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不器用な二人
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あれから2週間が経った。
薫はいつものように出勤し、何事もなかったような顔をして日々の仕事をこなしている。
仕事が終わると真っ直ぐ家に帰り、一人でビールを飲む。
『もう誘わない方がいいよな』と言う言葉通り、志信からはなんの連絡もなく、会社で顔を合わせる事もない。
浩樹に『もう一度付き合って欲しい』と言われたまま、ハッキリとした返事もしていない。
もう何年も前に終わった恋だと思っていたのに、急に目の前に現れて今でも好きだと言った浩樹を、今更信じられるわけもない。
それなのに、ハッキリと拒絶する事もできなくて、薫は自分で自分の気持ちがわからなくなっていた。
別れの言葉もないままに終わった恋は、いつまでも薫の心にしがみついて、忘れる事も、新しい恋に踏み出す事も許してくれない。
そもそも、新しい恋なんて始まりもしなかった。
何年も閉ざしたままだった渇いた心が、ほんの少し、志信の優しさに傾きそうになっていたかも知れない。
だけど志信には好きな人がいて、結局は『誰にでも優しい同期の笠松くん』でしかなかったんだと薫は思う。
(危うく勘違いしちゃうところだったよ……。好きな人がいるなら、誰にでも優しくなんてしたらダメだって……)
金曜日になると志信は、飲みに行こうとよく誘ってくれた。
一緒にいると、気兼ねなく食べて、思い切り飲んで、タバコを吸って、子供みたいにムキになってゲームで勝負して、たくさん笑った。
常に遠慮がちな他の同期とは違って、そうすることが当たり前のように自然に接してくれる志信と過ごす時間は、とても楽しかった。
同じ金曜日の夜なのに、一人部屋でビールを飲んでいるのは、なんとなく寂しい。
薫はタバコに火をつけ、ぼんやりとビールを飲みながら考える。
(元に戻っただけなのに……どうしてこんなに寂しいんだろう……)
浩樹と別れてから、ずっと一人だった。
入社した当初は休みの日に会っていた学生時代の友人も、今では結婚をして子供を産み、妻と母親の仕事に忙しくて、もう何年も会っていない。
結婚なんて、自分には最も縁遠い話だと思う。
『いい奥さんになれそう』と梨花は言ってくれたが、相手がいなければなれるはずもない。
結婚どころか恋愛さえできないでいるのに、この先ずっと一人かも知れないと、少し不安になる。
このまま歳を重ねて一人寂しく死んでいくくらいなら、過去の事は水に流して、いっそ浩樹の言葉を信じてみようか。
こんな自分の事を好きになってくれる人なんて、もしかしたらもう二度と現れないかも知れない。
だけど、どうしても踏み切れない。
自分の気持ちがわからないのに、簡単に返事はできない。
(私……一体どうしたいんだろう……)
どんなに考えても答えは出ない。
ただ、大事な何かをなくしたようで、無性に寂しい。
薫は短くなったタバコを灰皿の上で揉み消してため息をついた。
(笠松くん、片想いだって言ってたな……。あれからその子とはどうなったんだろう?)
なんとなく志信の事を考えて、薫はスマホを手に取った。
画像のアルバム画面を開いて、この部屋で梨花の誕生日パーティーをした時の写真を眺めた。
二人で肩を寄せて撮ったツーショット写真には、満面の笑みを浮かべる志信と自分の姿があった。
(あの時の笠松くん、あったかくて気持ち良かったな……)
抱きしめて髪を撫でてくれた優しい手。
触れ合った肌の温かさと、額に触れた志信の唇の感触にドキドキした。
(他に好きな人がいるのに、なんであんなに優しく抱きしめたりするんだろう……。やっぱり、その場の雰囲気とかお酒の勢いで、誰にでもそういう事するのかな……)
もしかしたら今頃、好きな人に似合いそうだと言っていたアクセサリーをプレゼントして、その人と一緒に過ごしているのかも知れない。
あの甘い声で好きだと言って、自分にしてくれたよりもずっと優しく抱きしめているのかも知れない。
志信の恋がうまく行くなら、同期の仲間として祝福したいと思う。
でも、どこかで素直に笑えない自分がいる。
(やだな……。なんでこんな事考えてるんだろう……。こんな事考えてるなんて、おかしい……)
薫は胸のモヤモヤをかき消そうと、ビールを勢いよく煽った。
(こんなことを考えたってしょうがないのに……。笠松くんが誰とどうなったって、私には関係のない事でしょ……?)
薫はいつものように出勤し、何事もなかったような顔をして日々の仕事をこなしている。
仕事が終わると真っ直ぐ家に帰り、一人でビールを飲む。
『もう誘わない方がいいよな』と言う言葉通り、志信からはなんの連絡もなく、会社で顔を合わせる事もない。
浩樹に『もう一度付き合って欲しい』と言われたまま、ハッキリとした返事もしていない。
もう何年も前に終わった恋だと思っていたのに、急に目の前に現れて今でも好きだと言った浩樹を、今更信じられるわけもない。
それなのに、ハッキリと拒絶する事もできなくて、薫は自分で自分の気持ちがわからなくなっていた。
別れの言葉もないままに終わった恋は、いつまでも薫の心にしがみついて、忘れる事も、新しい恋に踏み出す事も許してくれない。
そもそも、新しい恋なんて始まりもしなかった。
何年も閉ざしたままだった渇いた心が、ほんの少し、志信の優しさに傾きそうになっていたかも知れない。
だけど志信には好きな人がいて、結局は『誰にでも優しい同期の笠松くん』でしかなかったんだと薫は思う。
(危うく勘違いしちゃうところだったよ……。好きな人がいるなら、誰にでも優しくなんてしたらダメだって……)
金曜日になると志信は、飲みに行こうとよく誘ってくれた。
一緒にいると、気兼ねなく食べて、思い切り飲んで、タバコを吸って、子供みたいにムキになってゲームで勝負して、たくさん笑った。
常に遠慮がちな他の同期とは違って、そうすることが当たり前のように自然に接してくれる志信と過ごす時間は、とても楽しかった。
同じ金曜日の夜なのに、一人部屋でビールを飲んでいるのは、なんとなく寂しい。
薫はタバコに火をつけ、ぼんやりとビールを飲みながら考える。
(元に戻っただけなのに……どうしてこんなに寂しいんだろう……)
浩樹と別れてから、ずっと一人だった。
入社した当初は休みの日に会っていた学生時代の友人も、今では結婚をして子供を産み、妻と母親の仕事に忙しくて、もう何年も会っていない。
結婚なんて、自分には最も縁遠い話だと思う。
『いい奥さんになれそう』と梨花は言ってくれたが、相手がいなければなれるはずもない。
結婚どころか恋愛さえできないでいるのに、この先ずっと一人かも知れないと、少し不安になる。
このまま歳を重ねて一人寂しく死んでいくくらいなら、過去の事は水に流して、いっそ浩樹の言葉を信じてみようか。
こんな自分の事を好きになってくれる人なんて、もしかしたらもう二度と現れないかも知れない。
だけど、どうしても踏み切れない。
自分の気持ちがわからないのに、簡単に返事はできない。
(私……一体どうしたいんだろう……)
どんなに考えても答えは出ない。
ただ、大事な何かをなくしたようで、無性に寂しい。
薫は短くなったタバコを灰皿の上で揉み消してため息をついた。
(笠松くん、片想いだって言ってたな……。あれからその子とはどうなったんだろう?)
なんとなく志信の事を考えて、薫はスマホを手に取った。
画像のアルバム画面を開いて、この部屋で梨花の誕生日パーティーをした時の写真を眺めた。
二人で肩を寄せて撮ったツーショット写真には、満面の笑みを浮かべる志信と自分の姿があった。
(あの時の笠松くん、あったかくて気持ち良かったな……)
抱きしめて髪を撫でてくれた優しい手。
触れ合った肌の温かさと、額に触れた志信の唇の感触にドキドキした。
(他に好きな人がいるのに、なんであんなに優しく抱きしめたりするんだろう……。やっぱり、その場の雰囲気とかお酒の勢いで、誰にでもそういう事するのかな……)
もしかしたら今頃、好きな人に似合いそうだと言っていたアクセサリーをプレゼントして、その人と一緒に過ごしているのかも知れない。
あの甘い声で好きだと言って、自分にしてくれたよりもずっと優しく抱きしめているのかも知れない。
志信の恋がうまく行くなら、同期の仲間として祝福したいと思う。
でも、どこかで素直に笑えない自分がいる。
(やだな……。なんでこんな事考えてるんだろう……。こんな事考えてるなんて、おかしい……)
薫は胸のモヤモヤをかき消そうと、ビールを勢いよく煽った。
(こんなことを考えたってしょうがないのに……。笠松くんが誰とどうなったって、私には関係のない事でしょ……?)
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