36 / 61
優しい人、優しかった人
1
しおりを挟む
「お疲れ」
薫が着替え終わって喫煙室に向かうと、喫煙室の前で志信が待っていた。
「お疲れ様。早いね」
「うん。仕事終わるの早かったから」
「そうなんだ」
二人は会社を出て、歩きながら夕食の相談をする。
「それで、何食べたい?」
「ハンバーグ」
薫にしては意外な事を言うなと、志信は少し驚いた。
「ハンバーグ?珍しいね。どこ行こうか」
「ファミレスでいいよ」
「飲まないの?」
「今日まだ月曜だよ。明日も仕事だし」
「ふーん……」
(さすがに毎日は飲まないのか)
今まで夕食を一緒に食べる時は金曜日にお酒を飲んでいたので、さすがの薫も平日の夕食はこんなものなのかと志信は少し意外に思った。
(普通の食事も、たまにはまぁいいか……)
「そこのモールの中にハンバーグの店があるから、行ってみようか」
「そうなんだ。よく知ってるね」
「前に後輩と行った事があるんだ」
「ふーん……」
(笠松くんってやっぱり人気あるんだな……)
志信は『後輩』としか言っていないのに、以前志信が部署の女の子たちに囲まれ食事に誘われていた事を思い出した薫は、きっと女の子と行ったのだろうと勝手に思っていた。
(まぁ……笠松くんが誰とどこに行こうと、私には関係ないし……)
勝手な想像で薫は無意識に仏頂面になる。
いつもに増して口数の少ない薫に、志信は違和感を覚えた。
「どうかした?」
「どうもしない」
「そう?」
(なんか怒ってる……?)
薫の様子が気になりつつも、志信はその事には触れず、薫を連れてハンバーグレストランに向かった。
席について、志信はメニューを見ながら薫の様子を窺ってみる。
(機嫌悪いのかなぁ……)
志信の視線を感じた薫が、急に顔を上げた。
「何?」
志信は少し焦りながらそれをごまかす。
「いや……決まったかなーって」
「うん、和風ハンバーグにする」
「オレも同じでいいや」
和風ハンバーグのセットを二人分注文して、志信はタバコを取り出そうと上着のポケットに手を入れた。
「あ……そうだ、もうタバコなかったんだ」
「あげようか?」
「いや、買ってくるよ。もし料理が来たら食べてていいから」
店を出てタバコを買うため、たくさんの店が軒を並べるモールの中を歩いている時、志信はジュエリーショップの店先で足を止めた。
(アクセサリーかぁ……)
志信はショーケースの中を覗き込む。
(あ……ウサギだ、かわいい……)
小さなダイヤがあしらわれたウサギのモチーフを見て薫を思い出し、志信はそのネックレスをジッと見つめた。
(卯月さんは、こういうの好きかなぁ……。かわいいけどキレイで子供っぽくないし、似合うと思うんだけど……誕生日でもなんでもないのに、恋人でもないオレがアクセサリーなんかプレゼントしたら……引くかな……?)
しばらくネックレスを眺めた後、志信は小さくため息をついて、ショーケースから離れた。
(なんかきっかけがあればな……)
気が付けばいつの間にか、頭の中はいつも薫でいっぱいになっている。
薫の事を、もっと知りたい。
薫の喜ぶ顔が見たい。
自然にアクセサリーをプレゼントできるくらいの関係になれたらと思う。
自分の選んだアクセサリーを着けて笑ってくれたら、きっと幸せな気持ちになるのだろう。
(指輪とか……贈れるようになりたいな……。今のままじゃ無理だけど……)
「遅かったね」
タバコを買って席に戻った志信に、薫は怪訝そうに声を掛けた。
「ああ、うん。途中でちょっと気になる店があったもんだから」
「ふーん」
さして興味も無さそうな薫の様子に、志信は少し寂しさを感じた。
(『なんの店?』とか聞いてくれないんだ)
薫が着替え終わって喫煙室に向かうと、喫煙室の前で志信が待っていた。
「お疲れ様。早いね」
「うん。仕事終わるの早かったから」
「そうなんだ」
二人は会社を出て、歩きながら夕食の相談をする。
「それで、何食べたい?」
「ハンバーグ」
薫にしては意外な事を言うなと、志信は少し驚いた。
「ハンバーグ?珍しいね。どこ行こうか」
「ファミレスでいいよ」
「飲まないの?」
「今日まだ月曜だよ。明日も仕事だし」
「ふーん……」
(さすがに毎日は飲まないのか)
今まで夕食を一緒に食べる時は金曜日にお酒を飲んでいたので、さすがの薫も平日の夕食はこんなものなのかと志信は少し意外に思った。
(普通の食事も、たまにはまぁいいか……)
「そこのモールの中にハンバーグの店があるから、行ってみようか」
「そうなんだ。よく知ってるね」
「前に後輩と行った事があるんだ」
「ふーん……」
(笠松くんってやっぱり人気あるんだな……)
志信は『後輩』としか言っていないのに、以前志信が部署の女の子たちに囲まれ食事に誘われていた事を思い出した薫は、きっと女の子と行ったのだろうと勝手に思っていた。
(まぁ……笠松くんが誰とどこに行こうと、私には関係ないし……)
勝手な想像で薫は無意識に仏頂面になる。
いつもに増して口数の少ない薫に、志信は違和感を覚えた。
「どうかした?」
「どうもしない」
「そう?」
(なんか怒ってる……?)
薫の様子が気になりつつも、志信はその事には触れず、薫を連れてハンバーグレストランに向かった。
席について、志信はメニューを見ながら薫の様子を窺ってみる。
(機嫌悪いのかなぁ……)
志信の視線を感じた薫が、急に顔を上げた。
「何?」
志信は少し焦りながらそれをごまかす。
「いや……決まったかなーって」
「うん、和風ハンバーグにする」
「オレも同じでいいや」
和風ハンバーグのセットを二人分注文して、志信はタバコを取り出そうと上着のポケットに手を入れた。
「あ……そうだ、もうタバコなかったんだ」
「あげようか?」
「いや、買ってくるよ。もし料理が来たら食べてていいから」
店を出てタバコを買うため、たくさんの店が軒を並べるモールの中を歩いている時、志信はジュエリーショップの店先で足を止めた。
(アクセサリーかぁ……)
志信はショーケースの中を覗き込む。
(あ……ウサギだ、かわいい……)
小さなダイヤがあしらわれたウサギのモチーフを見て薫を思い出し、志信はそのネックレスをジッと見つめた。
(卯月さんは、こういうの好きかなぁ……。かわいいけどキレイで子供っぽくないし、似合うと思うんだけど……誕生日でもなんでもないのに、恋人でもないオレがアクセサリーなんかプレゼントしたら……引くかな……?)
しばらくネックレスを眺めた後、志信は小さくため息をついて、ショーケースから離れた。
(なんかきっかけがあればな……)
気が付けばいつの間にか、頭の中はいつも薫でいっぱいになっている。
薫の事を、もっと知りたい。
薫の喜ぶ顔が見たい。
自然にアクセサリーをプレゼントできるくらいの関係になれたらと思う。
自分の選んだアクセサリーを着けて笑ってくれたら、きっと幸せな気持ちになるのだろう。
(指輪とか……贈れるようになりたいな……。今のままじゃ無理だけど……)
「遅かったね」
タバコを買って席に戻った志信に、薫は怪訝そうに声を掛けた。
「ああ、うん。途中でちょっと気になる店があったもんだから」
「ふーん」
さして興味も無さそうな薫の様子に、志信は少し寂しさを感じた。
(『なんの店?』とか聞いてくれないんだ)
3
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる