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そうと決まれば話は早い
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私は料理を作るのも後片付けも本当は好きでも得意でもなく、必要に迫られてやっているだけであって、どちらかというと面倒だと思うし、特に一人のときはできるだけ簡単に済ませてラクしたい。
それでも頑張って料理を作っていたのは、護に喜んで欲しかったからだ。
『志織の作った料理はうまいなぁ』と言って美味しそうに残さず食べてくれるのが嬉しくて、護が好きな料理を一生懸命作った。
だけど最近の私は護にとって『いつでもタダで食事をさせてくれる便利で気前のいい母親みたいな人』くらいなものだろう。
焼けたパンをトースターから取り出してマーガリンを塗り、ハムとチーズを乗せてキッチンで立ったままかじる。
パンくずをシンクに落ちるようにしておけば、皿を使わずに済むから、洗う手間が省けてラクだ。
行儀は悪いけれど、誰が見ているわけでもなければ迷惑もかけていないし、私一人が納得していればそれでいい。
護が見ていたら呆れた顔をして『行儀悪いな、女のくせに横着するなよ』と言うだろう。
……ただ食べるだけで、洗い物のひとつもしたことないくせに。
そういえば専業主婦をしている友人が、以前会った時に、自分で動くことも妻を誉めることもせず細かい文句ばかり言う夫の愚痴をこぼしていた。
私はまだ主婦ではないけれど、今の私はどことなくそのときの彼女に似ているなと苦笑がもれる。
彼女は大恋愛の末に結婚して、人も羨むような豪華な結婚式と披露宴を挙げて、親から援助を受けて買った素敵な一軒家で、エリートの夫と可愛い子どもと一緒に暮らしている。
端から見たら何が不満なのかわからなくても、当事者には当事者なりの苦悩があるらしい。
『一緒に暮らしてみないと相手の本質なんてわからないもんだよ』と彼女は言っていたけれど、愚痴や悪口を言いながらも、結局はお互いに欠点も受け入れていて、それを差し引いても愛情とか信頼の方が勝っているから一緒に暮らしているんだろう。
もちろん義務という大きな枷もあるから、決してきれいごとだけでは済まないのだろうが、結婚には愛情と信頼の他に、許容も忍耐も必要なのかも知れない。
私はまだ護に縛られる必要などないのに、手っ取り早く結婚するために護の浮気を容認しようとしていた気がする。
そんなことをしても護を付け上がらせて自分の首を絞めるだけなのに、絶対に幸せにはなれない未来を自ら選ぼうとするなんて、本当にバカげてる。
護はおそらく、世の中は自分を中心に回っていると思っているか、もしくは甘やかすとどんどんダメになるタイプの人間なんだと思う。
あのまま結婚する前に気付けて良かった。
私が騙されているふりをして悪い意味で甘やかしてやれば、あとは勝手に自滅するだろう。
そのときになって助けを求められても、許しを乞われても、私は笑って突き放すつもりだ。
簡素な朝食を済ませると暇を持て余し、何気なくテレビをつけた。
休日の朝にはちょうどいい緩さの情報番組が流れていて、若い女性レポーターが人気のカフェで、生クリームとフルーツのたっぷり乗ったパンケーキを頬張っている。
レポーターの食レポが特別上手だったわけでも、甘いものが特別好きというわけでもないけれど、画面に映るパンケーキの上の生クリームを見ていたら、久しぶりに甘いものが食べたくなった。
以前の私は護を中心に日々の予定を組んでいたから、休日はいつ護が来てもいいように、朝から護の好きな料理の材料を買いに行って、護が来れば料理を作って洗い物をして、来なければすべてが無駄になって、とにかくいつでも護のために動いていた気がする。
だけどもうそんなことをする必要はどこにもない。
結婚して子どもができると、自分の好きなことやしたいことを、したいときになかなかできなくなると友人たちがぼやいていたけれど、彼女たちの言葉を借りるとすれば、私はまだ気楽な独り身だ。
それでも頑張って料理を作っていたのは、護に喜んで欲しかったからだ。
『志織の作った料理はうまいなぁ』と言って美味しそうに残さず食べてくれるのが嬉しくて、護が好きな料理を一生懸命作った。
だけど最近の私は護にとって『いつでもタダで食事をさせてくれる便利で気前のいい母親みたいな人』くらいなものだろう。
焼けたパンをトースターから取り出してマーガリンを塗り、ハムとチーズを乗せてキッチンで立ったままかじる。
パンくずをシンクに落ちるようにしておけば、皿を使わずに済むから、洗う手間が省けてラクだ。
行儀は悪いけれど、誰が見ているわけでもなければ迷惑もかけていないし、私一人が納得していればそれでいい。
護が見ていたら呆れた顔をして『行儀悪いな、女のくせに横着するなよ』と言うだろう。
……ただ食べるだけで、洗い物のひとつもしたことないくせに。
そういえば専業主婦をしている友人が、以前会った時に、自分で動くことも妻を誉めることもせず細かい文句ばかり言う夫の愚痴をこぼしていた。
私はまだ主婦ではないけれど、今の私はどことなくそのときの彼女に似ているなと苦笑がもれる。
彼女は大恋愛の末に結婚して、人も羨むような豪華な結婚式と披露宴を挙げて、親から援助を受けて買った素敵な一軒家で、エリートの夫と可愛い子どもと一緒に暮らしている。
端から見たら何が不満なのかわからなくても、当事者には当事者なりの苦悩があるらしい。
『一緒に暮らしてみないと相手の本質なんてわからないもんだよ』と彼女は言っていたけれど、愚痴や悪口を言いながらも、結局はお互いに欠点も受け入れていて、それを差し引いても愛情とか信頼の方が勝っているから一緒に暮らしているんだろう。
もちろん義務という大きな枷もあるから、決してきれいごとだけでは済まないのだろうが、結婚には愛情と信頼の他に、許容も忍耐も必要なのかも知れない。
私はまだ護に縛られる必要などないのに、手っ取り早く結婚するために護の浮気を容認しようとしていた気がする。
そんなことをしても護を付け上がらせて自分の首を絞めるだけなのに、絶対に幸せにはなれない未来を自ら選ぼうとするなんて、本当にバカげてる。
護はおそらく、世の中は自分を中心に回っていると思っているか、もしくは甘やかすとどんどんダメになるタイプの人間なんだと思う。
あのまま結婚する前に気付けて良かった。
私が騙されているふりをして悪い意味で甘やかしてやれば、あとは勝手に自滅するだろう。
そのときになって助けを求められても、許しを乞われても、私は笑って突き放すつもりだ。
簡素な朝食を済ませると暇を持て余し、何気なくテレビをつけた。
休日の朝にはちょうどいい緩さの情報番組が流れていて、若い女性レポーターが人気のカフェで、生クリームとフルーツのたっぷり乗ったパンケーキを頬張っている。
レポーターの食レポが特別上手だったわけでも、甘いものが特別好きというわけでもないけれど、画面に映るパンケーキの上の生クリームを見ていたら、久しぶりに甘いものが食べたくなった。
以前の私は護を中心に日々の予定を組んでいたから、休日はいつ護が来てもいいように、朝から護の好きな料理の材料を買いに行って、護が来れば料理を作って洗い物をして、来なければすべてが無駄になって、とにかくいつでも護のために動いていた気がする。
だけどもうそんなことをする必要はどこにもない。
結婚して子どもができると、自分の好きなことやしたいことを、したいときになかなかできなくなると友人たちがぼやいていたけれど、彼女たちの言葉を借りるとすれば、私はまだ気楽な独り身だ。
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