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優しい人、優しかった人
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「あっ……ごめん……」
志信の肩にもたれ掛かったままでしばらく眠っていたらしい。
(酔っぱらって思いきりもたれて寝ちゃうなんて、恥ずかしい……)
チラリと志信の様子を窺うと、薫の目には、志信が少し悲しげな顔をしているように見えた。
(笠松くん……?)
薫と目が合うと、志信は静かに目をそらした。
「大丈夫?」
「うん……ごめん……。私、寝てた?」
「少しね」
志信は薫から手を離すと、その手でタバコに火をつけた。
ゆっくりと煙を吐き出すと、志信は薫の方を見ないで尋ねる。
「疲れてた?」
「少し……」
「そっか……」
志信は店員を呼んで水を持ってきてもらうと、それを受け取り黙って薫に手渡した。
「ありがとう……」
冷たい水を飲みながら、薫は、いつもと明らかに様子が違う志信の様子を窺っていた。
(私、酔って何かひどい事でも言っちゃったのかな?ハイボール飲んで焼き鳥食べて……新入社員の頃の話とか、学生の頃にハマったバンドの話とかして……。それから……いつの間に寝たのか、何も覚えてない……)
薫が水を飲んでいる間、志信はずっと黙ったままタバコを吸っていた。
(笠松くん……怒ってる……?)
「もう遅いし、そろそろ帰ろうか。歩ける?」
「うん……」
居酒屋を出て歩いている間も、志信はずっと黙ったままだった。
そんな志信の様子が気になって、薫は背中越しに志信に尋ねた。
「笠松くん……なんか、怒ってる?」
「別に怒ってないよ」
「ホントに?私、酔っぱらって何かひどい事でも言っちゃったのかなって……」
「……いや」
志信は拳を握り、ギュッと唇を噛みしめた。
(ホントにひどいよな……。隣にいるのはオレなのに、寝言で他の男の名前呼ぶとか……)
『浩樹』
薫の口からこぼれた、他の男の名前を呼ぶ甘い声が、志信の耳の奥で何度も響いた。
(オレの事は名前で呼んでくれた事なんてないのに……)
おかしくなりそうなほどの嫉妬に苛まれ、志信は薫の方を見る事もしないで歩き続ける。
(泣かされたくせに……つらい思いさせられたくせに……。それでもそんな男の名前を呼んで泣くほど好きなのか……?)
「ねぇ……待ってよ、笠松くん……」
薫は小走りに志信の後を追う。
さっき立ち寄った公園をもうすぐ通り抜けようかと言う時、それまで前を向いて黙って歩いていた志信が、立ち止まってゆっくりと振り返った。
ジッと見つめる志信の強い視線に薫は戸惑い、その視線から逃れるように目をそらした。
(なんだよ……。オレの事なんか、なんとも思ってないくせに……。いつまでも終わった恋引きずってないで、いい加減気付けよ……)
「……どうしたの?やっぱり何か怒ってる?」
「怒ってないって言ってるだろ?!何度も言わせんなよ!!」
志信はそう叫んで、薫の腕を引き寄せ強く抱きしめた。
「笠松くん?!」
「情けないんだよ!悔しいんだよ!」
突然志信の腕に強く抱きしめられ、薫はその腕から逃れようと身をよじった。
「笠松くん……離して……」
志信は抱きしめる腕の力を少しゆるめて、薫の肩に頭を乗せた。
「いい加減気付けよバカ……」
絞り出すように切なげにそう呟いて、志信は薫から手を離した。
志信の腕から解放された薫は、思わず半歩後ずさった。
「オレ……こんなの、もう……無理だ……」
「え……?」
「ごめん……。タクシー代渡すから、あとは一人で帰って」
志信は財布から五千円札を1枚取り出して、薫の手に強引に握らせた。
「いいよ……こんなの受け取れない……」
お金を返そうとする薫の手をギュッと握ってそれを制すると、志信は悲しげに笑った。
「じゃあね……卯月さん」
背を向けて歩いて行く志信の背中を見ながら、一人取り残された薫は、志信の言葉の意味もわからずに立ち尽くしていた。
(どういう事……?)
