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別れを告げた恋、始まった二人の恋
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「気になり出したのは朝比奈SSにいた頃だから、入社して3年目とか……。薫がカウンセラーになってまだ1年目の頃かな。好きだって自覚したのは……本社に上がる前の年だから……入社4年目くらい?」
「そんなに?!私たち、今年で入社8年目だよ?それにしても……私がカウンセラーになった年の事なんて、よく知ってるね……」
予想外の返事に驚きながら薫もタバコに火をつけた。
「社報に載ってただろ、『新人カウンセラー卯月 薫の1週間』的な記事が。あれ読んだんだ」
「そんなのあったね……。社報に載ったのは1週間分くらいだけど、10日間分くらい、日記書かされたんだ」
薫は懐かしそうに新人カウンセラー時代を振り返る。
日記に書いていたのはもちろん仕事の事ばかりだった。
仕事が休みの日は特に書く事がなかったので、仕事の日ばかりを選んで日記を書いていた。
そんなものを読んでもたいして面白くはないだろうから読み飛ばしてもおかしくはないだろうに、志信はきちんと読んでくれていたのだと嬉しい気がした。
「すげぇなって思ったんだ。同じ大卒で同期入社なのに、もうこんな仕事任されてるんだなって。こっちはまだ通常のSS勤務のぺーぺーなのに、この差はなんだって」
「バイト歴長いから7年くらいの差がある。だから余計に怖がられて、同期と馴染めなかったんだけど……」
「オレも最初はそう思って近寄りがたかったけど……時々一緒に仕事してるうちに、印象がどんどん変わった。だんだん気になって、気が付いたら好きになってた」
志信の言葉に少し照れながら、薫はビールを一口飲み込んだ。
「好きになる要素なんてないでしょ……?」
「あるから好きになったんだろ。販売事業部に配属になった時は、これでやっと同じ本社勤務だ!って嬉しかったんだけどな。逆に接点が少なくなって、ガッカリしたよ」
「確かにそうだね」
「全然顔合わさないしな。だから、あの飲み会の時はチャンスを逃すまいと必死だった」
薫はあの飲み会の時の志信の様子を思い出して笑った。
「そうなんだ。道理でやけに馴れ馴れしいと思った」
「そんな風に思われてたの、オレ……?」
肩を落として呟く志信に薫はまた笑う。
「でもまぁ、同期としてなら仲良くしてもいいかなって。楽しかったし。あの時はまさか志信とこんな風になるとは思わなかった」
「オレはもっと早くこうなりたかったよ?随分突き放されたけど……」
近付いたと思ったら突き放されて、寂しい思いをしていた事を思い出し、志信は薫が恋人としてすぐそばにいる事を確かめるように、薫の手を握った。
「ずっと誰にも心開けなかったもん。志信はこじ開けようとするから怖かった」
「そうか……。オレも必死だったからな……。薫はあの人と別れてから誰とも付き合ったりしなかったの?」
「してないね。二度と恋愛なんかしないと思ってたから」
志信は今まで知らなかった薫の過去に触れてみようと決心して、薫の手をギュッと握り直した。
「じゃあ……あの人と付き合う前は?」
「ヤキモチ妬くのに聞きたいの?」
「一応……?」
「たいした恋愛はしてないよ。志信みたいに遊んでないし。高校生の時に一人と、大学生の時に二人かな……。バイト優先しすぎてすぐ別れたけどね」
淡々と答える薫に、志信は少しホッとして思わず笑う。
「薫らしいって言うか……」
「志信はいっぱい恋愛してきたんでしょ?」
「いや……。まぁ、そこそこ。よく覚えてないような恋愛と呼べるかどうかもわからないような付き合いばっかりだ。誰とも本気じゃなかったから」
「私も?」
薫にジッと見つめられると、志信の胸が急激に高鳴る。
これまでに感じた事のない胸の高鳴りに戸惑いつつ、志信は薫をしっかりと抱き寄せ唇に軽く口付けた。
「薫は違うよ。本気過ぎてヤバイ」
「ヤバイの?」
薫は首をかしげた。
「うん、ヤバイ。好き過ぎる」
真剣な顔で答える志信の肩に甘えるようにもたれて、薫は志信の耳元で囁く。
「私も好き」
「もっと好きになって」
志信は薫を強く抱きしめて熱く囁いた。
「まだ始まったばかりだもん。これからね」
「オレ薫の事、もっと好きになると思うよ」
「私も志信の事、もっともっと好きになると思う」
二人は幸せそうに笑って、甘くて優しいキスをした。
「幸せ過ぎてヤバイ」
「これからもっと幸せになるんでしょ?」
「そうだな。薫を泣かせるような事はしない。嘘はつかない。大事にする。約束は守る」
「約束ね」
抱きしめ合ってキスをして、甘い言葉を囁き合って、二人の夜は更けて行く。
二人の恋は、まだ始まったばかり。
─END─
「そんなに?!私たち、今年で入社8年目だよ?それにしても……私がカウンセラーになった年の事なんて、よく知ってるね……」
予想外の返事に驚きながら薫もタバコに火をつけた。
「社報に載ってただろ、『新人カウンセラー卯月 薫の1週間』的な記事が。あれ読んだんだ」
「そんなのあったね……。社報に載ったのは1週間分くらいだけど、10日間分くらい、日記書かされたんだ」
薫は懐かしそうに新人カウンセラー時代を振り返る。
日記に書いていたのはもちろん仕事の事ばかりだった。
仕事が休みの日は特に書く事がなかったので、仕事の日ばかりを選んで日記を書いていた。
そんなものを読んでもたいして面白くはないだろうから読み飛ばしてもおかしくはないだろうに、志信はきちんと読んでくれていたのだと嬉しい気がした。
「すげぇなって思ったんだ。同じ大卒で同期入社なのに、もうこんな仕事任されてるんだなって。こっちはまだ通常のSS勤務のぺーぺーなのに、この差はなんだって」
「バイト歴長いから7年くらいの差がある。だから余計に怖がられて、同期と馴染めなかったんだけど……」
「オレも最初はそう思って近寄りがたかったけど……時々一緒に仕事してるうちに、印象がどんどん変わった。だんだん気になって、気が付いたら好きになってた」
志信の言葉に少し照れながら、薫はビールを一口飲み込んだ。
「好きになる要素なんてないでしょ……?」
「あるから好きになったんだろ。販売事業部に配属になった時は、これでやっと同じ本社勤務だ!って嬉しかったんだけどな。逆に接点が少なくなって、ガッカリしたよ」
「確かにそうだね」
「全然顔合わさないしな。だから、あの飲み会の時はチャンスを逃すまいと必死だった」
薫はあの飲み会の時の志信の様子を思い出して笑った。
「そうなんだ。道理でやけに馴れ馴れしいと思った」
「そんな風に思われてたの、オレ……?」
肩を落として呟く志信に薫はまた笑う。
「でもまぁ、同期としてなら仲良くしてもいいかなって。楽しかったし。あの時はまさか志信とこんな風になるとは思わなかった」
「オレはもっと早くこうなりたかったよ?随分突き放されたけど……」
近付いたと思ったら突き放されて、寂しい思いをしていた事を思い出し、志信は薫が恋人としてすぐそばにいる事を確かめるように、薫の手を握った。
「ずっと誰にも心開けなかったもん。志信はこじ開けようとするから怖かった」
「そうか……。オレも必死だったからな……。薫はあの人と別れてから誰とも付き合ったりしなかったの?」
「してないね。二度と恋愛なんかしないと思ってたから」
志信は今まで知らなかった薫の過去に触れてみようと決心して、薫の手をギュッと握り直した。
「じゃあ……あの人と付き合う前は?」
「ヤキモチ妬くのに聞きたいの?」
「一応……?」
「たいした恋愛はしてないよ。志信みたいに遊んでないし。高校生の時に一人と、大学生の時に二人かな……。バイト優先しすぎてすぐ別れたけどね」
淡々と答える薫に、志信は少しホッとして思わず笑う。
「薫らしいって言うか……」
「志信はいっぱい恋愛してきたんでしょ?」
「いや……。まぁ、そこそこ。よく覚えてないような恋愛と呼べるかどうかもわからないような付き合いばっかりだ。誰とも本気じゃなかったから」
「私も?」
薫にジッと見つめられると、志信の胸が急激に高鳴る。
これまでに感じた事のない胸の高鳴りに戸惑いつつ、志信は薫をしっかりと抱き寄せ唇に軽く口付けた。
「薫は違うよ。本気過ぎてヤバイ」
「ヤバイの?」
薫は首をかしげた。
「うん、ヤバイ。好き過ぎる」
真剣な顔で答える志信の肩に甘えるようにもたれて、薫は志信の耳元で囁く。
「私も好き」
「もっと好きになって」
志信は薫を強く抱きしめて熱く囁いた。
「まだ始まったばかりだもん。これからね」
「オレ薫の事、もっと好きになると思うよ」
「私も志信の事、もっともっと好きになると思う」
二人は幸せそうに笑って、甘くて優しいキスをした。
「幸せ過ぎてヤバイ」
「これからもっと幸せになるんでしょ?」
「そうだな。薫を泣かせるような事はしない。嘘はつかない。大事にする。約束は守る」
「約束ね」
抱きしめ合ってキスをして、甘い言葉を囁き合って、二人の夜は更けて行く。
二人の恋は、まだ始まったばかり。
─END─
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