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そうと決まれば話は早い
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「その関係って、もう長いの?」
「いえ、最初に助けてもらったのは半年くらい前ですけど、二人だけで食事とかするようになったのは3か月くらい前で、今の関係になったのはひと月ちょっとくらい前です」
瀧内くんに聞いた話から推測して、半年前にはもうすでに二人は関係があったんだと思っていたけど、そうではなかったらしい。
どちらにせよ、奥田さんとの関係に溺れて私に会いに来なくなったということだけは間違いなさそうだ。
私が護の彼女だということを知らないであろう奥田さんは、周りを少しキョロキョロ見回してから少し身を乗り出し、内緒話をするときのように口元に手を添えて口を開く。
「でも彼女は淡白であまりエッチさせてくれないし、しても全然満足できないんですって。だからもし結婚しても私との関係は続けたいそうです」
「なんじゃそれ!」
うっかり大声でそう叫ぶと、周りの客が驚いた顔で一斉に振り返った。
あまりの恥ずかしさで、慌ててごまかそうとコーヒーカップを口に運ぶ。
「佐野主任……?」
「ごめん、急に大声出して。なんかすごい腹が立ったから。だってひどくない?なんでそんなこと言われても好きなの?もっと他にいるでしょ?奥田さんのことだけを大事にしてくれる人が」
自分自身がそんな風に言われていたことももちろんハラワタが煮えくり返るほど腹が立つけど、護が奥田さんを都合のいい体だけの関係の女扱いしていることにも腹が立つ。
女をなんだと思ってるんだ!
「社員証を届けてくれた人にも同じこと言われました。でももしかしたら体だけじゃなくて、私自身を一番好きになってくれるんじゃないかと思ったりして、やっぱりあきらめきれなくて……」
「そんなに好きなの?」
「はい……こんなに誰かを好きになったの初めてです」
こんなにまっすぐな目でそう言われると、浮気されたのは私なのに、なぜだか罪悪感みたいなものが湧いてくる。
もしかしたら私より奥田さんの方が護のことを好きなのではないかとか、私が護と別れたら丸く収まるんじゃないかと考えてしまうくらいは、奥田さんの目力の破壊力は凄まじいと思う。
「そっか……。奥田さんがそれで幸せなら私はこれ以上もう何も言わないけど……」
「すみません、私の話ばっかりしてしまって。私、就職と同時に地元から離れたので近くに友達もいないし、二股騒動でもめてから同期ともこんな話はできなくて……」
「二股騒動って新入社員の頃のことだよね?それからずっと?」
「会社なんで、うわべだけは仲良くしてくれますけどね。私のこと良く思ってないのはわかるし、ヘタに本音なんか話せません」
もっと何も考えずに気楽に生きているのかと思っていたけれど、奥田さんは奥田さんなりにいろいろ悩んでいるらしい。
今日ここで会って話してみて、ちょっと印象が変わった気がする。
そして私自身も、護との結婚はあり得ないと心の底から思った。
ずいぶん長く話し込んでしまったので、そろそろ店を出ることにした。
奥田さんは財布からこの店のスタンプカードを出して、二人分まとめて会計をしてもいいかと尋ねた。
それでスタンプカードがいっぱいになって、次回はフルーツタルトセットが無料になるし、話を聞いてもらったお礼に私の分の飲食代を払いたいと言う。
上司としてさすがにそれはどうかと思うので、気持ちだけありがたく受け取っておいて、自分の分のお金を奥田さんに預けた。
奥田さんはレジで支払いをして、いっぱいになったスタンプカードを嬉しそうに眺めた。
これもまた意外な一面だと思う。
店を出ると奥田さんは深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。佐野主任に聞いてもらって少しスッキリしました」
「私も真面目に結婚を考えようって踏ん切りがついて良かった。やっぱりアレだね。なんでも隠しておこうとするのが間違いのもとなのかもね」
「間違いのもと……ですか?」
「だってそうでしょ?堂々と人に言えない関係なんて……ねえ?」
「いえ、最初に助けてもらったのは半年くらい前ですけど、二人だけで食事とかするようになったのは3か月くらい前で、今の関係になったのはひと月ちょっとくらい前です」
瀧内くんに聞いた話から推測して、半年前にはもうすでに二人は関係があったんだと思っていたけど、そうではなかったらしい。
どちらにせよ、奥田さんとの関係に溺れて私に会いに来なくなったということだけは間違いなさそうだ。
私が護の彼女だということを知らないであろう奥田さんは、周りを少しキョロキョロ見回してから少し身を乗り出し、内緒話をするときのように口元に手を添えて口を開く。
「でも彼女は淡白であまりエッチさせてくれないし、しても全然満足できないんですって。だからもし結婚しても私との関係は続けたいそうです」
「なんじゃそれ!」
うっかり大声でそう叫ぶと、周りの客が驚いた顔で一斉に振り返った。
あまりの恥ずかしさで、慌ててごまかそうとコーヒーカップを口に運ぶ。
「佐野主任……?」
「ごめん、急に大声出して。なんかすごい腹が立ったから。だってひどくない?なんでそんなこと言われても好きなの?もっと他にいるでしょ?奥田さんのことだけを大事にしてくれる人が」
自分自身がそんな風に言われていたことももちろんハラワタが煮えくり返るほど腹が立つけど、護が奥田さんを都合のいい体だけの関係の女扱いしていることにも腹が立つ。
女をなんだと思ってるんだ!
「社員証を届けてくれた人にも同じこと言われました。でももしかしたら体だけじゃなくて、私自身を一番好きになってくれるんじゃないかと思ったりして、やっぱりあきらめきれなくて……」
「そんなに好きなの?」
「はい……こんなに誰かを好きになったの初めてです」
こんなにまっすぐな目でそう言われると、浮気されたのは私なのに、なぜだか罪悪感みたいなものが湧いてくる。
もしかしたら私より奥田さんの方が護のことを好きなのではないかとか、私が護と別れたら丸く収まるんじゃないかと考えてしまうくらいは、奥田さんの目力の破壊力は凄まじいと思う。
「そっか……。奥田さんがそれで幸せなら私はこれ以上もう何も言わないけど……」
「すみません、私の話ばっかりしてしまって。私、就職と同時に地元から離れたので近くに友達もいないし、二股騒動でもめてから同期ともこんな話はできなくて……」
「二股騒動って新入社員の頃のことだよね?それからずっと?」
「会社なんで、うわべだけは仲良くしてくれますけどね。私のこと良く思ってないのはわかるし、ヘタに本音なんか話せません」
もっと何も考えずに気楽に生きているのかと思っていたけれど、奥田さんは奥田さんなりにいろいろ悩んでいるらしい。
今日ここで会って話してみて、ちょっと印象が変わった気がする。
そして私自身も、護との結婚はあり得ないと心の底から思った。
ずいぶん長く話し込んでしまったので、そろそろ店を出ることにした。
奥田さんは財布からこの店のスタンプカードを出して、二人分まとめて会計をしてもいいかと尋ねた。
それでスタンプカードがいっぱいになって、次回はフルーツタルトセットが無料になるし、話を聞いてもらったお礼に私の分の飲食代を払いたいと言う。
上司としてさすがにそれはどうかと思うので、気持ちだけありがたく受け取っておいて、自分の分のお金を奥田さんに預けた。
奥田さんはレジで支払いをして、いっぱいになったスタンプカードを嬉しそうに眺めた。
これもまた意外な一面だと思う。
店を出ると奥田さんは深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。佐野主任に聞いてもらって少しスッキリしました」
「私も真面目に結婚を考えようって踏ん切りがついて良かった。やっぱりアレだね。なんでも隠しておこうとするのが間違いのもとなのかもね」
「間違いのもと……ですか?」
「だってそうでしょ?堂々と人に言えない関係なんて……ねえ?」
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