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かけて引いたり、足して割ったり
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明くる日、商品管理部のテーブルには生八ツ橋が二箱と抹茶バウムクーヘン、抹茶の生チョコレートに茶団子など、京都土産がずらりと並んでいた。
生八ツ橋を持ってきたのはもちろん私で、それ以外は奥田さんが持ってきたのだ。
私が持ってきた生八ツ橋は由緒正しき老舗の銘菓で、味もデザインも、いかにも京都という感じがする。
生八ツ橋は美味しいから好きだけれど、日持ちがしない上にたくさん入っているから、とても一人では二箱も食べきれない。
それに引き替え、奥田さんが持ってきたお土産はどれも若い子が喜びそうな和風の洋菓子や、パッケージの可愛らしいものばかりだ。
奥田さんは『仕事で京都に行っていた彼がお土産に買ってきてくれたんだけど、一人でこんなにたくさん食べられないし、ダイエット中だから一緒に食べてもらおうと思って』などと言って可愛い子ぶっていたけど、種類は多くてもたいした量は入っていない。
つい二日ほど前には、フルーツとクリームたっぷりのフルーツタルトをペロリと平らげていたくせに、ダイエット中が聞いて呆れる。
すなわちこれは、きっと私への挑戦状みたいなものなのだと思う。
奥田さんは護のことをどこまで話しているのかは知らないけれど、友達や同僚に話すときは『彼氏』ということにしているらしい。
護にもらったお土産を『彼氏からもらった』と言って、護の彼女である私のいる職場に持って来るあたりが、本当にふてぶてしいし、厚かましい。
護とはもう別れようと思っているとは言え、自分の彼氏を他人が彼氏呼ばわりしているのは、やはりいい気はしないものだ。
奥田さんは私が生八ツ橋を二箱も持ってきたのを見て、『京都に行ってきたんですか』と聞いた。
私が『京都に行っていた知り合い二人から偶然同じものをもらった』と答えると、『そんなことがあるんですね』とニヤニヤしていた。
護が私のところへ来る前に奥田さんのところに行って、女子受けしそうなお土産を山ほど渡し、『彼女には取引先からもらった生八ツ橋を渡しておく』とでも言ったかどうかは定かではないけれど、奥田さんが勝ち誇った顔をしていたのは言うまでもない。
昼休みが終わる15分ほど前、パウダールームの一番奥の席で化粧直しをしていると、スマホの画面にトークアプリの通知が映し出された。
メッセージの送り主は瀧内くんだ。
【お疲れ様です。昨日のことについて話がしたいので、仕事が終わったら食事でもしませんか】
昨日のことというのは、おそらく三島課長の偽婚約者の件だろう。
護とのことも話したいので、仕事の後に瀧内くんと会う約束をしてメッセージのやり取りを終えた。
昼休みの残り時間を気にしながら化粧直しの続きをしていると、私の隣の席に奥田さんが座った。
この若い肌に化粧直しをする必要なんかあるのかしらと思ったけれど、むしろ若いからこそ、若さと皮脂が有り余って、化粧直しが必要なのか。
「佐野主任、男の人の心を鷲掴みにする方法ってなんだと思います?」
奥田さんは化粧ポーチから何かを取り出しながら、鏡の方を向いたまま私に尋ねた。
取り出したのは京都で有名なあのあぶらとり紙だ。
それも護からの京都土産なのだろう。
それにしても護は奥田さんにどれだけ京都土産を渡したんだろう?
私には取引先からもらった生八ツ橋だけだったくせに。
「さあ……何かしらね。彼と何かあったの?」
何も知らないふりなんて白々しいかなと思いながら、口紅をポーチから取り出す。
奥田さんは鏡を見ながらあぶらとり紙を肌に押し当てている。
「昨日の夜、彼が会いに来て、週末の約束をドタキャンしたお詫びにってたくさんお土産をくれて、いつもはけっこう激しめなのに、昨日はすっごい優しくしてくれたんです。でも終わったら、この後彼女と会うからって言って、いつもより早い時間に帰っちゃって」
週末の約束をドタキャンされたのは私も同じなんですけど?
それより『いつもはけっこう激しめなのに、昨日はすっごい優しくしてくれた』って……何?
奥田さんは私に、護といつもどんな風にセックスしてるかを教えたいわけ?
