8 / 116
サクラの樹の下にはオバケがいるんだよ
1
しおりを挟む
その日の午後。
私はマスターからもらった名刺を頼りに、その事務所を訪れていた。
なんのへんてつもない小さなオフィスで、受付の若い女性が出してくれたお茶をすする。
テーブルを挟んで向き合っているのは、ちょいワルふうのダンディーなおじさん。
年の頃は40代半ばというところだろうか。
大人の男の色気を感じる。
私は佐倉代行サービスの社長だというそのダンディーなおじさんに、マスターに話した内容と同じことを話した。
誰かに話すほど厳しい現実に突き刺されているようで、どんどん惨めな気持ちになる。
「事情はわかりました。その依頼、お引き受けします」
「ありがとうございます」
「それでは細かい設定をしていきましょう」
佐倉社長は受付の女性に声を掛け、書類らしきものを持って来させた。
私自身の身元や、希望する日時、設定などの詳細を記入するシートをテーブルの上に差し出される。
二度も話した自分の恥を文字にまでしなくちゃいけないなんて、余計に惨めだ。
でも仕方ない、やると決めたんだから。
私がシートに記入し始めると、事務所の電話が鳴り、応対した受付の女性が子機を持ってきて佐倉社長に渡した。
私は低くて柔らかい社長の声を聞き流しながら、黙々と記入を続ける。
そのとき、応接セットのソファーの後ろで何かがモソリと動いた。
「あーあ」
誰かの大きな欠伸が聞こえた。
私は驚いて辺りをキョロキョロと見回す。
「だっせぇ。男に逃げられてやんの」
「えっ?!」
誰?失礼な!!
声のした背後を振り返ると、その男はムクリと起き上がり大きく伸びをした。
「結婚式の直前に捨てられるとか超マヌケ」
「なっ……!!」
あまりの失礼さに私が言葉を失っていると、男はククッと意地悪く笑いながらこちらを見た。
綺麗に顔立ちの整った若い男が、人をバカにしたような目で私を見る。
その顔には見覚えがあるような気がする。
いや、間違いなく覚えている。
「被害者ぶるのやめたら?自分にも原因があるとは思わない?」
なんでアンタにそんな事言われなきゃいけないの……?
悔しくて情けなくて、肩が震える。
来るんじゃなかった、こんなところ。
「こら順平、失礼だろ」
電話を終えた佐倉社長が立ち上がってソファーまでツカツカと歩いて行き、失礼なその男の頭をはたいた。
「堀田さん、申し訳ありません。うちの若いのが失礼な事を……」
「ホントの事じゃん。こいつに原因があったから、その男は別の女を選んだんだよ」
「順平、口を慎め!」
最悪だ。
こんなところでまた会うなんて、思ってもみなかった。
かつて私が捨てた、この男に。
私はマスターからもらった名刺を頼りに、その事務所を訪れていた。
なんのへんてつもない小さなオフィスで、受付の若い女性が出してくれたお茶をすする。
テーブルを挟んで向き合っているのは、ちょいワルふうのダンディーなおじさん。
年の頃は40代半ばというところだろうか。
大人の男の色気を感じる。
私は佐倉代行サービスの社長だというそのダンディーなおじさんに、マスターに話した内容と同じことを話した。
誰かに話すほど厳しい現実に突き刺されているようで、どんどん惨めな気持ちになる。
「事情はわかりました。その依頼、お引き受けします」
「ありがとうございます」
「それでは細かい設定をしていきましょう」
佐倉社長は受付の女性に声を掛け、書類らしきものを持って来させた。
私自身の身元や、希望する日時、設定などの詳細を記入するシートをテーブルの上に差し出される。
二度も話した自分の恥を文字にまでしなくちゃいけないなんて、余計に惨めだ。
でも仕方ない、やると決めたんだから。
私がシートに記入し始めると、事務所の電話が鳴り、応対した受付の女性が子機を持ってきて佐倉社長に渡した。
私は低くて柔らかい社長の声を聞き流しながら、黙々と記入を続ける。
そのとき、応接セットのソファーの後ろで何かがモソリと動いた。
「あーあ」
誰かの大きな欠伸が聞こえた。
私は驚いて辺りをキョロキョロと見回す。
「だっせぇ。男に逃げられてやんの」
「えっ?!」
誰?失礼な!!
声のした背後を振り返ると、その男はムクリと起き上がり大きく伸びをした。
「結婚式の直前に捨てられるとか超マヌケ」
「なっ……!!」
あまりの失礼さに私が言葉を失っていると、男はククッと意地悪く笑いながらこちらを見た。
綺麗に顔立ちの整った若い男が、人をバカにしたような目で私を見る。
その顔には見覚えがあるような気がする。
いや、間違いなく覚えている。
「被害者ぶるのやめたら?自分にも原因があるとは思わない?」
なんでアンタにそんな事言われなきゃいけないの……?
悔しくて情けなくて、肩が震える。
来るんじゃなかった、こんなところ。
「こら順平、失礼だろ」
電話を終えた佐倉社長が立ち上がってソファーまでツカツカと歩いて行き、失礼なその男の頭をはたいた。
「堀田さん、申し訳ありません。うちの若いのが失礼な事を……」
「ホントの事じゃん。こいつに原因があったから、その男は別の女を選んだんだよ」
「順平、口を慎め!」
最悪だ。
こんなところでまた会うなんて、思ってもみなかった。
かつて私が捨てた、この男に。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
独占欲強めの幼馴染みと極甘結婚
本郷アキ
恋愛
旧題:君しかいらない~独占欲強めの幼馴染みと極甘結婚~
3月22日完結で予約投稿済みです!
~あらすじ~
隣に住む、四歳上の純也お兄ちゃんのことが、小さい頃からずっと大好きだった。
小学生の頃から、大人になったから純也お兄ちゃんと結婚するんだ、なんて言っていたほどに。
けれど、お兄ちゃんが中学生になり、私とは一緒に遊んではくれなくなった。
無視されることが悲しくて堪らなかったけれど、泣きついた母に
「いつまでも小さい子と遊んではいられない」
そう言われてからは、お兄ちゃんともう話せないことが辛くて、自分からお兄ちゃんを避けるようになった。
それなのに。
なぜかお兄ちゃんが私の家庭教師に──?
「大学行かずに、俺と結婚するか? 小さい頃よく言ってたよな?」
なんて言われて、意識しないわけがない。
ずっとずっと大好きだったお兄ちゃんと、高校卒業と同時に結婚!
幸せいっぱいなはずだったのに、そのあと五年間も別居生活が待っていた。
ようやく一緒に暮らせると思っていたら、今度は私の友人と浮気疑惑。
大好きだよ、って私以外の人にも言っていたの?
どうして私と結婚しようと思ったのか、彼の気持ちがよくわからない。
警視庁捜査二課 勤務の二十八歳× 総合病院勤務の看護師 二十三歳
※注意書き載せるの忘れてました↓
エブリスタ、ベリーズカフェにも同タイトルで公開しております。
エブリスタよりこちらでの公開が早いです。ベリーズでは全文公開済みですが、こちらは大人向けに改稿した作品となりますので、ヒーローのセリフ、性格が違います。続きが気になる~とベリーズを読んでも違和感があるかもしれません(汗)
では、楽しんでいただけますように!
【完結*R-18】あいたいひと。
瑛瑠
恋愛
あのひとの声がすると、ドキドキして、
あのひとの足音、わかるようになって
あのひとが来ると、嬉しかった。
すごく好きだった。
でも。なにもできなかった。
あの頃、好きで好きでたまらなかった、ひと。
突然届いた招待状。
10年ぶりの再会。
握りしめたぐしゃぐしゃのレシート。
青いネクタイ。
もう、あの時のような後悔はしたくない。
また会いたい。
それを望むことを許してもらえなくても。
ーーーーー
R-18に ※マークつけてますのでご注意ください。
隠れ御曹司の愛に絡めとられて
海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた――
彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。
古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。
仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!?
チャラい男はお断り!
けれども彼の作る料理はどれも絶品で……
超大手商社 秘書課勤務
野村 亜矢(のむら あや)
29歳
特技:迷子
×
飲食店勤務(ホスト?)
名も知らぬ男
24歳
特技:家事?
「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて
もう逃げられない――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる