君に恋していいですか?

櫻井音衣

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別れを告げた恋、始まった二人の恋

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志信は落ち着かない気持ちで家に帰り、苛立たしげな手付きでタバコに火をつけた。
スマホを手にソワソワして、タバコの味も匂いもわからない。
まだ長いタバコを灰皿の上で揉み消して、またすぐ新しいタバコに火をつけて、またすぐに灰皿に……を何度かくり返した。

(はぁ……ダメだオレ……。薫からの電話待ってるくせに、薫の言葉聞くのが怖い……)

志信は大きなため息をついてベッドにもたれ、さっきまでここに薫がいた事を確かめようと、シーツに手を滑らせた。
しかしベッドで薫と愛し合ってから時間が経ってしまったので、シーツには薫のぬくもりは残っておらず、無機質な冷たさだけが志信の手に伝わってくる。

(やっとオレだけの薫になったんだ……。誰にも渡したくない……)

そんな事を考えながら、何気なく部屋を見渡した志信は、テーブルの下にスマホが落ちている事に気付いた。

(スマホ?オレあんな所に置いたかな?)

テーブルの上に自分のスマホが置いてある事を確かめて、志信は慌てて立ち上がった。

(薫のスマホか!!なんだよ、電話するから待ってろって、ここにあったら電話できねぇじゃんか!!)

志信は薫のスマホを握りしめ、玄関で靴を履いて部屋を飛び出そうとして、足を止めた。

(そうだ、どうせなら……)

靴を脱いで部屋に戻り、タンスの中から着替えを出してバッグに詰めた。
その上に薫のスマホを乗せてバッグのファスナーを締めると、それを持って今度こそ部屋を出て、薫のマンションに向かって走り出した。

(薫は絶対誰にも渡さない!!それから今夜は絶対薫を離さない!!)



浩樹との話を終えて部屋に戻った薫は、部屋着に着替えを済ませた後、バッグの中をゴソゴソと漁っていた。

「あれ……?おかしいな……」

志信に電話をしようとバッグの中にあるはずのスマホを取り出そうとしたが、バッグのどこを探してもスマホは見当たらない。

(なんで?)

今日着ていた洋服にはポケットなんてなかったし、バッグの中にない訳がない。
薫は最後にスマホを手にしていたのはいつだっただろうと考える。

(志信と食事に行って……部屋に戻ってからメールのチェックして……)

「……あっ!!」

メールのチェックをした後、いつもそうしているように、服のポケットにスマホを入れたつもりでいた。

(あー……私バカだ……。いつもズボンのポケットにスマホをしまうから、つい癖で……)

薫は志信の部屋にスマホを落として、そのまま部屋を出て来た事に気付いた。

「どうしよう、志信、きっと待ってる……」

もう一度志信の部屋に戻るしかないと慌てて薫が立ち上がった時、部屋のチャイムが鳴った。

(こんな時間に誰?!……って言うか、よりによってこんな時に……)

薫は焦りながらインターホンのドアモニターを見たあと、驚いて玄関のドアを開けた。

「志信!!」

志信は息を切らせながら薫を抱きしめて、薫の肩に頭を乗せた。

「スマホ忘れたら、電話できないじゃん……」
「ごっ、ごめん……。走って来たの?」
「うん、居ても立ってもいられなくて……。話、聞かせてくれる?」

薫は志信を部屋に入れ、よく冷えたビールを冷蔵庫から取り出した。
そしてビールを飲みながら、浩樹と話した事を志信に伝えた。
志信はグラスを傾けながら、真剣な面持ちで薫の話に耳を傾けていた。

「長い間ずっと苦しんだけど、これでやっと終わったって気がする。」

穏やかに笑う薫に、志信は気になっていた事を尋ねようと、ためらいがちに口を開く。

「あの人の事、すごく好きだった?」
「うん……すごく好きだった……。だから余計に傷付いたし、つらかった……」
「別れてからもずっと?」

薫は少しの間無言で考えたあと、ビールを一口飲んだ。

「そうかも知れない。ちゃんと別れてなかったから、私の中で終わってなかった」
「もう一度付き合って欲しいって言われて……迷ったりした?」

言いにくそうに尋ねる志信から、薫は少し目をそらした。

「……少しね。やっぱりホラ……将来の事とか、気になるじゃない?」
「うん……そっか……」

肩を落として黙り込む志信を見て、薫は慌てて弁解する。

「だってあの時は志信が………好きな人がいるとか、それがすっげぇかわいい子だとか言うから……」
「え?」

志信はその事になんの関係があるのかと首をかしげ、怪訝な顔をした。

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