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こじらせた想い
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「悩みでもあるの?私だって聞くくらいはできるよ?」
「私のことより、志織こそ悩んでるんとちゃうの」
「私はもう別れる決心はついたから。あとはどうやって切り出すかだけ」
私があまりにもあっさりそう言ったからか、葉月は少し意外そうな顔をした。
いつもの葉月なら、そんなに簡単に決意が翻るなんて週末に何が起こったのかと聞きそうなものなのに、そんな余裕もないのか何も聞かなかった。
「そうなんや……。でもとりあえず会社ではちょっと話しづらいな、時間もないし」
「じゃあ……仕事の後で食事でもしながら話そうか。予定は大丈夫?」
「うん。じゃあ仕事終わったら自販機のとこで」
昼休みが終わる10分ほど前に食器を下げて社員食堂を出た。
それぞれの部署に戻る途中、営業部のすぐそばまで来たときに葉月が「ああ、忘れてたわ」と呟いて、私に紙切れを差し出した。
「何これ?」
「伊藤から預かったの忘れてた」
受け取った紙切れを開いてみると、携帯の電話番号とメールアドレスが書かれていた。
冗談でも一緒に住もうとか結婚しようとか言ってくるわりには、なんとなくだけどとても事務的な気がする。
「志織……次は伊藤と付き合うん?」
蚊の鳴くような声で葉月が呟いた。
「えっ?今なんて?」
思いもよらぬ言葉が葉月の口から出てきたことに驚いて、思わず聞き直してしまった。
あまりにも小さな声だった自覚はあるんだろう。
葉月は私が葉月の言葉を聞き逃してもう一度言うように促したのだと思ったようだ。
「いや、いいわ、なんでもない。じゃあまた仕事の後でな」
それだけ言うと、葉月は急ぎ足で営業部のオフィスに入ってしまった。
いつもなら言いたいことはキッパリ言って、聞きたいことはハッキリ聞くのに、やっぱりおかしい。
何があったんだろうかと思いながら商品管理部のオフィスに戻っている途中で、私は大事なことを思い出した。
週末にいろいろありすぎて、金曜日に護と会う約束が今日の晩になっていたことをすっかり忘れていた。
護の方が先約だから優先するべきかと思ったけれど、今の私にとっては護より葉月の方が大事だ。
もしかしたら護も私との約束なんか忘れているかも知れないけれど、今日は会えないとあとでメッセージを送っておくことにしよう。
昼休みが終わって間もなく、私が所属している生産管理課の有田課長が私を手招きした。
「はい、なんでしょうか」
「佐野主任、このデータ送るから修正してやってくれる?」
有田課長はそう言って私にパソコンの画面を見るよう促す。
「これは……ん?」
パソコンの画面に映し出されたデータには、店舗での販売数や取引企業からの受注数、各工場の在庫と工場で生産する数量、それによって生じる利益を算出した数字が商品別に並んでいる。
しかしよく見るとその数字があり得ない数字になっていて、しかも同じような間違いだらけのデータが何ページも続いている。
「なんですかこれは?」
「新人ちゃんが商品名を間違えてることに気付かずに延々と数字を入力したらしい。本人に責任持って直させたいところだけど、これ急ぐんだ。今日の定時までに必要だから君がやってくれる?」
新人って言ったって、入社して何か月経ってると思ってるんだ?
ろくに確認もせず延々と数字だけ打ち込むなんて、仕事を舐めてるとしか思えない。
これだけのミスに対して、新人だからといういいわけは果たして通用するのかとも思ったけれど、抗議している時間すら惜しい。
「私のことより、志織こそ悩んでるんとちゃうの」
「私はもう別れる決心はついたから。あとはどうやって切り出すかだけ」
私があまりにもあっさりそう言ったからか、葉月は少し意外そうな顔をした。
いつもの葉月なら、そんなに簡単に決意が翻るなんて週末に何が起こったのかと聞きそうなものなのに、そんな余裕もないのか何も聞かなかった。
「そうなんや……。でもとりあえず会社ではちょっと話しづらいな、時間もないし」
「じゃあ……仕事の後で食事でもしながら話そうか。予定は大丈夫?」
「うん。じゃあ仕事終わったら自販機のとこで」
昼休みが終わる10分ほど前に食器を下げて社員食堂を出た。
それぞれの部署に戻る途中、営業部のすぐそばまで来たときに葉月が「ああ、忘れてたわ」と呟いて、私に紙切れを差し出した。
「何これ?」
「伊藤から預かったの忘れてた」
受け取った紙切れを開いてみると、携帯の電話番号とメールアドレスが書かれていた。
冗談でも一緒に住もうとか結婚しようとか言ってくるわりには、なんとなくだけどとても事務的な気がする。
「志織……次は伊藤と付き合うん?」
蚊の鳴くような声で葉月が呟いた。
「えっ?今なんて?」
思いもよらぬ言葉が葉月の口から出てきたことに驚いて、思わず聞き直してしまった。
あまりにも小さな声だった自覚はあるんだろう。
葉月は私が葉月の言葉を聞き逃してもう一度言うように促したのだと思ったようだ。
「いや、いいわ、なんでもない。じゃあまた仕事の後でな」
それだけ言うと、葉月は急ぎ足で営業部のオフィスに入ってしまった。
いつもなら言いたいことはキッパリ言って、聞きたいことはハッキリ聞くのに、やっぱりおかしい。
何があったんだろうかと思いながら商品管理部のオフィスに戻っている途中で、私は大事なことを思い出した。
週末にいろいろありすぎて、金曜日に護と会う約束が今日の晩になっていたことをすっかり忘れていた。
護の方が先約だから優先するべきかと思ったけれど、今の私にとっては護より葉月の方が大事だ。
もしかしたら護も私との約束なんか忘れているかも知れないけれど、今日は会えないとあとでメッセージを送っておくことにしよう。
昼休みが終わって間もなく、私が所属している生産管理課の有田課長が私を手招きした。
「はい、なんでしょうか」
「佐野主任、このデータ送るから修正してやってくれる?」
有田課長はそう言って私にパソコンの画面を見るよう促す。
「これは……ん?」
パソコンの画面に映し出されたデータには、店舗での販売数や取引企業からの受注数、各工場の在庫と工場で生産する数量、それによって生じる利益を算出した数字が商品別に並んでいる。
しかしよく見るとその数字があり得ない数字になっていて、しかも同じような間違いだらけのデータが何ページも続いている。
「なんですかこれは?」
「新人ちゃんが商品名を間違えてることに気付かずに延々と数字を入力したらしい。本人に責任持って直させたいところだけど、これ急ぐんだ。今日の定時までに必要だから君がやってくれる?」
新人って言ったって、入社して何か月経ってると思ってるんだ?
ろくに確認もせず延々と数字だけ打ち込むなんて、仕事を舐めてるとしか思えない。
これだけのミスに対して、新人だからといういいわけは果たして通用するのかとも思ったけれど、抗議している時間すら惜しい。
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