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略奪で得た幸せは格別に甘い蜜の味?

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やっぱりそう来るか。
もしあの場に志穂がいたら大変な事になっていただろうな。
だけどそんなところを想像すると少し気持ちがいい。

「ホントに壮介のやつ、一発くらい殴ってやれば良かったかな」

私が笑いながらそう言うと、志穂は不機嫌そうに眉間にシワを寄せた。

「それで朱里はそのまま泣き寝入りなの?」
「泣き寝入り……と言えばそうなのかも知れないけど、下らない事で争うの面倒だったから」
「下らなくないでしょ?」
「うーん……。どうかな」

私は壮介との結婚が破談になった事を両親や親戚に隠し、偽壮介を用意して嘘をつこうとした事を志穂に話した。
志穂は私の話を聞きながら、時々首をかしげ険しい顔をしていた。

「朱里、その考え方おかしいよ。朱里には何も非はないのに、なんで嘘ついてまでそうしようと思ったの?」
「うん、おかしいのかもね。でも『あの子は結婚式の直前に男に逃げられたんだよ』って陰で言われるなんて、私には耐えられなかったんだ。だから私は自分を守ろうとしたの。壮介は私のそういう、世間体を気にしすぎるところがイヤだったみたい」

自分で改めて話してみると、私ってバカだなぁとまた苦笑いがこぼれる。

「それで……結果的にどうなったの?」
「偽壮介のおかげで両親や親戚に嘘をつかずに済んで、丸く収まった」
「ん?どういう事?」

志穂はさっぱりわけがわからないと言いたげな顔をしている。
私は食事会の日にあった出来事を話した。

「結果的には二人で幸せにはなれなかったけどね。別れてようやく、壮介とわかり合えた気がするよ」
「別れてからわかり合えてもねぇ。それにしても……家族に近いってのはどうよ」
「まぁ……私も同じような感覚だったんだと思うんだよね。壮介に別れてくれって言われた時、理由聞くより、この時期になって何言ってるんだって事しか頭になかった」
「ふーん……。無駄な3年間だったね」
「そうとも言えるけど……それだけじゃなかったかも知れない。誰が相手でも、あの時は同じような感情しか持てなかったかも」

順平の元から離れたばかりだった私は一人で立っていられるほど強くなかったから、きっと居場所を求めていたんだと思う。
だから壮介がちょうど良かった。
志穂はコーヒーを飲みながら私の顔を見た。
カップをソーサーに置く音がカチャリと響く。

「……順平くんの事、まだ引きずってる?」

志穂が順平を覚えている事に驚いた。
私は志穂に、順平と別れる決意をした理由を半分しか話していない。

「どうだろう。引きずってる……のかな?」
「別れるって決めたのは朱里でしょ?」
「うん、そうだよ。好きすぎてね」
「それも私にはわからないけど」

きっと志穂にとって私の考えは、理解できない事ばかりなんだろう。


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