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優しい人、優しかった人
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志信が返事をする間もなく、薫は背を向けて歩き出した。
一人で帰っていく薫の背中を見ながら、志信はため息をついた。
(ただの同期って、こんなもん……?オレ、なんか避けられてる……?)
少し近付いたと思えば、また遠ざけられる。
もう何度、その寂しさを味わっただろう?
好きになるほど遠ざけられるような気がして、胸が痛くて仕方がない。
(オレの事、迷惑なのかな……。どうせ迷惑がられるなら、せめて自分の気持ちくらいは伝えて玉砕するのか……。それとも少しでも一緒にいられるように、このまま……ただの同期のふりしてるのか……)
志信は時おり切なさに痛む胸を押さえ、ぐるぐると思いを巡らせながら、重い足取りで家路についた。
自宅に帰りついた薫は、シャワーを浴びて、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
ビールを飲みながら、タバコに火をつけ、ぼんやりと今日の出来事を振り返る。
(なんか……ちょっと、疲れたな……)
せっかく志信がお祝いをしようと優しい事を言ってくれたのに、少し素っ気なくしすぎたかなと思う反面、でもこれ以上近付かないようにしようと決めたのだから、これでいいとも思う。
恋人でもない女の子に、わざわざ誕生日のお祝いをしてあげる志信の性格を考えると、きっとたくさんいる知り合いの女の子にもそうしているのだろう。
(私にも長野さんにも、後輩にも、きっと誰にでも優しいんだよね、笠松くんは……。女の子にお願いされたら断れない、とか……。それこそ、彼女がいても別の子に付き合ってって言われたら、断れずに二股とか……。優しいふりして傷付けるんだよね、そういう男って……)
志信の事をよく知りもしないのに、きっとこういう人だと決めつけて、心の中で志信を『自分が絶対好きにならない男』に仕立てあげた。
(裏切られて泣くのはもう嫌……)
あんなに好きだと言って何度も抱いたくせに、ひどい捨て方をした浩樹の事を思い出して、薫の胸はまたズキズキと痛んだ。
(私にはもう関係ない……。あの人は、もう他の誰かの夫で……その人との間にできた子供の父親で……。最初から私の事なんて、どうでも良かったんだから……)
翌日からも、一緒に夕食を食べると呆気なく帰っていく薫の事を、志信はこれまでよりも遠く感じていた。
志信がゲームに負けたから薫に1週間夕食を奢ると言う約束を、ただ守るためだけに一緒に時間を過ごしているかのように、薫の態度は以前にも増して素っ気ない。
(なんか虚しい……)
一緒にいても、見えない壁に遮られているようで、薫との距離はどんどん離れて行くような気がした。
嫌いなら嫌いだと言ってくれた方がラクなのかも知れない。
でもまだ何も始まっていないのに、あきらめられるとも思えない。
だいたい、よく知りもしないのに、同じ会社に勤めていると言うだけで、恋愛の対象から外されるなんて腑に落ちない。
ただの薫の事が好きな一人の男として見て欲しい。
(やっぱり、好きだって……同期とか、社内の人間とか関係なく一人の男として見て欲しいって、ちゃんと言おう。このままただの同期のふりしてるなんて、オレにはできない……)
金曜日の定時を迎え、薫は着替えを済ませて喫煙室に向かった。
無事に一週間の仕事を終え、どこか安堵した様子のオジサンたちに混じって、薫がタバコに火をつけた時、後ろから誰かに肩を叩かれた。
志信かと思って振り返ると、そこにいたのは志信ではなく浩樹だった。
薫は一瞬息を飲んですくみあがる。
「お疲れ様」
「……お疲れ様です」
「少し話したいんだけど……この後、時間あるかな」
「……」
薫は言葉を何も発する事ができないまま、火のついたタバコを手に立ち尽くしていた。
一人で帰っていく薫の背中を見ながら、志信はため息をついた。
(ただの同期って、こんなもん……?オレ、なんか避けられてる……?)
少し近付いたと思えば、また遠ざけられる。
もう何度、その寂しさを味わっただろう?
好きになるほど遠ざけられるような気がして、胸が痛くて仕方がない。
(オレの事、迷惑なのかな……。どうせ迷惑がられるなら、せめて自分の気持ちくらいは伝えて玉砕するのか……。それとも少しでも一緒にいられるように、このまま……ただの同期のふりしてるのか……)
志信は時おり切なさに痛む胸を押さえ、ぐるぐると思いを巡らせながら、重い足取りで家路についた。
自宅に帰りついた薫は、シャワーを浴びて、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
ビールを飲みながら、タバコに火をつけ、ぼんやりと今日の出来事を振り返る。
(なんか……ちょっと、疲れたな……)
せっかく志信がお祝いをしようと優しい事を言ってくれたのに、少し素っ気なくしすぎたかなと思う反面、でもこれ以上近付かないようにしようと決めたのだから、これでいいとも思う。
恋人でもない女の子に、わざわざ誕生日のお祝いをしてあげる志信の性格を考えると、きっとたくさんいる知り合いの女の子にもそうしているのだろう。
(私にも長野さんにも、後輩にも、きっと誰にでも優しいんだよね、笠松くんは……。女の子にお願いされたら断れない、とか……。それこそ、彼女がいても別の子に付き合ってって言われたら、断れずに二股とか……。優しいふりして傷付けるんだよね、そういう男って……)
志信の事をよく知りもしないのに、きっとこういう人だと決めつけて、心の中で志信を『自分が絶対好きにならない男』に仕立てあげた。
(裏切られて泣くのはもう嫌……)
あんなに好きだと言って何度も抱いたくせに、ひどい捨て方をした浩樹の事を思い出して、薫の胸はまたズキズキと痛んだ。
(私にはもう関係ない……。あの人は、もう他の誰かの夫で……その人との間にできた子供の父親で……。最初から私の事なんて、どうでも良かったんだから……)
翌日からも、一緒に夕食を食べると呆気なく帰っていく薫の事を、志信はこれまでよりも遠く感じていた。
志信がゲームに負けたから薫に1週間夕食を奢ると言う約束を、ただ守るためだけに一緒に時間を過ごしているかのように、薫の態度は以前にも増して素っ気ない。
(なんか虚しい……)
一緒にいても、見えない壁に遮られているようで、薫との距離はどんどん離れて行くような気がした。
嫌いなら嫌いだと言ってくれた方がラクなのかも知れない。
でもまだ何も始まっていないのに、あきらめられるとも思えない。
だいたい、よく知りもしないのに、同じ会社に勤めていると言うだけで、恋愛の対象から外されるなんて腑に落ちない。
ただの薫の事が好きな一人の男として見て欲しい。
(やっぱり、好きだって……同期とか、社内の人間とか関係なく一人の男として見て欲しいって、ちゃんと言おう。このままただの同期のふりしてるなんて、オレにはできない……)
金曜日の定時を迎え、薫は着替えを済ませて喫煙室に向かった。
無事に一週間の仕事を終え、どこか安堵した様子のオジサンたちに混じって、薫がタバコに火をつけた時、後ろから誰かに肩を叩かれた。
志信かと思って振り返ると、そこにいたのは志信ではなく浩樹だった。
薫は一瞬息を飲んですくみあがる。
「お疲れ様」
「……お疲れ様です」
「少し話したいんだけど……この後、時間あるかな」
「……」
薫は言葉を何も発する事ができないまま、火のついたタバコを手に立ち尽くしていた。
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