君に恋していいですか?

櫻井音衣

文字の大きさ
上 下
33 / 61
これ以上、心を揺さぶられないように

しおりを挟む
「あっ、そうだ。ケーキ!!まだ食べてないですね。卯月さんと笠松さんの分置いて、あとはいただいて帰りますね」
「あっ、うん……」

薫がナイフとお皿を用意して、ケーキを二人分だけ切り分けた。
それを見た梨花は少し驚いた様子で目をパチパチさせている。

「そんなに少しでいいんですか?」
「いいよ。これだけあればじゅうぶん」
「オレも」
「じゃあ、あとは家に帰って、友達といただきますね」
「うん、祝ってもらいな」
「ありがとうございます!」

ケーキを手に梨花が部屋を出ると、二人っきりになった薫と志信の間に、ぎこちない空気が流れた。
薫はできるだけ普通にしていようと平静を装う。

「とりあえず……片付けようか」
「そうだね」

二人で空いた食器をキッチンに運び、それから二人並んで洗い物をした。

「なんか……いろいろありすぎて、1日が長かった気がする」
「まさかこういう展開になるとはな」

(オレはすっげぇラッキーだったけど……)

薫がスポンジで食器を洗い、志信が水で泡をすすぎ落とした。
連携プレーのおかげで、たくさんあった汚れた食器は、思いのほか早く洗い終わった。

「二人でやると早いね」
「役に立ったなら良かった」
「ケーキ食べようか。コーヒーでも入れる?まだビールもあるけど……」
「ビール飲みたいけど……とりあえず、ケーキにはコーヒーかな」
「そうだね。そうしようか」

薫の入れたコーヒーを飲みながら、二人でケーキを食べた。
二人でケーキを食べている事に、薫も志信もなんとなく違和感を抱く。

「ケーキなんて久し振り」
「オレもだ」
「いつもお酒ばっかりだもんね」
「卯月さんが行きたいって言うなら、それ以外の所にも行くけど」
「うーん……。やっぱりお酒かな」
「だよなぁ」

他愛ない話をしながらケーキを食べて、コーヒーを飲み終わると、またビールを飲み始めた。

「たまにはこういうのもいいね。結構楽しかった」
「うん。卯月さんの料理、うまかったし」
「たいしたものは作ってないよ」
「そんな事ないよ。すげぇうまかった」
「そう……?なら良かった」

時間も随分遅くなったのに、志信と二人でゆっくりとビールを飲みながら、他愛ない話をして過ごすのは心地が良くて、なんとなくこのまま別れるのは惜しいような気もする。

(もう少しこのまま一緒にいたいかな……。でもこのまま二人っきりって言うのも……。いやいや……二人っきりだからって、何かあるとは限らないし……。って言うか、何かって……何を考えてるの私?!)

そんな事をぐるぐると考えながら、薫はチラリと志信の様子を窺った。
志信は顔色ひとつ変えないで、平然とビールを飲んでいる。

(ホラ……。どうって事ない……)


薫が自分の考えに戸惑っている間、志信は志信でドキドキしているのを薫に気付かれないように平静を装っていた。

(二人っきりでこのまま耐えられるかな……。昨日酔っておかしな事言ったばかりなのに、ここで手を出したら、それこそ酔って誰にでも手を出す男と思われかねない……)

一時の感情に流されて薫に嫌われるような事だけはしないでおこうと心に誓いながら、志信はビールを飲み干した。


ビールが空になり、薫は新しいビールを冷蔵庫に取りに行くために立ち上がろうとした。

「あっ……!」

隣に志信が座っている事に緊張していたのか、しばらくぎこちない体勢で座っていた薫は、しびれた足がもつれて志信の上にダイブした。

「わっ……!」

倒れ込んだ薫を受け止めて、志信が薫に押し倒されたような格好になる。

「いてて……」

顔を上げた薫は、至近距離にある志信の顔に驚いて、途端にあたふたし始めた。

「ごっ……ごめん……!!」

起き上がろうとしても、軽い酔いも手伝い、その上に足がしびれて体に力が入らない。

(どうしよう、起き上がれない……!!)

「あのっ……ごめん、起き上がりたいんだけど……今、足がしびれて起き上がれない……」

慌てふためく薫を、志信はギュッと抱きしめた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

交際マイナス一日婚⁉ 〜ほとぼりが冷めたら離婚するはずなのに、鬼上司な夫に無自覚で溺愛されていたようです〜

朝永ゆうり
恋愛
憧れの上司と一夜をともにしてしまったらしい杷留。お酒のせいで記憶が曖昧なまま目が覚めると、隣りにいたのは同じく状況を飲み込めていない様子の三条副局長だった。 互いのためにこの夜のことは水に流そうと約束した杷留と三条だったが、始業後、なぜか朝会で呼び出され―― 「結婚、おめでとう!」 どうやら二人は、互いに記憶のないまま結婚してしまっていたらしい。 ほとぼりが冷めた頃に離婚をしようと約束する二人だったが、互いのことを知るたびに少しずつ惹かれ合ってゆき―― 「杷留を他の男に触れさせるなんて、考えただけでぞっとする」 ――鬼上司の独占愛は、いつの間にか止まらない!?

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

Re_Love 〜婚約破棄した元彼と〜

鳴宮鶉子
恋愛
Re_Love 〜婚約破棄した元彼と〜

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

史上最強最低男からの求愛〜今更貴方とはやり直せません!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
中高一貫校時代に愛し合ってた仲だけど、大学時代に史上最強最低な別れ方をし、わたしを男嫌いにした相手と復縁できますか?

スパダリな義理兄と❤︎♡甘い恋物語♡❤︎

鳴宮鶉子
恋愛
IT関係の会社を起業しているエリートで見た目も極上にカッコイイ母の再婚相手の息子に恋をした。妹でなくわたしを女として見て

同期の姫は、あなどれない

青砥アヲ
恋愛
社会人4年目を迎えたゆきのは、忙しいながらも充実した日々を送っていたが、遠距離恋愛中の彼氏とはすれ違いが続いていた。 ある日、電話での大喧嘩を機に一方的に連絡を拒否され、音信不通となってしまう。 落ち込むゆきのにアプローチしてきたのは『同期の姫』だった。 「…姫って、付き合ったら意彼女に尽くすタイプ?」 「さぁ、、試してみる?」 クールで他人に興味がないと思っていた同期からの、思いがけないアプローチ。動揺を隠せないゆきのは、今まで知らなかった一面に翻弄されていくことにーーー 【登場人物】 早瀬ゆきの(はやせゆきの)・・・R&Sソリューションズ開発部第三課 所属 25歳 姫元樹(ひめもといつき)・・・R&Sソリューションズ開発部第一課 所属 25歳 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆他にエブリスタ様にも掲載してます。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

処理中です...