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切なさに身を焦がす夜
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薫が下を向いて歩きながら、ぐるぐると思いを巡らせていると、浩樹がポツリと呟く。
「あの時は……悪かった……」
薫は何も答えず、ただ下を向いて歩き続けた。
浩樹は前を向いたまま話しを続ける。
「彼女がいたのに薫の事が好きになって、本気になってた。彼女とは別れるつもりでいたのにそれもできなくて……子供ができて結婚する事になって、その上支社に転勤が決まって……。ずっと薫に謝りたかった。でも勇気がなくて……結局オレは、薫に本当の事は何も言えないままで逃げ出した……」
浩樹の言葉を聞きながら、薫は唇を噛みしめた。
今更こんな事を聞いても、どうにもならない。
どうせならあの時に、正直に話して欲しかった。
薫は胸に込み上げてくる涙と、あの時の感情を必死で堪えた。
マンションの前に着いても浩樹は足を止めず、ビールの箱を持ったままエントランスを通り抜けた。
「もうここでいいから……」
「部屋まで運ぶよ。それくらいさせて」
結局、浩樹に押しきられる形で部屋の前まで荷物を運んでもらい、玄関の鍵を開けて荷物を受け取った。
「もう少し、話したい」
薫は浩樹の言葉を聞き流し、顔を見ないようにして玄関に荷物を置いた。
「私は……今更話したい事なんてありません」
「薫……」
浩樹は強引に玄関の中に入り、ドアを閉めて、薫の手を握りしめた。
突然の事に驚いて、薫は目を見開き手を振り払おうとした。
しかし浩樹の手は、薫の手を掴んで離さない。
薫は浩樹の顔を見る事も、手を振り払う事もできずうつむいた。
「お願いだから、話を聞いてくれないか。ずっと薫に会いたかった。薫を忘れた事なんてなかった」
「やめて……」
「オレは、今でも薫の事が……」
薫は堪らず思いきり浩樹の手を振り払い、耳を塞いだ。
「もうやめて!!なんで?なんでそんな事が言えるの?あんなひどい捨て方しておいて……奥さんも子供もいるくせに……!また私を都合のいい女にしようと思ってるの?今更そんな事聞きたくない!!」
浩樹は小さく肩を震わせる薫を抱きしめて、優しく頭を撫でる。
「ごめん……。ホントにごめん……。でも、薫が好きなんだ」
「やめてよ……。もうあんなみじめな思いはしたくない……」
「彼女とは去年別れた。薫の事を忘れられないままで、結婚生活がうまく行くはずなんてなかったんだ」
「そんなの……私には関係ない……」
薫が浩樹の腕から逃れようと身をよじると、浩樹は更に腕に力を込めて強く抱きしめた。
「薫……もう一度、オレと付き合って欲しい」
「何言ってるの……?ふざけないで……!」
「オレは本気だよ」
「離して。触らないで」
「あの販売事業部の彼と付き合ってるから?」
突然志信の事を言われ、薫は慌てて首を横に振った。
「違う……。笠松くんはそんなんじゃない……」
「だったら、今度こそ薫を幸せにするから……もう一度チャンスをくれないか。頼む……」
(信じられるわけないのに……なんで今更そんなこと言うの……?もうあなたの事なんか好きじゃないって、ハッキリ言わなくちゃ……)
頭ではそう思っているのに、あの時欲しかった浩樹の言葉が、薫の心を揺るがした。
(好きだった……。ホントに好きだった……)
つらくて苦しくて悲しかった想いが、涙になって薫の頬を伝った。
「薫、ごめん……好きだよ」
薫は浩樹の胸に顔をうずめて泣いた。
止める事のできない涙が後から後からいくつも溢れ、浩樹のシャツを濡らした。
そして、浩樹の唇が、薫の唇に重なる。
浩樹のキスは、昔と同じタバコの香りがした。
(あ……)
そのタバコの香りに、薫は無意識のうちに、志信の切なげな声を思い出す。
『いい加減気付けよ、バカ……』
薫は我に返り、浩樹の体を押し返した。
「帰って……」
うつむいたまま小さく呟く薫を、浩樹はもう一度抱き寄せた。
「さっき言った事、本気だから……。考えておいて欲しい」
浩樹は玄関のドアを開けて振り返り、もう一度薫に口づけて去っていった。
薫は不意打ちのキスを避ける事もできず、去っていく浩樹の背中を呆然と見送る。
そして玄関のドアを閉めようとした時、少し離れた場所に立ち尽くしている志信の姿に気付いた。
(笠松くん……?!なんでここに?もしかして……今の、見られてた……?)
「あの時は……悪かった……」
薫は何も答えず、ただ下を向いて歩き続けた。
浩樹は前を向いたまま話しを続ける。
「彼女がいたのに薫の事が好きになって、本気になってた。彼女とは別れるつもりでいたのにそれもできなくて……子供ができて結婚する事になって、その上支社に転勤が決まって……。ずっと薫に謝りたかった。でも勇気がなくて……結局オレは、薫に本当の事は何も言えないままで逃げ出した……」
浩樹の言葉を聞きながら、薫は唇を噛みしめた。
今更こんな事を聞いても、どうにもならない。
どうせならあの時に、正直に話して欲しかった。
薫は胸に込み上げてくる涙と、あの時の感情を必死で堪えた。
マンションの前に着いても浩樹は足を止めず、ビールの箱を持ったままエントランスを通り抜けた。
「もうここでいいから……」
「部屋まで運ぶよ。それくらいさせて」
結局、浩樹に押しきられる形で部屋の前まで荷物を運んでもらい、玄関の鍵を開けて荷物を受け取った。
「もう少し、話したい」
薫は浩樹の言葉を聞き流し、顔を見ないようにして玄関に荷物を置いた。
「私は……今更話したい事なんてありません」
「薫……」
浩樹は強引に玄関の中に入り、ドアを閉めて、薫の手を握りしめた。
突然の事に驚いて、薫は目を見開き手を振り払おうとした。
しかし浩樹の手は、薫の手を掴んで離さない。
薫は浩樹の顔を見る事も、手を振り払う事もできずうつむいた。
「お願いだから、話を聞いてくれないか。ずっと薫に会いたかった。薫を忘れた事なんてなかった」
「やめて……」
「オレは、今でも薫の事が……」
薫は堪らず思いきり浩樹の手を振り払い、耳を塞いだ。
「もうやめて!!なんで?なんでそんな事が言えるの?あんなひどい捨て方しておいて……奥さんも子供もいるくせに……!また私を都合のいい女にしようと思ってるの?今更そんな事聞きたくない!!」
浩樹は小さく肩を震わせる薫を抱きしめて、優しく頭を撫でる。
「ごめん……。ホントにごめん……。でも、薫が好きなんだ」
「やめてよ……。もうあんなみじめな思いはしたくない……」
「彼女とは去年別れた。薫の事を忘れられないままで、結婚生活がうまく行くはずなんてなかったんだ」
「そんなの……私には関係ない……」
薫が浩樹の腕から逃れようと身をよじると、浩樹は更に腕に力を込めて強く抱きしめた。
「薫……もう一度、オレと付き合って欲しい」
「何言ってるの……?ふざけないで……!」
「オレは本気だよ」
「離して。触らないで」
「あの販売事業部の彼と付き合ってるから?」
突然志信の事を言われ、薫は慌てて首を横に振った。
「違う……。笠松くんはそんなんじゃない……」
「だったら、今度こそ薫を幸せにするから……もう一度チャンスをくれないか。頼む……」
(信じられるわけないのに……なんで今更そんなこと言うの……?もうあなたの事なんか好きじゃないって、ハッキリ言わなくちゃ……)
頭ではそう思っているのに、あの時欲しかった浩樹の言葉が、薫の心を揺るがした。
(好きだった……。ホントに好きだった……)
つらくて苦しくて悲しかった想いが、涙になって薫の頬を伝った。
「薫、ごめん……好きだよ」
薫は浩樹の胸に顔をうずめて泣いた。
止める事のできない涙が後から後からいくつも溢れ、浩樹のシャツを濡らした。
そして、浩樹の唇が、薫の唇に重なる。
浩樹のキスは、昔と同じタバコの香りがした。
(あ……)
そのタバコの香りに、薫は無意識のうちに、志信の切なげな声を思い出す。
『いい加減気付けよ、バカ……』
薫は我に返り、浩樹の体を押し返した。
「帰って……」
うつむいたまま小さく呟く薫を、浩樹はもう一度抱き寄せた。
「さっき言った事、本気だから……。考えておいて欲しい」
浩樹は玄関のドアを開けて振り返り、もう一度薫に口づけて去っていった。
薫は不意打ちのキスを避ける事もできず、去っていく浩樹の背中を呆然と見送る。
そして玄関のドアを閉めようとした時、少し離れた場所に立ち尽くしている志信の姿に気付いた。
(笠松くん……?!なんでここに?もしかして……今の、見られてた……?)
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