79 / 116
恋は嘘と無情の種
6
しおりを挟む
心も体も疲れきっているのに眠れない。
眠っている順平の隣に体を横たえ、順平の寝顔を見ながら考えている。
昔は腕枕してくれたのにな。
腕枕をされて、順平の胸に頬をすり寄せて、甘い余韻に浸って眠るのが幸せだった。
順平はすぐ隣にいるのに、別人といるような、ひとりぼっちのような気がする。
これからまた一緒に過ごしていくうちに、その違和感はなくなるだろうか?
あの頃のように、順平が好きだと心から言えるだろうか?
寝返りを打って目を閉じると、また早苗さんの顔が浮かんだ。
明日は早苗さんに順平との事を話さなきゃと考えるだけで、息苦しいほどに胸が痛む。
私は順平の寝息を聞きながら、頭の中で早苗さんへの断りの言葉を延々と考え続けた。
目が覚めると、隣に順平の姿はなかった。
バイトに行ったのかな。
身支度を整えながら夕べの事を思い出す。
早苗さんに順平の事を話すのは正直気が重い。
私の気持ちが早苗さんに向くまで待つと言ってくれたのに、それに応える事はできない。
私の心は早苗さんに傾きかけていた。
だけど完全に早苗さんを好きになっていない今ならまだ、なかった事にできるだろう。
順平を選んだのは私だ。
もう後戻りはできない。
いつものようにカフェのバイトを終えると、早苗さんが事務所から顔を出した。
気まずくて、また息が苦しくなる。
「朱里……この後、時間ある?」
「ハイ……」
「少し話そうか」
いつまでも逃げられるとは思っていない。
この迷いをひと思いに断ち切って終わらせてしまおう。
私は覚悟を決めてうなずいた。
着替えを済ませて事務所に行くと、場所を変えようと早苗さんが言った。
店から少し離れたカフェに入りコーヒーをオーダーして、少しの間、二人とも黙ってコーヒーを飲んだ。
話さなきゃと思うほど言葉が出てこない。
沈黙を破ったのは早苗さんの方だった。
「昨日あれから……順平にひどい事されなかった?」
夕べの順平との出来事を思うと、早苗さんの顔をまっすぐに見られない。
私はうつむいたままうなずいた。
ひどい事はされていない。
けれど、私は……。
「順平と何があったのか、話してくれる?」
早苗さんがためらいがちに尋ねた。
早苗さんはいつも私とまっすぐに向き合ってくれたのだから、嘘つきで薄情な人間だと罵られ軽蔑されたとしても、私も正直にすべてを話そう。
「私……昔、順平と付き合ってました」
順平と付き合っていた事や、順平を突然失うかも知れない不安に耐えきれなくなり黙って順平の前から姿を消した事、それから間もないうちに知り合った壮介と付き合い始めた事、そして昨日順平から聞いた、私がいなくなってからの事を話した。
早苗さんは驚いていたけれど、何も言わず真剣に話を聞いてくれた。
眠っている順平の隣に体を横たえ、順平の寝顔を見ながら考えている。
昔は腕枕してくれたのにな。
腕枕をされて、順平の胸に頬をすり寄せて、甘い余韻に浸って眠るのが幸せだった。
順平はすぐ隣にいるのに、別人といるような、ひとりぼっちのような気がする。
これからまた一緒に過ごしていくうちに、その違和感はなくなるだろうか?
あの頃のように、順平が好きだと心から言えるだろうか?
寝返りを打って目を閉じると、また早苗さんの顔が浮かんだ。
明日は早苗さんに順平との事を話さなきゃと考えるだけで、息苦しいほどに胸が痛む。
私は順平の寝息を聞きながら、頭の中で早苗さんへの断りの言葉を延々と考え続けた。
目が覚めると、隣に順平の姿はなかった。
バイトに行ったのかな。
身支度を整えながら夕べの事を思い出す。
早苗さんに順平の事を話すのは正直気が重い。
私の気持ちが早苗さんに向くまで待つと言ってくれたのに、それに応える事はできない。
私の心は早苗さんに傾きかけていた。
だけど完全に早苗さんを好きになっていない今ならまだ、なかった事にできるだろう。
順平を選んだのは私だ。
もう後戻りはできない。
いつものようにカフェのバイトを終えると、早苗さんが事務所から顔を出した。
気まずくて、また息が苦しくなる。
「朱里……この後、時間ある?」
「ハイ……」
「少し話そうか」
いつまでも逃げられるとは思っていない。
この迷いをひと思いに断ち切って終わらせてしまおう。
私は覚悟を決めてうなずいた。
着替えを済ませて事務所に行くと、場所を変えようと早苗さんが言った。
店から少し離れたカフェに入りコーヒーをオーダーして、少しの間、二人とも黙ってコーヒーを飲んだ。
話さなきゃと思うほど言葉が出てこない。
沈黙を破ったのは早苗さんの方だった。
「昨日あれから……順平にひどい事されなかった?」
夕べの順平との出来事を思うと、早苗さんの顔をまっすぐに見られない。
私はうつむいたままうなずいた。
ひどい事はされていない。
けれど、私は……。
「順平と何があったのか、話してくれる?」
早苗さんがためらいがちに尋ねた。
早苗さんはいつも私とまっすぐに向き合ってくれたのだから、嘘つきで薄情な人間だと罵られ軽蔑されたとしても、私も正直にすべてを話そう。
「私……昔、順平と付き合ってました」
順平と付き合っていた事や、順平を突然失うかも知れない不安に耐えきれなくなり黙って順平の前から姿を消した事、それから間もないうちに知り合った壮介と付き合い始めた事、そして昨日順平から聞いた、私がいなくなってからの事を話した。
早苗さんは驚いていたけれど、何も言わず真剣に話を聞いてくれた。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
私の瞳に映る彼。
美並ナナ
恋愛
高校生の頃に彼氏を不慮の事故で亡した過去を持つ百合。
あれから10年。
百合は、未だに彼を忘れられず、それをごまかすために、
”来る者拒まず、去る者追わず”状態で、付き合いと別れを繰り返す日々を送っていた。
そんなある日、創業者一族のイケメン御曹司・亮祐が海外から帰国して、
百合の勤める会社に新しい役員として就任することに。
百合にとって亮祐との出会いは衝撃だった。
そして2人の運命の歯車が動き出すーーー。
※スピンオフ作品『初恋〜推しの弟を好きになったみたいです〜』を連載中です。
※この作品はエブリスタ様、ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。
閉じたまぶたの裏側で
櫻井音衣
恋愛
河合 芙佳(かわい ふうか・28歳)は
元恋人で上司の
橋本 勲(はしもと いさお・31歳)と
不毛な関係を3年も続けている。
元はと言えば、
芙佳が出向している半年の間に
勲が専務の娘の七海(ななみ・27歳)と
結婚していたのが発端だった。
高校時代の同級生で仲の良い同期の
山岸 應汰(やまぎし おうた・28歳)が、
そんな芙佳の恋愛事情を知った途端に
男友達のふりはやめると詰め寄って…。
どんなに好きでも先のない不毛な関係と、
自分だけを愛してくれる男友達との
同じ未来を望める関係。
芙佳はどちらを選ぶのか?
“私にだって
幸せを求める権利くらいはあるはずだ”
フローライト
藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。
ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。
結婚するのか、それとも独身で過ごすのか?
「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」
そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。
写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。
「趣味はこうぶつ?」
釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった…
※他サイトにも掲載
遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
如月 そら
恋愛
遅刻しそうになり急いでいた朝の駅で、杉原亜由美は知らない男性にぶつかってしまった。
「ケガをした!」
ぶつかってしまった男性に亜由美は引き留められ、怖い顔で怒られる。
──え? 遅刻しそうな時にぶつかるのって運命の人じゃないの!?
しかし現実はそんなに甘くない。その時、亜由美を脅そうとする男性から救ってくれたのは……?
大人っぽいけれど、
乙女チックなものに憧れる
杉原亜由美。
無愛想だけれど、
端正な顔立ちで優しい
鷹條千智。
少女漫画に憧れる亜由美の
大人の恋とは……
※表紙イラストは青城硝子様にご依頼して作成して頂きました。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は実在のものとは関係ありません。
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕
【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~
安里海
恋愛
佐藤沙羅(35歳)は結婚して13年になる専業主婦。
愛する夫の政志(38歳)と、12歳になる可愛い娘の美幸、家族3人で、小さな幸せを積み上げていく暮らしを専業主婦である紗羅は大切にしていた。
その幸せが来訪者に寄って壊される。
夫の政志が不倫をしていたのだ。
不安を持ちながら、自分の道を沙羅は歩み出す。
里帰りの最中、高校時代に付き合って居た高良慶太(35歳)と偶然再会する。再燃する恋心を止められず、沙羅は慶太と結ばれる。
バツイチになった沙羅とTAKARAグループの後継ぎの慶太の恋の行方は?
表紙は、自作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる