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恋は嘘と無情の種

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部屋に戻りリビングの明かりをつけようとスイッチに手を伸ばした瞬間、順平は後ろから私を抱きしめた。
その腕が小刻みに震えている。
暗闇の中で抱きしめられながら、順平の息遣いと鼓動だけをすぐそばに感じた。

「どこにでも行けなんて行ったけど……やっぱ朱里を誰にも渡したくない……」
「順平……私がいなくなってからの事、ちゃんと話して。私も全部話すから」
「……わかった」

リビングの明かりをつけてあたたかいコーヒーをカップに注ぎ、テーブルに置いた。
二人でテーブルをはさんで向かい合い、しばらく黙ってコーヒーを飲んだ後、先に口を開いたのは順平だった。

「あの時さ……朱里はなんで俺に黙っていなくなったの?」

順平はカップを見つめたまま、静かな口調で尋ねた。
私は順平に別れも告げず、わずかな荷物を手に順平との思い出が溢れたアパートを出た日のことを思い出していた。

「……不安だったの。あの頃、順平は役者を目指してたでしょ?その夢が叶うのは何年先かわからないし、その時には私の手なんか届かないところに行っちゃうだろうから、もう必要ないって言われるかも知れないって」
「そんなふうに思ってたのか……」

夢を応援してくれていたはずの彼女がそんな事を考えていたと知って、順平はショックを受けているようだった。
この先は順平にとって、とても残酷な話かもしれない。
だけど全部話すと約束をしたのだから、順平を傷付ける事になったとしても、隠さずにすべてを打ち明けようと覚悟を決める。

「一緒にいると幸せなはずなのに、つらくなったの。好きになるほどね。だから、もう終わりにしようと思ったんだ。順平は若かったけど、私の方が歳上だから……現実的に先の事が不安だった」
「……結婚とか?」
「うん……。それだけじゃなくて……順平が突然いなくなっちゃうのはもっと怖かった」

そこまで話すと、順平はやっと顔を上げた。
順平自身に思い当たる節があるからだろう。

「突然いなくなるって……病気が再発したらって事?」
「そう……。もし病気が再発したらって考えると怖くて、順平についていく覚悟が私にはできなかった。順平の顔見たら離れられなくなると思ったから、舞台稽古で忙しいうちに黙って消えたの」

私の話を黙って聞いていた順平が、コーヒーを一口飲んで大きなため息をついた。
私は順平の反応を見るのが怖くて、カップを握りしめコーヒーから上がる湯気をじっと見つめる。

「そうか……。朱里は知らなくて当然だな」
「何を?」

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