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こじらせた想い
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「結婚ってそんなもんなのかなぁ……」
「そんなもんやろ。なんぼ大恋愛して結婚したかて、20年もすれば空気やでって、うちのオカンがよう言うてた。おらんと困るけど、おっても気付かんて」
「空気ねぇ……」
嫁入り前なのに結婚に対してこんなに夢が持てなくていいのかとも思うけど、もう若くはないんだからバカみたいに甘い夢は見ない方がいい。
結婚式のスピーチなんかで、男の人は『結婚はゴールではなくスタートだ』と言いたがるけど、女の人はもっとシビアだ。
私が新入社員の頃、結婚を控えた職場の先輩に仕事を続けるのかと尋ねると、『当たり前でしょ?結婚イコール生活よ。夫の稼ぎと甘い夢だけじゃ飯は食えないの』と言い放った。
私も結婚に対する過剰な希望は捨てて、歳相応に安全性と実用性を重視した方が身のためだ。
「そういう考え方もあるんだね。だったら私も前向きに考えてみようかな……。伊藤くんは冗談半分で言ったのかも知れないけど」
何気なくそう言うと、葉月は少し眉間にシワを寄せてから、グラスに並々と注いだビールを飲み干して「ははは」と笑い声をあげた。
「志織、伊藤に付き合おうって言われたん?」
「いや、付き合おうじゃなくて、なんの期待もしなくていいのがラクだから結婚して一緒に住むかって」
「ふーん……ええんちゃう?私もシゲと結婚するし」
そう言って葉月はフラフラと立ち上がった。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「ひとりで行ける?大丈夫?」
「赤ちゃんちゃうからトイレくらいひとりで行けるわ!」
葉月は半個室になっている客席から出て、化粧室のある方へゆっくりと歩いていく。
いつものように笑っていたはずの葉月の目が潤んでいるように見えた。
葉月が席を外している間、私はひとりで冷めた料理をつつきながらビールを飲んで待っていた。
酔って足元がおぼつかないせいか、葉月が戻ってくるのが遅い気がする。
心配になって様子を見に行こうかと立ち上がりかけたちょうどそのとき、葉月は戻ってきた。
「大丈夫?遅かったから心配したよ」
「大丈夫やって。トイレめっちゃ遠かっただけ。片道1時間かかった」
「なんでやねん」
いつでも笑いを取りたがるいつもの葉月だ。
さっき泣いていたように見えたのは、私の気のせいだったのかな?
少し飲みすぎただけかも知れない。
飲みながら話しているうちにビールがなくなってしまい、さらに追加したビールもあと少しでなくなろうとしている。
私にとってこれくらいはなんてことのない量だけど、普段の葉月の酒量を考えると今日は明らかに飲みすぎだから、そろそろやめさせないと。
「葉月、これ飲み終わったらそろそろ帰ろうか、送ってくから」
「えーっ、まだ6時45分やし!まだまだ飲めるし!全然とことんちゃうやん!」
「いや、それ6時45分じゃなくて9時半だから。それを見間違えるところがすでに酔っぱらいだよ」
「酔うとらんっちゅうねん!」
葉月はどうやら酔うほどに飲むペースが早くなり、饒舌になるタイプらしい。
酔いが回り始めた頃の方が呂律があやしかったくらいで、完全に酔っている今は早口言葉も言えそうなほど滑舌が良くなっている。
思ったより口調がしっかりしていたから、話しているうちに酔いが覚めたのかと思ったけど、葉月はすでに本格的に酔い潰れる寸前なのかも知れない。
意識があるうちに送り届けた方が良さそうだ。
「明日でも明後日でも、またいくらでも付き合うから、今日はこれくらいにしとこうよ」
「そんなもんやろ。なんぼ大恋愛して結婚したかて、20年もすれば空気やでって、うちのオカンがよう言うてた。おらんと困るけど、おっても気付かんて」
「空気ねぇ……」
嫁入り前なのに結婚に対してこんなに夢が持てなくていいのかとも思うけど、もう若くはないんだからバカみたいに甘い夢は見ない方がいい。
結婚式のスピーチなんかで、男の人は『結婚はゴールではなくスタートだ』と言いたがるけど、女の人はもっとシビアだ。
私が新入社員の頃、結婚を控えた職場の先輩に仕事を続けるのかと尋ねると、『当たり前でしょ?結婚イコール生活よ。夫の稼ぎと甘い夢だけじゃ飯は食えないの』と言い放った。
私も結婚に対する過剰な希望は捨てて、歳相応に安全性と実用性を重視した方が身のためだ。
「そういう考え方もあるんだね。だったら私も前向きに考えてみようかな……。伊藤くんは冗談半分で言ったのかも知れないけど」
何気なくそう言うと、葉月は少し眉間にシワを寄せてから、グラスに並々と注いだビールを飲み干して「ははは」と笑い声をあげた。
「志織、伊藤に付き合おうって言われたん?」
「いや、付き合おうじゃなくて、なんの期待もしなくていいのがラクだから結婚して一緒に住むかって」
「ふーん……ええんちゃう?私もシゲと結婚するし」
そう言って葉月はフラフラと立ち上がった。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「ひとりで行ける?大丈夫?」
「赤ちゃんちゃうからトイレくらいひとりで行けるわ!」
葉月は半個室になっている客席から出て、化粧室のある方へゆっくりと歩いていく。
いつものように笑っていたはずの葉月の目が潤んでいるように見えた。
葉月が席を外している間、私はひとりで冷めた料理をつつきながらビールを飲んで待っていた。
酔って足元がおぼつかないせいか、葉月が戻ってくるのが遅い気がする。
心配になって様子を見に行こうかと立ち上がりかけたちょうどそのとき、葉月は戻ってきた。
「大丈夫?遅かったから心配したよ」
「大丈夫やって。トイレめっちゃ遠かっただけ。片道1時間かかった」
「なんでやねん」
いつでも笑いを取りたがるいつもの葉月だ。
さっき泣いていたように見えたのは、私の気のせいだったのかな?
少し飲みすぎただけかも知れない。
飲みながら話しているうちにビールがなくなってしまい、さらに追加したビールもあと少しでなくなろうとしている。
私にとってこれくらいはなんてことのない量だけど、普段の葉月の酒量を考えると今日は明らかに飲みすぎだから、そろそろやめさせないと。
「葉月、これ飲み終わったらそろそろ帰ろうか、送ってくから」
「えーっ、まだ6時45分やし!まだまだ飲めるし!全然とことんちゃうやん!」
「いや、それ6時45分じゃなくて9時半だから。それを見間違えるところがすでに酔っぱらいだよ」
「酔うとらんっちゅうねん!」
葉月はどうやら酔うほどに飲むペースが早くなり、饒舌になるタイプらしい。
酔いが回り始めた頃の方が呂律があやしかったくらいで、完全に酔っている今は早口言葉も言えそうなほど滑舌が良くなっている。
思ったより口調がしっかりしていたから、話しているうちに酔いが覚めたのかと思ったけど、葉月はすでに本格的に酔い潰れる寸前なのかも知れない。
意識があるうちに送り届けた方が良さそうだ。
「明日でも明後日でも、またいくらでも付き合うから、今日はこれくらいにしとこうよ」
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