志信の肩にもたれ掛かったままでしばらく眠っていたらしい。
(酔っぱらって思いきりもたれて寝ちゃうなんて、恥ずかしい……)
チラリと志信の様子を窺うと、薫の目には、志信が少し悲しげな顔をしているように見えた。
(笠松くん……?)
薫と目が合うと、志信は静かに目をそらした。
「大丈夫?」
「うん……ごめん……。私、寝てた?」
「少しね」
志信は薫から手を離すと、その手でタバコに火をつけた。
ゆっくりと煙を吐き出すと、志信は薫の方を見ないで尋ねる。
「疲れてた?」
「少し……」
「そっか……」
志信は店員を呼んで水を持ってきてもらうと、それを受け取り黙って薫に手渡した。
「ありがとう……」
冷たい水を飲みながら、薫は、いつもと明らかに様子が違う志信の様子を窺っていた。
(私、酔って何かひどい事でも言っちゃったのかな?ハイボール飲んで焼き鳥食べて……新入社員の頃の話とか、学生の頃にハマったバンドの話とかして……。それから……いつの間に寝たのか、何も覚えてない……)
薫が水を飲んでいる間、志信はずっと黙ったままタバコを吸っていた。
(笠松くん……怒ってる……?)
「もう遅いし、そろそろ帰ろうか。歩ける?」
「うん……」
居酒屋を出て歩いている間も、志信はずっと黙ったままだった。
そんな志信の様子が気になって、薫は背中越しに志信に尋ねた。
「笠松くん……なんか、怒ってる?」
「別に怒ってないよ」
「ホントに?私、酔っぱらって何かひどい事でも言っちゃったのかなって……」
「……いや」
志信は拳を握り、ギュッと唇を噛みしめた。
(ホントにひどいよな……。隣にいるのはオレなのに、寝言で他の男の名前呼ぶとか……)
『浩樹』
薫の口からこぼれた、他の男の名前を呼ぶ甘い声が、志信の耳の奥で何度も響いた。
(オレの事は名前で呼んでくれた事なんてないのに……)
おかしくなりそうなほどの嫉妬に苛まれ、志信は薫の方を見る事もしないで歩き続ける。
(泣かされたくせに……つらい思いさせられたくせに……。それでもそんな男の名前を呼んで泣くほど好きなのか……?)
「ねぇ……待ってよ、笠松くん……」
薫は小走りに志信の後を追う。
さっき立ち寄った公園をもうすぐ通り抜けようかと言う時、それまで前を向いて黙って歩いていた志信が、立ち止まってゆっくりと振り返った。
ジッと見つめる志信の強い視線に薫は戸惑い、その視線から逃れるように目をそらした。
(なんだよ……。オレの事なんか、なんとも思ってないくせに……。いつまでも終わった恋引きずってないで、いい加減気付けよ……)
「……どうしたの?やっぱり何か怒ってる?」
「怒ってないって言ってるだろ?!何度も言わせんなよ!!」
志信はそう叫んで、薫の腕を引き寄せ強く抱きしめた。
「笠松くん?!」
「情けないんだよ!悔しいんだよ!」
突然志信の腕に強く抱きしめられ、薫はその腕から逃れようと身をよじった。
「笠松くん……離して……」
志信は抱きしめる腕の力を少しゆるめて、薫の肩に頭を乗せた。
「いい加減気付けよバカ……」
絞り出すように切なげにそう呟いて、志信は薫から手を離した。
志信の腕から解放された薫は、思わず半歩後ずさった。
「オレ……こんなの、もう……無理だ……」
「え……?」
「ごめん……。タクシー代渡すから、あとは一人で帰って」
志信は財布から五千円札を1枚取り出して、薫の手に強引に握らせた。
「いいよ……こんなの受け取れない……」
お金を返そうとする薫の手をギュッと握ってそれを制すると、志信は悲しげに笑った。
「じゃあね……卯月さん」
背を向けて歩いて行く志信の背中を見ながら、一人取り残された薫は、志信の言葉の意味もわからずに立ち尽くしていた。
(どういう事……?)
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