上 下
26 / 116
焼け木杭に火は付けない

しおりを挟む
壮介との結婚が決まってすぐ、志穂と紗耶香には招待状を送る前に電話をした。
志穂は仕事で海外に長期出張中だから、結婚式には出席できないと言っていた。
連絡が取れなかった紗耶香にも招待状を送ったけれど、結局返事はなかった。
返事がないので、招待状が本当に届いたのかもよくわからない。
結婚式を中止することになった後も、電話をしても繋がらなかったので一応メールは送ったけれど、その返信もないのでこれ以上はどうしようもない。
メールを読んでくれている事を祈るばかりだ。
志穂と紗耶香にだけは本当の事を話したいとは思うけれど、それはすべてが終わって落ち着いてからにしようと思う。
それにしても紗耶香とはどうしてこんなに連絡が取れないんだろう?
よほど忙しいのか、それとも私はもう友達じゃないと思われているのかな。
もしそうだとしたら悲しい。
会社を辞める時には『これからもちょくちょく会おうね』と約束したし、一緒に働いていた時のように頻繁に会えなくなっても、私と志穂と紗耶香の友情は続くものだと思っていたから。
会社を辞めてからの3年間にはいろいろあった。
私だけでなく、それぞれのおかれている環境が変わったせいもあるのかも知れない。
紗耶香はまだあの会社に勤めているだろうか。


午前2時過ぎ。
バーでの仕事を終えた私は、また順平の背中を目で追いながら暗い夜道を歩いていた。
今日も順平はさっさと自分のペースで歩く。
もう『待って』とは言わない。
バーで顔を合わせても、順平は昨日の晩の事なんてなかったような顔をしていた。
それは私も同じだ。
偶然とは言え順平に彼女がいる事がわかったし、私はもう昨日みたいな隙を見せないようにしようと決めた。
これ以上波風を立てないように、余計な事は考えないように。
いつ沈んでもおかしくない泥舟を守るのは、私しかいない。
食事会が済んで落ち着くまでは気が抜けない。
それが済んだら、できるだけ早くお金を貯めて新しい部屋を探そう。
そしてまた新たな道を見つけなくては。


今夜もまた、お風呂上がりの順平は上半身裸のままでリビングをウロウロしている。
私が着替えを持って浴室に向かおうとすると、順平はまた私をジロッとにらむ。

「シロジロ見んなよ」
「見てません」

見るなと言うなら服を着ればいいのに、イヤでも視界に入るじゃないか。
無駄なく引き締まった体とか、夕べはそこになかったはずの胸元についた赤いものとか。
それは紛れもなくキスマークというやつだ。
マーキングでもしたつもりなのか、きっと恵梨奈がつけたんだろう。
その赤いアザは、他の女を寄せ付けないようにするにはじゅうぶんな存在感を放っている。

「そんな物欲しそうに見んな」
「誰がアンタなんか……」
「へぇ?夕べは今にも襲い掛かりそうな顔してたけどな」

物欲しそうに見たつもりはないけど、線の細かった昔とは違って今はすっかり大人の男の体つきになっていると思ったことは否定できない。
それでも襲い掛かろうとしたのは私ではなく順平の方だ。

「冗談やめてよ。私は彼女持ちの男をどうこうする趣味はないの」
「彼女持ち?」
「いるんでしょ?今日、アンタの彼女本人から聞いたけど」

なんの事かと言いたげに順平は顔をしかめた。
もしかして『どの子の事だろう』なんて考えているのか?

「彼女なんていないけど」

なんでしらばっくれるかな。
私にそんな嘘をついたところで、なんの得にもならないのに。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

孕まされ婚〜こんな結婚したくなかった〜

鳴宮鶉子
恋愛
ワンナイトLOVEで妊娠してしまい結婚するはめになった美結。男友達だと思ってたアイツがわたしに手を出すとは思ってなかった

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

授かり相手は鬼畜上司

鳴宮鶉子
恋愛
授かり相手は鬼畜上司

【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。

どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。 婚約破棄ならぬ許嫁解消。 外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。 ※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。 R18はマーク付きのみ。

独占欲強めの幼馴染みと極甘結婚

本郷アキ
恋愛
旧題:君しかいらない~独占欲強めの幼馴染みと極甘結婚~ 3月22日完結で予約投稿済みです! ~あらすじ~ 隣に住む、四歳上の純也お兄ちゃんのことが、小さい頃からずっと大好きだった。 小学生の頃から、大人になったから純也お兄ちゃんと結婚するんだ、なんて言っていたほどに。 けれど、お兄ちゃんが中学生になり、私とは一緒に遊んではくれなくなった。 無視されることが悲しくて堪らなかったけれど、泣きついた母に 「いつまでも小さい子と遊んではいられない」 そう言われてからは、お兄ちゃんともう話せないことが辛くて、自分からお兄ちゃんを避けるようになった。 それなのに。 なぜかお兄ちゃんが私の家庭教師に──? 「大学行かずに、俺と結婚するか? 小さい頃よく言ってたよな?」 なんて言われて、意識しないわけがない。 ずっとずっと大好きだったお兄ちゃんと、高校卒業と同時に結婚! 幸せいっぱいなはずだったのに、そのあと五年間も別居生活が待っていた。 ようやく一緒に暮らせると思っていたら、今度は私の友人と浮気疑惑。 大好きだよ、って私以外の人にも言っていたの? どうして私と結婚しようと思ったのか、彼の気持ちがよくわからない。 警視庁捜査二課 勤務の二十八歳× 総合病院勤務の看護師 二十三歳 ※注意書き載せるの忘れてました↓ エブリスタ、ベリーズカフェにも同タイトルで公開しております。 エブリスタよりこちらでの公開が早いです。ベリーズでは全文公開済みですが、こちらは大人向けに改稿した作品となりますので、ヒーローのセリフ、性格が違います。続きが気になる~とベリーズを読んでも違和感があるかもしれません(汗) では、楽しんでいただけますように!

【完結*R-18】あいたいひと。

瑛瑠
恋愛
あのひとの声がすると、ドキドキして、 あのひとの足音、わかるようになって あのひとが来ると、嬉しかった。 すごく好きだった。 でも。なにもできなかった。 あの頃、好きで好きでたまらなかった、ひと。 突然届いた招待状。 10年ぶりの再会。 握りしめたぐしゃぐしゃのレシート。 青いネクタイ。 もう、あの時のような後悔はしたくない。 また会いたい。 それを望むことを許してもらえなくても。 ーーーーー R-18に ※マークつけてますのでご注意ください。

好きでした、昨日まで

ヘロディア
恋愛
幸せな毎日を彼氏と送っていた主人公。 今日もデートに行くのだが、そこで知らない少女を見てから彼氏の様子がおかしい。 その真相は…

処理中です...