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こじらせた想い
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「……わかりました。ところでその本人は?」
「昼休みに入ってすぐにミスに気付いて指摘したら大号泣して、使い物にならなさそうだから早退させた」
「……さようでございますか……」
なんじゃそりゃ!小学生か!社会人としての責任を取らんかい!!……と叫びたいのをぐっとこらえ、顔をひきつらせながら自分の席に着く。
あの新人、子どもっぽくて物覚えがよろしくないとは思ってたけど、これでおそらく辞めるだろうな……。
裕福な家のお嬢さんらしいし、就職そのものが単なる社会勉強程度の認識なのだろう。
大学時代から付き合ってる人がいて、おまけにすでに婚約もしていて、その婚約者がこれまた社長の息子だかなんだか知らないけど、結婚したら働く必要がないから仕事は辞めるとか当たり前のように言っていた。
だったら最初から就職するなよと何度思ったことか。
なんでも重役の娘だとかで、いわゆるコネ入社なんだそうだ。
おかげで上司も気を遣って、仕事がおろそかでもなかなか強くは注意できなかったように思う。
コネ入社だから悪いとは言わないけど、入社したなら給料分くらいは働いて欲しい。
でもとりあえず今はそんなことを考えている場合じゃない。
定時までになんとしても終わらせなければ!
必死で頑張って定時までになんとか仕事を終わらせ、葉月と一緒に会社から少し離れた半個室の居酒屋へ足を運んだ。
まだ月曜日だからお酒は控えめにして、料理を中心に注文した。
まずはビールを飲みながら午後の仕事の話をして、葉月の様子を窺う。
昼休みほどではないにしても、やっぱり元気がない。
この調子ではいつものように話が盛り上がることもなさそうだし、自分から話すタイミングを見つけられずにいるのかも知れないから、思いきって切り出してみることにした。
「葉月……回りくどいこと言ってても埒が明かないから単刀直入に言うけど……何を悩んでるのか、聞かせてくれる?」
葉月はグラスの中で浮かんでいくビールの気泡を目で追って、小さくため息をついた。
そして勢いよくグラスを煽り、ビールを一気に飲み干して、大きく息をつく。
「私……会社辞めるかも知れん」
「えっ、辞めるって……なんで?」
「……結婚しようかなって……」
まさか葉月の口から、突然『結婚』という言葉が出てくるとは夢にも思っていなかったから、驚きのあまり私は大きく目を見開き、言葉どころか声すらも出なかった。
「いきなり何言うてんねんって思うてるやんな。こんな話すんの、なんか恥ずかしいっていうか、ゆっくり話す機会もなかなかなくて、志織にも誰にも言うてなかったけど……大阪からこっちに来た友達のこと……覚えてるやろ?」
「ああ、うん。バーベキューに誘ってもらったね。すっごく楽しかった」
葉月には仕事の都合や結婚などを機に大阪からこちらに移り住んだ友達が数人いて、わりと頻繁に時間を見つけてはみんなで会って、食事をしたりお酒を飲んだりしている。
私も一度、その集まりのバーベキューに招待してもらったことがあって、みんなとても楽しくていい人たちだった。
「その中におった幼なじみのシゲがな……結婚しようって……」
「えっ、茂森さんが?!」
茂森さんというのは、葉月の小学生の頃からの幼なじみで、3か月ほど前から付き合って欲しいと言われていたそうだ。
気心の知れた幼なじみだとずっと思ってきたから、今さら異性として見られないし、大事な幼なじみだからこれからも友達でいて欲しいと断ったけれど、茂森さんはその後も変わらず優しく接して、葉月の気持ちが自分に向くまで待つつもりだと言ってくれたらしい。
しかし半月ほど前、二人だけで会えないかと呼び出され、大阪支社に異動することが決まったと告げられたのだという。
「昼休みに入ってすぐにミスに気付いて指摘したら大号泣して、使い物にならなさそうだから早退させた」
「……さようでございますか……」
なんじゃそりゃ!小学生か!社会人としての責任を取らんかい!!……と叫びたいのをぐっとこらえ、顔をひきつらせながら自分の席に着く。
あの新人、子どもっぽくて物覚えがよろしくないとは思ってたけど、これでおそらく辞めるだろうな……。
裕福な家のお嬢さんらしいし、就職そのものが単なる社会勉強程度の認識なのだろう。
大学時代から付き合ってる人がいて、おまけにすでに婚約もしていて、その婚約者がこれまた社長の息子だかなんだか知らないけど、結婚したら働く必要がないから仕事は辞めるとか当たり前のように言っていた。
だったら最初から就職するなよと何度思ったことか。
なんでも重役の娘だとかで、いわゆるコネ入社なんだそうだ。
おかげで上司も気を遣って、仕事がおろそかでもなかなか強くは注意できなかったように思う。
コネ入社だから悪いとは言わないけど、入社したなら給料分くらいは働いて欲しい。
でもとりあえず今はそんなことを考えている場合じゃない。
定時までになんとしても終わらせなければ!
必死で頑張って定時までになんとか仕事を終わらせ、葉月と一緒に会社から少し離れた半個室の居酒屋へ足を運んだ。
まだ月曜日だからお酒は控えめにして、料理を中心に注文した。
まずはビールを飲みながら午後の仕事の話をして、葉月の様子を窺う。
昼休みほどではないにしても、やっぱり元気がない。
この調子ではいつものように話が盛り上がることもなさそうだし、自分から話すタイミングを見つけられずにいるのかも知れないから、思いきって切り出してみることにした。
「葉月……回りくどいこと言ってても埒が明かないから単刀直入に言うけど……何を悩んでるのか、聞かせてくれる?」
葉月はグラスの中で浮かんでいくビールの気泡を目で追って、小さくため息をついた。
そして勢いよくグラスを煽り、ビールを一気に飲み干して、大きく息をつく。
「私……会社辞めるかも知れん」
「えっ、辞めるって……なんで?」
「……結婚しようかなって……」
まさか葉月の口から、突然『結婚』という言葉が出てくるとは夢にも思っていなかったから、驚きのあまり私は大きく目を見開き、言葉どころか声すらも出なかった。
「いきなり何言うてんねんって思うてるやんな。こんな話すんの、なんか恥ずかしいっていうか、ゆっくり話す機会もなかなかなくて、志織にも誰にも言うてなかったけど……大阪からこっちに来た友達のこと……覚えてるやろ?」
「ああ、うん。バーベキューに誘ってもらったね。すっごく楽しかった」
葉月には仕事の都合や結婚などを機に大阪からこちらに移り住んだ友達が数人いて、わりと頻繁に時間を見つけてはみんなで会って、食事をしたりお酒を飲んだりしている。
私も一度、その集まりのバーベキューに招待してもらったことがあって、みんなとても楽しくていい人たちだった。
「その中におった幼なじみのシゲがな……結婚しようって……」
「えっ、茂森さんが?!」
茂森さんというのは、葉月の小学生の頃からの幼なじみで、3か月ほど前から付き合って欲しいと言われていたそうだ。
気心の知れた幼なじみだとずっと思ってきたから、今さら異性として見られないし、大事な幼なじみだからこれからも友達でいて欲しいと断ったけれど、茂森さんはその後も変わらず優しく接して、葉月の気持ちが自分に向くまで待つつもりだと言ってくれたらしい。
しかし半月ほど前、二人だけで会えないかと呼び出され、大阪支社に異動することが決まったと告げられたのだという。
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