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過ちに真の実は生らぬ

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朱里へ

朱里がこの手紙を読む頃には、
きっと俺はもうこの世にはいないだろう。

俺は朱里に謝らなきゃいけない事が2つある。

ひとつは、俺が嘘をついていた事。
俺の名前は陽平。順平じゃない。
順平は俺の双子の兄の名前なんだ。
病気のせいで高校を辞めて、
元気になってもそれがついて回って、
自分のしたい事が思うようにできなかった。
もしまた再発して俺が急にいなくなったら、
順平に俺のふりをしてもらおうと思ってた。
だから、順平のふりをしていたんだ。
ホントは朱里に「陽平」って呼んで欲しいって、
いつも思ってた。
でも結局ホントの事は言えなかった。ごめん。

もうひとつは、
ずっと一緒にいようって何度も言ったのに、
もう一緒にはいられない事。
俺が死んだら、朱里は俺の事なんか忘れて、
俺より強くて優しくて、
何よりも朱里を大事にしてくれる健康な人と
幸せになって欲しい。

俺は朱里に会えて幸せだったよ。
朱里と会うまでは、好きな事ができれば
いつ死んでもかまわないって思ってた。
だけど朱里と出会って初めて恋をして、
好きな人と一緒に生きたいって思えたんだ。
俺の手で朱里を幸せにしてあげたかった。
約束守れなくてホントにごめん。

最後にもう一度会いたかったけど……
きっと朱里を泣かせちゃうから、やめておくよ。
朱里には俺の笑った顔だけ覚えてて欲しい。

俺の最初で最後の恋をありがとう。
幸せな時間をありがとう。
朱里、愛してる。
朱里の幸せを願ってるよ。

陽平より


『ごめん』と『ありがとう』と『愛してる』。
私の伝えられなかった言葉を、彼は残してくれた。

「陽平……」

手紙を抱きしめて、一度も呼ぶことはできなかった彼の名前を呟いた。

「ごめん……ごめんね……」

涙があとからあとから溢れて頬を伝い、ポトポトとこぼれ落ちた。
彼は……陽平は、どんな気持ちでこの手紙を書いたんだろう?
その手紙は、死を覚悟しても尚、私に対する優しさで溢れていた。
陽平は私が逃げ出してしまった事を知らないまま亡くなってしまった。
今更悔やんでも仕方ないのはわかってる。
だけどあの時、もう少し私が強ければ……。
『陽平、愛してる』と最後に一度だけでも言えたかも知れないのに。
『大事にしてくれてありがとう、一緒にいられて幸せだったよ』と素直な気持ちを伝えられたかも知れないのに。
それは陽平の望みではなかったかも知れないけれど、何も知らずに後悔するよりは良かったんじゃないかと思う。

「忘れない……。忘れられるわけないよ……」

今はもう陽平はここにはいない。
どんなに想っても陽平が戻ってくる事はないけれど……。
せめて、陽平との幸せだった日々の想い出と、陽平の笑顔と優しさを、私の胸に大切にしまっておいてもいいかな?
もう陽平を思い出して、悲しんで泣いたりしないから。
だから今夜だけ。
今夜だけは、陽平を想って思いきり泣かせて。
明日からは陽平との幸せだった想い出を胸に、笑って前を向いて生きるから。



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