言い返したいのをグッと堪えて平静を装ってはいるけれど、内心はかなりムカついている。
この相談らしきものが意図的なものなら、私は奥田さんからものすごい攻撃をされているんだなと思う。
生八ツ橋を持ってきたのはもちろん私で、それ以外は奥田さんが持ってきたのだ。
私が持ってきた生八ツ橋は由緒正しき老舗の銘菓で、味もデザインも、いかにも京都という感じがする。
生八ツ橋は美味しいから好きだけれど、日持ちがしない上にたくさん入っているから、とても一人では二箱も食べきれない。
それに引き替え、奥田さんが持ってきたお土産はどれも若い子が喜びそうな和風の洋菓子や、パッケージの可愛らしいものばかりだ。
奥田さんは『仕事で京都に行っていた彼がお土産に買ってきてくれたんだけど、一人でこんなにたくさん食べられないし、ダイエット中だから一緒に食べてもらおうと思って』などと言って可愛い子ぶっていたけど、種類は多くてもたいした量は入っていない。
つい二日ほど前には、フルーツとクリームたっぷりのフルーツタルトをペロリと平らげていたくせに、ダイエット中が聞いて呆れる。
すなわちこれは、きっと私への挑戦状みたいなものなのだと思う。
奥田さんは護のことをどこまで話しているのかは知らないけれど、友達や同僚に話すときは『彼氏』ということにしているらしい。
護にもらったお土産を『彼氏からもらった』と言って、護の彼女である私のいる職場に持って来るあたりが、本当にふてぶてしいし、厚かましい。
護とはもう別れようと思っているとは言え、自分の彼氏を他人が彼氏呼ばわりしているのは、やはりいい気はしないものだ。
奥田さんは私が生八ツ橋を二箱も持ってきたのを見て、『京都に行ってきたんですか』と聞いた。
私が『京都に行っていた知り合い二人から偶然同じものをもらった』と答えると、『そんなことがあるんですね』とニヤニヤしていた。
護が私のところへ来る前に奥田さんのところに行って、女子受けしそうなお土産を山ほど渡し、『彼女には取引先からもらった生八ツ橋を渡しておく』とでも言ったかどうかは定かではないけれど、奥田さんが勝ち誇った顔をしていたのは言うまでもない。
昼休みが終わる15分ほど前、パウダールームの一番奥の席で化粧直しをしていると、スマホの画面にトークアプリの通知が映し出された。
メッセージの送り主は瀧内くんだ。
【お疲れ様です。昨日のことについて話がしたいので、仕事が終わったら食事でもしませんか】
昨日のことというのは、おそらく三島課長の偽婚約者の件だろう。
護とのことも話したいので、仕事の後に瀧内くんと会う約束をしてメッセージのやり取りを終えた。
昼休みの残り時間を気にしながら化粧直しの続きをしていると、私の隣の席に奥田さんが座った。
この若い肌に化粧直しをする必要なんかあるのかしらと思ったけれど、むしろ若いからこそ、若さと皮脂が有り余って、化粧直しが必要なのか。
「佐野主任、男の人の心を鷲掴みにする方法ってなんだと思います?」
奥田さんは化粧ポーチから何かを取り出しながら、鏡の方を向いたまま私に尋ねた。
取り出したのは京都で有名なあのあぶらとり紙だ。
それも護からの京都土産なのだろう。
それにしても護は奥田さんにどれだけ京都土産を渡したんだろう?
私には取引先からもらった生八ツ橋だけだったくせに。
「さあ……何かしらね。彼と何かあったの?」
何も知らないふりなんて白々しいかなと思いながら、口紅をポーチから取り出す。
奥田さんは鏡を見ながらあぶらとり紙を肌に押し当てている。
「昨日の夜、彼が会いに来て、週末の約束をドタキャンしたお詫びにってたくさんお土産をくれて、いつもはけっこう激しめなのに、昨日はすっごい優しくしてくれたんです。でも終わったら、この後彼女と会うからって言って、いつもより早い時間に帰っちゃって」
週末の約束をドタキャンされたのは私も同じなんですけど?
それより『いつもはけっこう激しめなのに、昨日はすっごい優しくしてくれた』って……何?
奥田さんは私に、護といつもどんな風にセックスしてるかを教えたいわけ?
言い返したいのをグッと堪えて平静を装ってはいるけれど、内心はかなりムカついている。
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