54 / 268
こじらせた想い
9
しおりを挟む
なんとかして葉月をなだめてお開きにしようとしていると、軽快な着信音が流れた。
大阪人にはお馴染みの、あのお笑い番組のテーマ曲だから、葉月のスマホだとすぐにわかる。
葉月は着信音に合わせて鼻唄を歌いながら、ジャケットのポケットを探る。
「あらー、ないなぁ。どこ行ったぁ?あいつ足でも生えとんちゃうかぁ?」
葉月はひたすらジャケットのポケットを探しているけれど、どう考えても着信音は鞄の中から聞こえている。
「そこじゃなくて、これ鞄の中で鳴ってるんだよ」
「ホンマかぁ?」
鞄の中をごそごそ漁ってようやく取り出したスマホの画面には、三島課長からの着信通知が表示されていた。
「もしもしー、木村ですー」
相手は上司だというのに、一声で酔っぱらいの大阪人だとバレる電話の出方だ。
おそらく三島課長は仕事に関係することで急ぎの用があるから電話してきたと思うのだけど、こんなに酔っている葉月が三島課長の話を理解できるのか心配になる。
「ゆうあい生命の納品書ですかぁ?そんなんとっくの昔にできてますやん!私のパソコンの中ですわ。朝イチで?ハイ、よろこんでー!」
大阪の居酒屋みたいなノリになってはいるけれど、なんとか会話は成立しているようだ。
明日の朝までに忘れていなければいいけどと思いながら聞き流していると、葉月がまたコップに残っていたビールを一気に飲み干して、「三島課長、お話が!」と叫んだ。
今度は一体何を言い出すつもりなのかとハラハラする。
「私、結婚して大阪帰ることになったんで、会社辞めます!」
『えっ、結婚?!会社辞めるって……ええっ?!』
葉月の突然の寿退社宣言に驚いた三島課長の声が、スピーカーにしてもいないのにハッキリと聞こえてきた。
三島課長の驚きぶりに葉月は至極ご満悦の様子だ。
「今、志織と飲んでるんですけど、課長も来ます?じゃあ志織に代わりますねぇ」
有無を言わさずズイッと差し出されたスマホを仕方なく受け取って電話を代わる。
三島課長はかなり動揺していたけれど、葉月がかなり酔っているのを心配していて、私ひとりでは送るのも大変だろうし、とりあえず車で迎えに行くから店の名前と場所を教えてくれと言った。
さすがは生き仏、どこまで部下思いで面倒見のいい上司なんだと感動すら覚える。
電話を切ってスマホを返そうとすると、葉月はまたジャケットのポケットを探っていた。
「んー、ないなぁ……。どこ行ったんやろ?」
「何探してるの?」
「スマホスマホ」
自分が強引に渡したくせに、それを忘れて探しているようだ。
お笑いネタによくある、眼鏡は額のところにあるのに、それを忘れて『メガネメガネ』と言いながら探すやつに似ている。
大阪人はみんな、酔うとナチュラルにギャグをやってしまうのかしら?
