43 / 61
切なさに身を焦がす夜
2
しおりを挟む
家に帰って、早速レターセットを広げた。
さっき買った青いインクのペンを左手に、何から書き出せばいいのかと考える。
(ずっと好きだった、とか……?オレが幸せにするから……とか……?)
長い時間、いろいろと思い悩んで、何度も書き直した。
何度書き直しても、納得のいく文面にはほど遠い。
(はぁ……オレって文才ねぇな……。小学生の作文じゃあるまいし、カッコつけても仕方ないか。素直な気持ちを書くしか……)
この気持ちを綴った手紙を、薫はどんな顔をして読むのだろう?
やっぱり、冗談はよしてと笑うのだろうか?
それとも、同期としてしか考えられないとバッサリ切り捨てられるのだろうか?
(せめて、オレがどれくらい真剣に好きなのかって事だけでも、わかってくれたらいいんだけどな……)
そろそろ夕食の支度でもしようかと、薫は冷蔵庫を覗き込んだ。
冷蔵庫の中の食材は残り少なく、缶ビールも2本しか入っていない。
(めんどくさいけど買い物行かないと飲めないしな……。そうだ、ついでにタバコも買っとこう)
薫は買い物に行くため財布の中身を確認して、ゆうべ志信に握らされた五千円札に目を留めた。
急に機嫌が悪くなったと思ったら、今までに見たこともない顔で叫んで、思いっきり抱きしめられた事、そして志信の切なげな声を思い出す。
(あんな笠松くん初めて見た……)
次に志信に会ったら、とりあえずこの五千円札を返そうと薫は思う。
それから、やっぱりどうして志信が怒っていたのか、理由が知りたい。
もし自分の言動が原因なら、きちんと謝らなければ気が済まない。
薫はバッグに財布をしまって玄関で靴を履き、鍵をしめて買い物に出掛けた。
窓の外はすっかり暗くなった。
随分悩んで何度も書き直し、やっとの思いで薫への手紙を書き上げた志信は、タバコに火をつけて冷めきったコーヒーを飲み干した。
(問題は、いつどこで渡すか……だな)
とりあえず、謝るなら早い方がいい。
この状況を何日も放っておいたら、どんどん気まずくなっていくような気がする。
謝るだけ謝って、プレゼントと手紙は別の日に渡すのがいいのか、それとも『ごめん』と謝って渡せばいいのか。
社内の人間の目を考えると、会社で渡すのは難しい。
社外で渡すとすれば、いつどこで渡すべきだろう?
(会社の帰り?でもそれだと明後日の夕方まで渡せないんだよな。先にメールで謝って……)
タバコを吸いながら志信は思いを巡らせる。
志信は灰皿の上にタバコを揉み消し、手紙をネックレスの入った紙袋に入れて立ち上がった。
(まどろっこしい事はやめた。思い立ったが吉日だ。ちゃんと顔見て謝って、気持ちを伝えよう)
薫は近所のスーパーに足を運んだ。
カートを押して、野菜や肉などの食材を選んでかごに入れ、ちょうど特売になっていたビールを箱ごと乗せた。
レジでタバコを2カートン買い、すべての会計を済ませて、買った物を袋に詰めた。
(しまった……ちょっと買いすぎた……。車で来れば良かったなぁ……)
薫は買い物袋と、安くなっていたので思わず箱買いしてしまったビールをジーッと眺める。
眺めていてもどうにもならないので、自力で運ぶしかなさそうだ。
(いつも18リットルの灯油のポリ缶ふたつ持って走ってるんだし、頑張ればこれも持って帰れるかな……?)
買い物袋を両腕に提げ、ビールの箱を両手で抱えた。
たくさんの食材が入った買い物袋をふたつも持っている上に、500mlの缶ビールが24本も入った箱はかなりの重さだ。
しばらく歩くと、その重さで腕がしびれそうになる。
だけど買ってしまったものはどうしようもない。
重い荷物を抱えながら歩いていると、後ろから誰かに肩を叩かれ振り返った。
「あっ……」
そこには浩樹の姿があった。
驚きのあまり、思わずビールの箱を落としそうになる。
「おっと、危ない」
浩樹は薫の手から、ビールの箱と買い物袋をひとつ取り上げ、軽々と持って歩く。
「家まで持つよ」
「……結構です。大丈夫ですから」
薫は慌てて荷物を取り返そうとした。
しかし浩樹は笑みを浮かべながら、重い荷物を片手で持ち、もう片方の手で薫の頭を撫でた。
「遠慮しないで。こんな重い物をいっぺんに運ぶなんて、女の子には無理だよ」
薫は突然のこの状況に困惑しながら、スタスタと歩いて行く浩樹の背中を、黙って追い掛けた。
あんなにひどい捨て方をしておいて、今更優しいふりなんかして、一体何を考えているのだろう?
(女の子って何?なんで今更そんなことするの?あなたは私を騙して捨てたんでしょ?あなたには奥さんと子供がいるんでしょ?)
さっき買った青いインクのペンを左手に、何から書き出せばいいのかと考える。
(ずっと好きだった、とか……?オレが幸せにするから……とか……?)
長い時間、いろいろと思い悩んで、何度も書き直した。
何度書き直しても、納得のいく文面にはほど遠い。
(はぁ……オレって文才ねぇな……。小学生の作文じゃあるまいし、カッコつけても仕方ないか。素直な気持ちを書くしか……)
この気持ちを綴った手紙を、薫はどんな顔をして読むのだろう?
やっぱり、冗談はよしてと笑うのだろうか?
それとも、同期としてしか考えられないとバッサリ切り捨てられるのだろうか?
(せめて、オレがどれくらい真剣に好きなのかって事だけでも、わかってくれたらいいんだけどな……)
そろそろ夕食の支度でもしようかと、薫は冷蔵庫を覗き込んだ。
冷蔵庫の中の食材は残り少なく、缶ビールも2本しか入っていない。
(めんどくさいけど買い物行かないと飲めないしな……。そうだ、ついでにタバコも買っとこう)
薫は買い物に行くため財布の中身を確認して、ゆうべ志信に握らされた五千円札に目を留めた。
急に機嫌が悪くなったと思ったら、今までに見たこともない顔で叫んで、思いっきり抱きしめられた事、そして志信の切なげな声を思い出す。
(あんな笠松くん初めて見た……)
次に志信に会ったら、とりあえずこの五千円札を返そうと薫は思う。
それから、やっぱりどうして志信が怒っていたのか、理由が知りたい。
もし自分の言動が原因なら、きちんと謝らなければ気が済まない。
薫はバッグに財布をしまって玄関で靴を履き、鍵をしめて買い物に出掛けた。
窓の外はすっかり暗くなった。
随分悩んで何度も書き直し、やっとの思いで薫への手紙を書き上げた志信は、タバコに火をつけて冷めきったコーヒーを飲み干した。
(問題は、いつどこで渡すか……だな)
とりあえず、謝るなら早い方がいい。
この状況を何日も放っておいたら、どんどん気まずくなっていくような気がする。
謝るだけ謝って、プレゼントと手紙は別の日に渡すのがいいのか、それとも『ごめん』と謝って渡せばいいのか。
社内の人間の目を考えると、会社で渡すのは難しい。
社外で渡すとすれば、いつどこで渡すべきだろう?
(会社の帰り?でもそれだと明後日の夕方まで渡せないんだよな。先にメールで謝って……)
タバコを吸いながら志信は思いを巡らせる。
志信は灰皿の上にタバコを揉み消し、手紙をネックレスの入った紙袋に入れて立ち上がった。
(まどろっこしい事はやめた。思い立ったが吉日だ。ちゃんと顔見て謝って、気持ちを伝えよう)
薫は近所のスーパーに足を運んだ。
カートを押して、野菜や肉などの食材を選んでかごに入れ、ちょうど特売になっていたビールを箱ごと乗せた。
レジでタバコを2カートン買い、すべての会計を済ませて、買った物を袋に詰めた。
(しまった……ちょっと買いすぎた……。車で来れば良かったなぁ……)
薫は買い物袋と、安くなっていたので思わず箱買いしてしまったビールをジーッと眺める。
眺めていてもどうにもならないので、自力で運ぶしかなさそうだ。
(いつも18リットルの灯油のポリ缶ふたつ持って走ってるんだし、頑張ればこれも持って帰れるかな……?)
買い物袋を両腕に提げ、ビールの箱を両手で抱えた。
たくさんの食材が入った買い物袋をふたつも持っている上に、500mlの缶ビールが24本も入った箱はかなりの重さだ。
しばらく歩くと、その重さで腕がしびれそうになる。
だけど買ってしまったものはどうしようもない。
重い荷物を抱えながら歩いていると、後ろから誰かに肩を叩かれ振り返った。
「あっ……」
そこには浩樹の姿があった。
驚きのあまり、思わずビールの箱を落としそうになる。
「おっと、危ない」
浩樹は薫の手から、ビールの箱と買い物袋をひとつ取り上げ、軽々と持って歩く。
「家まで持つよ」
「……結構です。大丈夫ですから」
薫は慌てて荷物を取り返そうとした。
しかし浩樹は笑みを浮かべながら、重い荷物を片手で持ち、もう片方の手で薫の頭を撫でた。
「遠慮しないで。こんな重い物をいっぺんに運ぶなんて、女の子には無理だよ」
薫は突然のこの状況に困惑しながら、スタスタと歩いて行く浩樹の背中を、黙って追い掛けた。
あんなにひどい捨て方をしておいて、今更優しいふりなんかして、一体何を考えているのだろう?
(女の子って何?なんで今更そんなことするの?あなたは私を騙して捨てたんでしょ?あなたには奥さんと子供がいるんでしょ?)
3
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる