59 / 61
別れを告げた恋、始まった二人の恋
4
しおりを挟む
薫は観念したように小さく息をついて、ゆっくりと口を開く。
「あのね……言ってなかったけど……志信に見られる前にも、一度キスされたんだ」
「……うん」
志信の眉間に微かにシワが寄ったのを見て、薫はまた少し言いにくそうに口ごもる。
「……タバコがね……同じなの、志信とあの人」
「そうなの?」
「うん。だから、キスされるとあのタバコの匂いがしてね……。それは昔と同じだったのに、あの時は志信の事思い出して……違う、この人じゃないって、思ったの」
「えっ……」
「それで、帰ってって言ったら、振り返ってまた不意打ちでキスされた……。志信が見たのはそれだったんだけど……。志信に誤解されるし、好きな人がいるとか、もう誘わないとか言われるし……」
薫がシュンと肩を落とすのを見て、志信は慌てて言い訳する。
「誤解って……。あんなとこ見たら、誰だってそう思うよ」
「そうかもね。でもあの時はそれで自分の気持ちもわからなくなって、なんかもうどうでも良くなって来て、一人で寂しく歳取って死んでくくらいなら、好きだって言ってくれてるし、もう一度信じてみようかなぁ……とかね」
伝えたくても伝えられない薫への想いをせめて聞いてもらいたくて口にした。
だけどまさか、自分の言った言葉が薫を迷わせていたなんて、思ってもみなかった。
志信は自分の不甲斐なさが情けなくてため息をつく。
「そっか……そんなこと思ってたんだ」
「うん……。でもやっぱり……志信の事ばっかり考えてた。志信の事を遠ざけてたのは自分だったし……そもそも志信とは何も始まってもいなかったんだから、他に誰か好きな人がいても仕方ないかって思った……」
志信は薫の腕を引き寄せ、強く抱きしめた。
「あんなとこ見たら、好きだなんて言えないじゃん……。あの時のオレには、あれが精一杯の告白だったんだよ……。気付けよバカ……」
耳元で切なげに話す志信の声に、薫の胸がしめつけられ、キュンと甘い音を立てた。
(今……胸がキュンって……。こんな事初めて……)
薫は腕を伸ばして志信の背中を抱きしめ、頬にそっとキスをした。
「今頃になって志信が好きだって気付くなんてバカだなぁって、自分でも思った」
「オレの気持ちには気付かなかったの?」
「あんな言い方されたって気付けないよ。志信だって私が好きだって言うまで、私の気持ちには全然気付かなかったでしょ?」
志信は少し考えて、同じように薫の頬にキスをする。
「確かに……。他に好きな人がいるのに、なんでオレの家に来たんだろうって思ってた」
「ネックレスしてたのに?」
「薫が『好きな人にもらった』とか言うから……あっ……」
志信はハッとして薫の顔を見た。
「でしょ?」
「うん。お互い様だな」
二人は顔を見合わせて笑った。
「遠回りしたね」
「その分、今から取り返す。今夜も明日も、ずっと一緒にいたい」
「うん……。私も……」
二人は見つめ合って、ゆっくりと唇を重ねた。
長いキスの後、唇を離した志信は少し考えるそぶりを見せた。
「とりあえず、タバコ変えようかな……。キスするたびに薫があの人とのキス思い出したらイヤだ。酔って間違えてあの人の名前呼んだりとか……」
「意外とヤキモチ妬きなんだね。もうそんな事ないと思うけど、志信がどうしても気になるならそうして」
今まで知らなかった志信の意外な一面を見て、薫はおかしそうに笑った。
そして、志信の傍らに置かれたバッグを指さして尋ねる。
「ところで、さっきから気になってたんだけど……やけに荷物多くない?」
「薫がなんて言っても、今夜は絶対離さないって決めて来たから」
「泊まるつもりで用意して来たの?」
「うん。オレが帰したくないって言っても、薫は着替え用意してないの理由に帰っちゃったから。薫スマホ忘れてるし、どうせ持ってくならオレが薫の部屋に泊まろうと思って」
薫は志信の用意周到さに驚き目を丸くした。
だけど正直に下心を打ち明ける志信がおかしくて、でも堪らなく愛しくて、声をあげて笑った。
「もう……バカ……。でもそういうとこ、志信らしくて好き」
志信は笑いながら薫を抱き寄せ、頬に優しくキスをした。
「一緒にいられて嬉しい?」
「たまには忘れ物もしてみるもんだね」
「わざと?」
「違うよ。ついいつもの癖で、ポケットにスマホを入れたつもりだったの」
「慣れない事はするもんじゃないな。でもそのおかげでこうして一緒にいられるし……。やっぱりたまにはいいか」
「たまにはね。今日は久し振りに志信とゆっくり飲める」
(そっちか!!)
志信は心の中で思わずツッコミを入れた。
「あのね……言ってなかったけど……志信に見られる前にも、一度キスされたんだ」
「……うん」
志信の眉間に微かにシワが寄ったのを見て、薫はまた少し言いにくそうに口ごもる。
「……タバコがね……同じなの、志信とあの人」
「そうなの?」
「うん。だから、キスされるとあのタバコの匂いがしてね……。それは昔と同じだったのに、あの時は志信の事思い出して……違う、この人じゃないって、思ったの」
「えっ……」
「それで、帰ってって言ったら、振り返ってまた不意打ちでキスされた……。志信が見たのはそれだったんだけど……。志信に誤解されるし、好きな人がいるとか、もう誘わないとか言われるし……」
薫がシュンと肩を落とすのを見て、志信は慌てて言い訳する。
「誤解って……。あんなとこ見たら、誰だってそう思うよ」
「そうかもね。でもあの時はそれで自分の気持ちもわからなくなって、なんかもうどうでも良くなって来て、一人で寂しく歳取って死んでくくらいなら、好きだって言ってくれてるし、もう一度信じてみようかなぁ……とかね」
伝えたくても伝えられない薫への想いをせめて聞いてもらいたくて口にした。
だけどまさか、自分の言った言葉が薫を迷わせていたなんて、思ってもみなかった。
志信は自分の不甲斐なさが情けなくてため息をつく。
「そっか……そんなこと思ってたんだ」
「うん……。でもやっぱり……志信の事ばっかり考えてた。志信の事を遠ざけてたのは自分だったし……そもそも志信とは何も始まってもいなかったんだから、他に誰か好きな人がいても仕方ないかって思った……」
志信は薫の腕を引き寄せ、強く抱きしめた。
「あんなとこ見たら、好きだなんて言えないじゃん……。あの時のオレには、あれが精一杯の告白だったんだよ……。気付けよバカ……」
耳元で切なげに話す志信の声に、薫の胸がしめつけられ、キュンと甘い音を立てた。
(今……胸がキュンって……。こんな事初めて……)
薫は腕を伸ばして志信の背中を抱きしめ、頬にそっとキスをした。
「今頃になって志信が好きだって気付くなんてバカだなぁって、自分でも思った」
「オレの気持ちには気付かなかったの?」
「あんな言い方されたって気付けないよ。志信だって私が好きだって言うまで、私の気持ちには全然気付かなかったでしょ?」
志信は少し考えて、同じように薫の頬にキスをする。
「確かに……。他に好きな人がいるのに、なんでオレの家に来たんだろうって思ってた」
「ネックレスしてたのに?」
「薫が『好きな人にもらった』とか言うから……あっ……」
志信はハッとして薫の顔を見た。
「でしょ?」
「うん。お互い様だな」
二人は顔を見合わせて笑った。
「遠回りしたね」
「その分、今から取り返す。今夜も明日も、ずっと一緒にいたい」
「うん……。私も……」
二人は見つめ合って、ゆっくりと唇を重ねた。
長いキスの後、唇を離した志信は少し考えるそぶりを見せた。
「とりあえず、タバコ変えようかな……。キスするたびに薫があの人とのキス思い出したらイヤだ。酔って間違えてあの人の名前呼んだりとか……」
「意外とヤキモチ妬きなんだね。もうそんな事ないと思うけど、志信がどうしても気になるならそうして」
今まで知らなかった志信の意外な一面を見て、薫はおかしそうに笑った。
そして、志信の傍らに置かれたバッグを指さして尋ねる。
「ところで、さっきから気になってたんだけど……やけに荷物多くない?」
「薫がなんて言っても、今夜は絶対離さないって決めて来たから」
「泊まるつもりで用意して来たの?」
「うん。オレが帰したくないって言っても、薫は着替え用意してないの理由に帰っちゃったから。薫スマホ忘れてるし、どうせ持ってくならオレが薫の部屋に泊まろうと思って」
薫は志信の用意周到さに驚き目を丸くした。
だけど正直に下心を打ち明ける志信がおかしくて、でも堪らなく愛しくて、声をあげて笑った。
「もう……バカ……。でもそういうとこ、志信らしくて好き」
志信は笑いながら薫を抱き寄せ、頬に優しくキスをした。
「一緒にいられて嬉しい?」
「たまには忘れ物もしてみるもんだね」
「わざと?」
「違うよ。ついいつもの癖で、ポケットにスマホを入れたつもりだったの」
「慣れない事はするもんじゃないな。でもそのおかげでこうして一緒にいられるし……。やっぱりたまにはいいか」
「たまにはね。今日は久し振りに志信とゆっくり飲める」
(そっちか!!)
志信は心の中で思わずツッコミを入れた。
3
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる