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恋は嘘と無情の種

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心も体も疲れきっているのに眠れない。
眠っている順平の隣に体を横たえ、順平の寝顔を見ながら考えている。
昔は腕枕してくれたのにな。
腕枕をされて、順平の胸に頬をすり寄せて、甘い余韻に浸って眠るのが幸せだった。
順平はすぐ隣にいるのに、別人といるような、ひとりぼっちのような気がする。
これからまた一緒に過ごしていくうちに、その違和感はなくなるだろうか?
あの頃のように、順平が好きだと心から言えるだろうか?
寝返りを打って目を閉じると、また早苗さんの顔が浮かんだ。
明日は早苗さんに順平との事を話さなきゃと考えるだけで、息苦しいほどに胸が痛む。
私は順平の寝息を聞きながら、頭の中で早苗さんへの断りの言葉を延々と考え続けた。


目が覚めると、隣に順平の姿はなかった。
バイトに行ったのかな。
身支度を整えながら夕べの事を思い出す。
早苗さんに順平の事を話すのは正直気が重い。
私の気持ちが早苗さんに向くまで待つと言ってくれたのに、それに応える事はできない。
私の心は早苗さんに傾きかけていた。
だけど完全に早苗さんを好きになっていない今ならまだ、なかった事にできるだろう。
順平を選んだのは私だ。
もう後戻りはできない。


いつものようにカフェのバイトを終えると、早苗さんが事務所から顔を出した。
気まずくて、また息が苦しくなる。

「朱里……この後、時間ある?」
「ハイ……」
「少し話そうか」

いつまでも逃げられるとは思っていない。
この迷いをひと思いに断ち切って終わらせてしまおう。
私は覚悟を決めてうなずいた。


着替えを済ませて事務所に行くと、場所を変えようと早苗さんが言った。
店から少し離れたカフェに入りコーヒーをオーダーして、少しの間、二人とも黙ってコーヒーを飲んだ。
話さなきゃと思うほど言葉が出てこない。
沈黙を破ったのは早苗さんの方だった。

「昨日あれから……順平にひどい事されなかった?」

夕べの順平との出来事を思うと、早苗さんの顔をまっすぐに見られない。
私はうつむいたままうなずいた。
ひどい事はされていない。
けれど、私は……。

「順平と何があったのか、話してくれる?」

早苗さんがためらいがちに尋ねた。
早苗さんはいつも私とまっすぐに向き合ってくれたのだから、嘘つきで薄情な人間だと罵られ軽蔑されたとしても、私も正直にすべてを話そう。

「私……昔、順平と付き合ってました」

順平と付き合っていた事や、順平を突然失うかも知れない不安に耐えきれなくなり黙って順平の前から姿を消した事、それから間もないうちに知り合った壮介と付き合い始めた事、そして昨日順平から聞いた、私がいなくなってからの事を話した。
早苗さんは驚いていたけれど、何も言わず真剣に話を聞いてくれた。

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