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知らぬ顔をやめた順平
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閉店後、早苗さんはいつものように私を送ってくれた。
昨日早苗さんとデートした後に順平とあんな事があったので、なんとなく後ろめたくて早苗さんと目が合わせづらい。
「順平はどうしたんだろうね。あいつ、ああ見えて仕事には真面目だから、今まで無断欠勤なんてした事なかったんだけどなぁ……」
歩きながら早苗さんが心配そうに呟いた。
順平が急に無断でバイトを休んだのは夕べの出来事が原因なのか、それともただうっかり休みだと勘違いしているだけなのか、私にはわからない。
昔の順平ならともかく、今の順平が行きそうな場所も仲の良い友人も、それどころか昼間は何の仕事をしているのかも、私は順平の事を何も知らないし、あえて知ろうとしなかった。
だからあれが本当に順平なのかさえわからない。
隣を歩いていた早苗さんがそっと私の手を握った。
後ろめたさから少し手がこわばる。
私の様子が変だと気付いたかも知れない。
けれど早苗さんは何も言わずにそのまま歩いて、珍しく寄り道をせずに、まっすぐ送り届けてくれた。
早苗さんはマンションの前で立ち止まって、私の目をじっと見た。
「朱里、今日はずっと元気がないね。やっぱり何かあった?」
「いえ……何も」
何もかも打ち明けてしまえたらどんなにラクだろう。
だけど本当の事なんか何ひとつ言えなくて、早苗さんの目をまっすぐ見る事ができない。
「朱里は嘘つくのヘタだね。俺には話せないような事でもあったの?」
返事に困り目をそらして黙り込むと、早苗さんは小さくため息をついて私の体を少し強く引き寄せた。
早苗さんは私を抱きしめて優しく頭を撫でる。
「もしかして……昨日俺がいろいろ言ったから、断りきれなくて困ってる?」
「いえ、そんな事は……」
「だったら……ん?」
怪訝な顔をした早苗さんの指が、私の首の付け根に触れた。
私は咄嗟にそれを手で覆って隠そうとした。
早苗さんはその手を掴み、私のシャツの襟をめくって首筋を見る。
そしてうまく隠したつもりだった順平の噛み跡や首筋のキスマークに気付いた早苗さんは、私の肩を掴んだ。
「朱里……順平と何があった?」
「違う……」
「だったら誰がこんな事……!」
早苗さんが声を荒げた時、後ろから乾いた笑い声が聞こえた。
振り返るとそこには順平がいた。
「俺だよ。俺がやった」
順平は意地の悪い笑みを浮かべながら近付いて来る。
何を言うつもりなのか、もしかしたら過去の事も夕べの事も、何もかも全部ぶちまけるつもりなのではと思うと、早苗さんの反応が怖くて手のひらにはじっとりとイヤな汗がにじむ。
昨日早苗さんとデートした後に順平とあんな事があったので、なんとなく後ろめたくて早苗さんと目が合わせづらい。
「順平はどうしたんだろうね。あいつ、ああ見えて仕事には真面目だから、今まで無断欠勤なんてした事なかったんだけどなぁ……」
歩きながら早苗さんが心配そうに呟いた。
順平が急に無断でバイトを休んだのは夕べの出来事が原因なのか、それともただうっかり休みだと勘違いしているだけなのか、私にはわからない。
昔の順平ならともかく、今の順平が行きそうな場所も仲の良い友人も、それどころか昼間は何の仕事をしているのかも、私は順平の事を何も知らないし、あえて知ろうとしなかった。
だからあれが本当に順平なのかさえわからない。
隣を歩いていた早苗さんがそっと私の手を握った。
後ろめたさから少し手がこわばる。
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けれど早苗さんは何も言わずにそのまま歩いて、珍しく寄り道をせずに、まっすぐ送り届けてくれた。
早苗さんはマンションの前で立ち止まって、私の目をじっと見た。
「朱里、今日はずっと元気がないね。やっぱり何かあった?」
「いえ……何も」
何もかも打ち明けてしまえたらどんなにラクだろう。
だけど本当の事なんか何ひとつ言えなくて、早苗さんの目をまっすぐ見る事ができない。
「朱里は嘘つくのヘタだね。俺には話せないような事でもあったの?」
返事に困り目をそらして黙り込むと、早苗さんは小さくため息をついて私の体を少し強く引き寄せた。
早苗さんは私を抱きしめて優しく頭を撫でる。
「もしかして……昨日俺がいろいろ言ったから、断りきれなくて困ってる?」
「いえ、そんな事は……」
「だったら……ん?」
怪訝な顔をした早苗さんの指が、私の首の付け根に触れた。
私は咄嗟にそれを手で覆って隠そうとした。
早苗さんはその手を掴み、私のシャツの襟をめくって首筋を見る。
そしてうまく隠したつもりだった順平の噛み跡や首筋のキスマークに気付いた早苗さんは、私の肩を掴んだ。
「朱里……順平と何があった?」
「違う……」
「だったら誰がこんな事……!」
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振り返るとそこには順平がいた。
「俺だよ。俺がやった」
順平は意地の悪い笑みを浮かべながら近付いて来る。
何を言うつもりなのか、もしかしたら過去の事も夕べの事も、何もかも全部ぶちまけるつもりなのではと思うと、早苗さんの反応が怖くて手のひらにはじっとりとイヤな汗がにじむ。
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