「葉月のスマホはここにあるってば」
「おー、そんなとこにおったんか」
葉月は私の手からスマホを受け取り、何やら操作し始めた。
しかし酔っているせいか、なかなかうまくいかないようだ。
「んー?これちゃうなぁ。あれー?どうするんやっけ?お、あったあった」
「何してるの?」
「気が変わらんうちにシゲに返事しよう思って。あ、かかった」
「えっ、今?!」
泥酔状態でプロポーズの返事をするなんて、いくらなんでもあり得ない。
一生に関わる大事な話なのだから、日を改めてシラフのときにするのがお互いのためだと思う。
しかし時すでに遅し、葉月のかけた電話は繋がってしまったようだ。
大阪人にはお馴染みの、あのお笑い番組のテーマ曲だから、葉月のスマホだとすぐにわかる。
葉月は着信音に合わせて鼻唄を歌いながら、ジャケットのポケットを探る。
「あらー、ないなぁ。どこ行ったぁ?あいつ足でも生えとんちゃうかぁ?」
葉月はひたすらジャケットのポケットを探しているけれど、どう考えても着信音は鞄の中から聞こえている。
「そこじゃなくて、これ鞄の中で鳴ってるんだよ」
「ホンマかぁ?」
鞄の中をごそごそ漁ってようやく取り出したスマホの画面には、三島課長からの着信通知が表示されていた。
「もしもしー、木村ですー」
相手は上司だというのに、一声で酔っぱらいの大阪人だとバレる電話の出方だ。
おそらく三島課長は仕事に関係することで急ぎの用があるから電話してきたと思うのだけど、こんなに酔っている葉月が三島課長の話を理解できるのか心配になる。
「ゆうあい生命の納品書ですかぁ?そんなんとっくの昔にできてますやん!私のパソコンの中ですわ。朝イチで?ハイ、よろこんでー!」
大阪の居酒屋みたいなノリになってはいるけれど、なんとか会話は成立しているようだ。
明日の朝までに忘れていなければいいけどと思いながら聞き流していると、葉月がまたコップに残っていたビールを一気に飲み干して、「三島課長、お話が!」と叫んだ。
今度は一体何を言い出すつもりなのかとハラハラする。
「私、結婚して大阪帰ることになったんで、会社辞めます!」
『えっ、結婚?!会社辞めるって……ええっ?!』
葉月の突然の寿退社宣言に驚いた三島課長の声が、スピーカーにしてもいないのにハッキリと聞こえてきた。
三島課長の驚きぶりに葉月は至極ご満悦の様子だ。
「今、志織と飲んでるんですけど、課長も来ます?じゃあ志織に代わりますねぇ」
有無を言わさずズイッと差し出されたスマホを仕方なく受け取って電話を代わる。
三島課長はかなり動揺していたけれど、葉月がかなり酔っているのを心配していて、私ひとりでは送るのも大変だろうし、とりあえず車で迎えに行くから店の名前と場所を教えてくれと言った。
さすがは生き仏、どこまで部下思いで面倒見のいい上司なんだと感動すら覚える。
電話を切ってスマホを返そうとすると、葉月はまたジャケットのポケットを探っていた。
「んー、ないなぁ……。どこ行ったんやろ?」
「何探してるの?」
「スマホスマホ」
自分が強引に渡したくせに、それを忘れて探しているようだ。
お笑いネタによくある、眼鏡は額のところにあるのに、それを忘れて『メガネメガネ』と言いながら探すやつに似ている。
大阪人はみんな、酔うとナチュラルにギャグをやってしまうのかしら?
「葉月のスマホはここにあるってば」
「おー、そんなとこにおったんか」
葉月は私の手からスマホを受け取り、何やら操作し始めた。
しかし酔っているせいか、なかなかうまくいかないようだ。
「んー?これちゃうなぁ。あれー?どうするんやっけ?お、あったあった」
「何してるの?」
「気が変わらんうちにシゲに返事しよう思って。あ、かかった」
「えっ、今?!」
泥酔状態でプロポーズの返事をするなんて、いくらなんでもあり得ない。
一生に関わる大事な話なのだから、日を改めてシラフのときにするのがお互いのためだと思う。
しかし時すでに遅し、葉月のかけた電話は繋がってしまったようだ。
0
お気に入りに追加
429
あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語

甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
深冬 芽以
恋愛
あらすじ
俵理人《たわらりひと》34歳、職業は秘書室長兼社長秘書。
女は扱いやすく、身体の相性が良ければいい。
結婚なんて冗談じゃない。
そう思っていたのに。
勘違いストーカー女から逃げるように引っ越したマンションで理人が再会したのは、過去に激しく叱責された女。
年上で子持ちのデキる女なんて面倒くさいばかりなのに、つい関わらずにはいられない。
そして、互いの利害の一致のため、偽装恋人関係となる。
必要な時だけ恋人を演じればいい。
それだけのはずが……。
「偽装でも、恋人だろ?」
彼女の甘い香りに惹き寄せられて、抗えない――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる