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桜ひとひら落ちて、人生の春を知る
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お墓参りを終えた私と順平は、駅のそばの定食屋で食事をした後、再び電車に乗って家路に就いた。
マンションに戻り、コーヒーを淹れて順平と向かい合う。
「それで……おまえはこれからどうするの?」
「これから?」
「もう一緒に暮らす必要なんてないだろ。俺も陽平の事はおまえに全部話したし……」
おかしななりゆきで始まった同居生活に幕を下ろす時が、とうとう来たのだ。
あの時順平と出会わなければ、私は今も後悔したままで陽平との想い出にしがみついていたのかも知れない。
「うん……そうだね。順平はどうするの?」
「俺は……おまえが出てくなら、ここ引き払って地元に帰る。もうここに用はないからな」
「彼女がたくさんいるんじゃないの?」
「ああ……あれは仕事だ。金もらってデートするやつ。オプションでホテル行ったりもしたけどな」
うわ……この男は……。
それで私やマスターには、なんの仕事をしているか言わなかったのか?
「双子でも全然違うんだね」
「俺は昔からモテたからな。手っ取り早く金になる仕事はそんなもんしかなかったし」
仕事と割り切って、自分のルックスの良さを利用したわけだ。
なんとなくこういうところは順平らしい。
「地元に帰ってどうするの?」
「さあな……どうにかなんだろ。おまえは?」
「どうしようかな……」
「マスターは?おまえも好きなんだろ?」
まさかここで早苗さんの事を言われるとは思わなかった。
順平に意表を突かれ、ドギマギしてしまう。
「ん?うん……でも……」
「なんにも遠慮する事ないぞ。向こうも本気みたいだしな。まぁ……40のオッサンだけど」
「オッサンじゃないよ、大人なの」
早苗さんとはあれから会っていない。
順平の事は自分でなんとかするから、しばらく見守っていて欲しいと私が言ったからだ。
「それとも……俺と一緒に来るか?」
「順平と?なんで?」
「バーカ、冗談だ。また夢で陽平に怒られるのはイヤだからな。あいつ、ああ見えて怒ると怖いんだよ」
陽平の怒った顔は記憶にない。
昔は陽平も順平と兄弟喧嘩なんかしたのかな。
「ふふ……そうなんだ。私の前では怒った事なかったから意外だな。いつも笑ってた」
「怒る必要なんかないくらい幸せだったんだろ。おまえが幸せになれんなら、陽平も喜ぶんじゃね?マスターんとこ行けば?」
相変わらず口は悪いけど、順平の言葉がいつになく優しい。
弟のために身代わりになったくらいだから、きっと順平も本来は優しい性格なのだと思う。
「うん……少し考える。なんか、ここ数か月でいろいろありすぎて……」
「考えてるうちに歳食って逃げられんぞ。……ってかさ、おまえが出ていかないと、俺もここ出られないだろ?出てかないとまた襲うぞ」
「ひどいな、順平は……」
こんなのはきっと口先だけで、陽平に怒られるような事はもうしないだろうけど。
これは順平なりの優しさなのかな?
「さっさと荷物まとめて出てけ」
「天の邪鬼……」
小声でボソッと呟くと、順平がギロリと私をにらんだ。
「なんか言ったか?」
「なーんにも」
順平とはいろいろあったけど、今となっては昔からの友人のような、不思議な感覚だ。
順平は順平なりに、私のためを思って背中を押してくれているんだと思う。
「できるだけ早く出るようにするから」
「おぅ、とっとと出てけよ」
順平と離れるのは少し寂しいような気もする。
だけどもう、順平は陽平の身代わりをする必要なんてない。
順平は順平だ。
順平には順平の生きる道がある。
私も前に進まなくちゃ。
マンションに戻り、コーヒーを淹れて順平と向かい合う。
「それで……おまえはこれからどうするの?」
「これから?」
「もう一緒に暮らす必要なんてないだろ。俺も陽平の事はおまえに全部話したし……」
おかしななりゆきで始まった同居生活に幕を下ろす時が、とうとう来たのだ。
あの時順平と出会わなければ、私は今も後悔したままで陽平との想い出にしがみついていたのかも知れない。
「うん……そうだね。順平はどうするの?」
「俺は……おまえが出てくなら、ここ引き払って地元に帰る。もうここに用はないからな」
「彼女がたくさんいるんじゃないの?」
「ああ……あれは仕事だ。金もらってデートするやつ。オプションでホテル行ったりもしたけどな」
うわ……この男は……。
それで私やマスターには、なんの仕事をしているか言わなかったのか?
「双子でも全然違うんだね」
「俺は昔からモテたからな。手っ取り早く金になる仕事はそんなもんしかなかったし」
仕事と割り切って、自分のルックスの良さを利用したわけだ。
なんとなくこういうところは順平らしい。
「地元に帰ってどうするの?」
「さあな……どうにかなんだろ。おまえは?」
「どうしようかな……」
「マスターは?おまえも好きなんだろ?」
まさかここで早苗さんの事を言われるとは思わなかった。
順平に意表を突かれ、ドギマギしてしまう。
「ん?うん……でも……」
「なんにも遠慮する事ないぞ。向こうも本気みたいだしな。まぁ……40のオッサンだけど」
「オッサンじゃないよ、大人なの」
早苗さんとはあれから会っていない。
順平の事は自分でなんとかするから、しばらく見守っていて欲しいと私が言ったからだ。
「それとも……俺と一緒に来るか?」
「順平と?なんで?」
「バーカ、冗談だ。また夢で陽平に怒られるのはイヤだからな。あいつ、ああ見えて怒ると怖いんだよ」
陽平の怒った顔は記憶にない。
昔は陽平も順平と兄弟喧嘩なんかしたのかな。
「ふふ……そうなんだ。私の前では怒った事なかったから意外だな。いつも笑ってた」
「怒る必要なんかないくらい幸せだったんだろ。おまえが幸せになれんなら、陽平も喜ぶんじゃね?マスターんとこ行けば?」
相変わらず口は悪いけど、順平の言葉がいつになく優しい。
弟のために身代わりになったくらいだから、きっと順平も本来は優しい性格なのだと思う。
「うん……少し考える。なんか、ここ数か月でいろいろありすぎて……」
「考えてるうちに歳食って逃げられんぞ。……ってかさ、おまえが出ていかないと、俺もここ出られないだろ?出てかないとまた襲うぞ」
「ひどいな、順平は……」
こんなのはきっと口先だけで、陽平に怒られるような事はもうしないだろうけど。
これは順平なりの優しさなのかな?
「さっさと荷物まとめて出てけ」
「天の邪鬼……」
小声でボソッと呟くと、順平がギロリと私をにらんだ。
「なんか言ったか?」
「なーんにも」
順平とはいろいろあったけど、今となっては昔からの友人のような、不思議な感覚だ。
順平は順平なりに、私のためを思って背中を押してくれているんだと思う。
「できるだけ早く出るようにするから」
「おぅ、とっとと出てけよ」
順平と離れるのは少し寂しいような気もする。
だけどもう、順平は陽平の身代わりをする必要なんてない。
順平は順平だ。
順平には順平の生きる道がある。
私も前に進まなくちゃ。
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