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聞くは一時の後悔、聞かぬは一生の苦痛

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「あんまり俺に似たら旦那にバレるか、そりゃまずいな。でも大丈夫だろ、単純で鈍そうな男だもんな。あんなののどこがいいわけ?……ハイハイ、悪かったって。せいぜい大事にしてもらえよ。……大丈夫だ、朱里はなんにも気付いてない」

私は気付いてないって……なんの事……?
頭の中を整理したいのに、高熱のせいで朦朧とする頭では何も考えられない。
だけど心のどこかで、考えるのを拒絶している私がいる。
もういやだ、何も知りたくない。
本当の事を知っても、どうにもならなくて泣くくらいなら、何も知らない方がいい。
せめてちゃんと騙してくれたら、私は嘘でも順平ともう一度夢を見られたのに。
あんなの、私の好きだった順平じゃない。



気が付くと、見慣れない白い天井の下にいた。
私はベッドの上に寝かされているようだ。
ここはどこだろう?

「気が付いた?」

声の方にゆっくり視線を向けると、そこには心配そうに私の顔を覗き込む早苗さんがいた。

「あ……」

ひどく掠れた声が私の口からもれた。
慌てて起き上がろうとするけれど、体に力が入らない。

「まだ起きちゃダメだよ。横になってて」

早苗さんは優しく私を制して、布団をかけ直した。
さっきまで部屋にいたはずなのに、別の場所で早苗さんが目の前にいるこの状況が把握できず戸惑う。

「ビックリしたよ。すごい熱だし……意識がなかったから」
「え……?私が……?」

早苗さんの話によると、カフェのバイトに入る時間になっても私が来なかったので、店長が電話をしたらしい。
しかし何度電話しても繋がらず心配しているところに、ちょうど早苗さんが来たのだそうだ。
早苗さんは私に何かあったのではないかと胸騒ぎを覚えてマンションに駆け付けたけれど、鍵がしまっていたので管理人に事情を説明して部屋に入れてもらったところ、そんな状態の私がいたと言う。
急いで病院に運ぶと、私は高熱のせいでひどい脱水症状を起こしていたそうだ。
点滴をしたり検査をしたりしたようだけど、私は何も覚えていない。

「とりあえず……気が付いて良かった。あの時、俺が行かなかったら大変な事になってたよ」
「すみません……」
「ウイルス性の病気ではなかったから……疲れてたのかな。少しゆっくり休むといい」
「ハイ……。あっ……ファミレスに電話しとかないと…… 」
「郵便局のそばのファミレスだよな?代わりに電話しておくから。心配しなくていいよ」

早苗さんは私の頭を優しく撫でてくれた。
久しぶりのこの感触に、胸が痛くなる。

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