季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

嘘も通せば修羅場になる

１

翌日カフェで賄いを食べている時、恵梨奈が嬉しそうに昨日のデートの話をした。
常に忙しい順平とはなかなか連絡が取れずしばらく会えなかったけど、昨日は久しぶりに会えて嬉しかったとか、いつ見ても本当にカッコいいとか、かなりの惚れ込みようだ。
家に遊びに行きたいと言っても『同居人がいるから無理』と断られて、まだ一度も家に入れてくれた事がないらしい。
順平の本音を聞いてしまった私としては、かなり複雑な気分だった。
今の同居人は私だなんて、口が裂けても言えない。

「久しぶりに会えたのに順平くん忙しいから、昨日はホテル行ってエッチしただけなんです。終わったらすぐに次のバイトがあるって行っちゃった」

聞きたくない、聞きたくない。
他人にそんな話を聞かせてどうするの？
まだ知り合ったばかりの相手にするような話でもないのに。

「順平くん、カッコいいから絶対モテると思うんですよ。だから昨日は、浮気防止にキスマークつけてやりました」
「……ふーん」

うん、昨日見たから知ってる。
浮気防止も何も、彼女と思われてないんだよ。
独占欲を剥き出しにして縛り付けようとすればするほど、面倒な女だって言って順平は離れていくのに。
……なんて、恵梨奈には絶対に言えないから、心の中で呟いた。
それでも体だけとは言え、順平は恵梨奈を求めたわけだ。
求められているのは体だけとは知らなくても、恵梨奈は順平に求められて喜んでいる。
本当の事は知らない方が、恵梨奈にとっては幸せかも知れない。

「店長から聞いたんですけど、朱里さんってバーでもバイトしてるんですよね？」
「え？うん、してるよ」

何を言い出すつもりなんだろう？
猛烈にイヤな予感がする。

「順平くんって、バーでバイトしてる順平くんなんです」
「あ……そうなんだね」

ええ、存じておりますよ。
ついでに言うと、順平のことは恵梨奈が順平と知り合うよりもずっと前から知っているんだけど、それももちろん秘密にしておくつもりだ。

「今日は順平くんの仕事してる姿、見に行っちゃおうかなぁ。それで、酔ったから今夜泊めてって言っちゃおう」

やめときなって。
何言われるかわかんないから。
……って言うか、もし恵梨奈がそんな事を言ったとしても、順平が断ってくれないと私が困る。
順平の部屋に居候している事は恵梨奈には知られたくないし、いくら部屋が別々とは言え、リビングの向こうのドア１枚隔てた先で順平と恵梨奈が……なんて、想像したくもない。
いくら私がバレないように自分の部屋で息を潜めていたとしても、順平の部屋から恵梨奈の喘ぎ声とかベッドの軋む音なんかが漏れ聞こえてきたら、二人が裸で抱き合って情事に及んでいる姿をイヤでも想像してしまうだろう。

「そうしよ。朱里さんも働いてる事だし？」

恵梨奈は一人でしゃべって、勝手に私をダシにバーへ来る事を決めてしまった。
私は関係ないのに、なんでそうなるの?!
面倒な事にならなきゃいいけど……。