうと考えさせられる。
しかし今はとりあえず、私のことはこれくらいで置いといて、肝心の伊藤くんと葉月の話をしよう。

「それで伊藤くんは葉月が他の男の人といちゃついてるのを見て、さっさと別れたの?」

唐突に本題に入ったからか、伊藤くんは自分に話を振られて驚いたらしく、一瞬目を見開いた。
そのタイミングで店員がフライドポテトを運んできて、テーブルの真ん中に置く。

「お待たせしました、揚げたてフライドポテトです。大変熱いですのでやけどにお気をつけください」

店員が伝票を置いてテーブルを離れると、伊藤くんは運ばれてきたばかりのフライドポテトを素手で取ろうとして手を引っ込めた。

「あっつ!」

揚げたてフライドポテトは思っていた以上に熱かったらしい。

「はい、フォーク使えば?」

伊藤くんは私が差し出したフォークを受け取り、突き刺したポテトをふぅふぅ吹き冷まして、警戒しながら口に運んだ。
そして口の中に入れた途端に熱さで目を白黒させ、慌ててアイスコーヒーで流し込む。

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