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サクラの樹の下にはオバケがいるんだよ
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私が昔のことを思い出しながらボーッとしている間に、少しずつ店内が賑わい始めた。
飲みかけのモスコミュールを一口飲んで、昔の事を考えるのはもうよそうと思う。
今となってはもう昔の話だ。
あの時だって今だって、順平は若い。
私との事なんて、きっと一時の気の迷いくらいにしか思ってないはずだ。
もう一度だけ我慢して顔を合わせれば、もう会う事もないだろう。
余計な事は考えないでおこう。
あの人は偽壮介。
今はもう恋人なんかじゃない。
そんな昔の事より、今夜の事の方が大事だ。
夕べは酔って連れ出されそうになったのが功を奏して、マスターの厚意でここに泊めてもらえたけれど、今夜はどこに行けばいいだろう?
仲の良い友達にも壮介と別れた事は話せないし、マスターに頼むのも気が引ける。
やっぱり今夜こそネットカフェか。
そういえば財布の中にいくら入っていたかな。
早く新しい部屋を見つけなければ、毎晩どこに泊まるかで苦労する事になる。
だけど先立つものがない。
佐倉代行サービスを出たあとで壮介に電話して、『壮介の都合でキャンセルしたんだから私のお金を返して』と言ったら、『返すけど今すぐは無理だ』と言われた。
彼女と暮らす部屋を借りて、出産費用と生まれてくる子供のために必要な物を揃えるお金がいるから、まとまったお金を今すぐ用意する事はできないと、都合のいい事を言っていた。
『子供のために』と言えばすべてが許されるとでも思ってるのか?
子供に罪はない。
むしろ悪いのはあの二人だ。
壮介と彼女が仲良くキッチンに立っていた姿を思い出して、またムカムカしてきた。
今頃壮介のやつ、鼻の下伸ばしてあの女といちゃついてるんだろう。
苛立ちと一緒にグラスに残っていたモスコミュールを飲み干して、おかわりをオーダーした。
「昨日みたいに飲みすぎたらダメだよ」
マスターは優しく笑いながらモスコミュールを差し出した。
昨日の失態を思い出して、思わず苦笑いがもれる。
「すみません、気を付けます……」
「それで、今日はこれからどうするつもり?寝泊まりする場所は確保した?」
「いえ……それがまだ……」
壮介からお金を返してもらえなかった事や、結婚前から落ち着くまでは仕事を気にしなくていいように派遣先との契約を昨日までにしていた事を話した。
マスターは腕組みをして少し考え込んでいる。
「すぐに見つかるかはわからないけど、できるだけ早く次の派遣先を紹介してもらおうと思います。今のままじゃ新しい部屋を借りる事もできないし……」
「そうか……。でも女の子だし、このまま宿無しってわけにもいかないよなぁ」
マスターは三十路を目前に控えて婚約者に捨てられた私を『女の子』と言って心配してくれるらしい。
この余裕とか醸し出す色気とか、落ち着いた大人の男は自分勝手な若い男とは全然違うと思う。
飲みかけのモスコミュールを一口飲んで、昔の事を考えるのはもうよそうと思う。
今となってはもう昔の話だ。
あの時だって今だって、順平は若い。
私との事なんて、きっと一時の気の迷いくらいにしか思ってないはずだ。
もう一度だけ我慢して顔を合わせれば、もう会う事もないだろう。
余計な事は考えないでおこう。
あの人は偽壮介。
今はもう恋人なんかじゃない。
そんな昔の事より、今夜の事の方が大事だ。
夕べは酔って連れ出されそうになったのが功を奏して、マスターの厚意でここに泊めてもらえたけれど、今夜はどこに行けばいいだろう?
仲の良い友達にも壮介と別れた事は話せないし、マスターに頼むのも気が引ける。
やっぱり今夜こそネットカフェか。
そういえば財布の中にいくら入っていたかな。
早く新しい部屋を見つけなければ、毎晩どこに泊まるかで苦労する事になる。
だけど先立つものがない。
佐倉代行サービスを出たあとで壮介に電話して、『壮介の都合でキャンセルしたんだから私のお金を返して』と言ったら、『返すけど今すぐは無理だ』と言われた。
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『子供のために』と言えばすべてが許されるとでも思ってるのか?
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むしろ悪いのはあの二人だ。
壮介と彼女が仲良くキッチンに立っていた姿を思い出して、またムカムカしてきた。
今頃壮介のやつ、鼻の下伸ばしてあの女といちゃついてるんだろう。
苛立ちと一緒にグラスに残っていたモスコミュールを飲み干して、おかわりをオーダーした。
「昨日みたいに飲みすぎたらダメだよ」
マスターは優しく笑いながらモスコミュールを差し出した。
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「すみません、気を付けます……」
「それで、今日はこれからどうするつもり?寝泊まりする場所は確保した?」
「いえ……それがまだ……」
壮介からお金を返してもらえなかった事や、結婚前から落ち着くまでは仕事を気にしなくていいように派遣先との契約を昨日までにしていた事を話した。
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「そうか……。でも女の子だし、このまま宿無しってわけにもいかないよなぁ」
マスターは三十路を目前に控えて婚約者に捨てられた私を『女の子』と言って心配してくれるらしい。
この余裕とか醸し出す色気とか、落ち着いた大人の男は自分勝手な若い男とは全然違うと思う。
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