君に恋していいですか?

櫻井音衣

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後輩は鎹(かすがい)?

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「会社の近くで、うまい定食屋知ってる?」

志信に尋ねられて、薫は顔を上げた。

「あ、うん。知ってるけど」
「今度教えて。いつも社食ばっかりで、最近少し飽きてきたんだ」
「じゃあ……また私が本社にいる日に都合が合えば」
「やった、楽しみ」

注文していた料理が運ばれて来ると、薫は料理が置きやすいように水をテーブルの脇によけ、フォークとスプーンを志信と梨花に渡した。

「ハイ」
「ありがと」

(こういう気遣いがさりげなくできるところ、すごくいいんだよな。めちゃくちゃ可愛いじゃん)

自分だけが薫の良さを知っているように感じて、志信は嬉しそうに笑った。

「卯月さんって、すごくいい奥さんになりそうですねぇ」

何気なく呟いた梨花の一言に、水を飲んでいた薫は驚いてむせてしまった。
志信もドキッとして、思わずフォークを落としそうになる。

「え……何、急に……?」
「いえ、そのまんまの意味ですよ?」
「そんな事ないから……」

(もう……また変な事言って……。この子といると調子狂っちゃうな……)

薫は照れながら、慌てて紙ナフキンで口元を拭った。

「あ、そうだ。今日は笠松さんがね、梨花の誕生日のお祝いしてくれるそうなんです」
「うん、良かったね」

(笠松くん、誕生日のお祝いしてあげるほど長野さんと仲良しなんだな……)

薫はなんとなく二人の関係が気になりながら、なんともない顔をしてパスタを頬張った。

「梨花、卯月さんの手料理が食べたいです!!」
「えぇっ?!」

(突然何を言い出すの?!)

「笠松さんに食材とケーキ買ってもらって、卯月さんにお料理してもらって、3人でパーティーしましょう!!ね、いいですよね、笠松さん!!」

梨花の目配せに気付き、志信は大きくうなずいた。

「うん、たまには家飲みもいいね。オレはいいけど……卯月さんは?」

(断らないで!!)

志信が心の中で手を合わせると、薫はサラダをつつきながら顔を上げずに答える。

「手料理って言われても……私、そんなに期待されるほど料理うまくないよ」
「いいんですよぅ、梨花は卯月さんの手料理が食べたいんです!!それにそういうホームパーティーみたいなの、最近してもらってないから新鮮でいいなって。ねっ、卯月さん、お願いします!!」

甘え上手な梨花の頼みを断りきれず、薫は仕方なくうなずいた。

「まぁ、別にいいけど……。あまり期待はしないでよ?」
「やったぁ、嬉しい!!」

大喜びする梨花に、志信はハイタッチをしたい衝動を抑えながら、心の中で叫んだ。

(長野さん、グッジョブ!!)



それから3人でそれぞれの好みの洋服を買おうとショップを回った。
お互いに服を選び合ったりしながら買い物を済ませ、そろそろ食材の買い出しに向かう事になった。

「ところで……パーティーはいいけど、どこでやるの?」
「うちは少し遠いので……卯月さんの家はここから近いですか?」
「うん、すぐそこ」
「じゃあ、卯月さんの家でお願いします!!」
「まぁいいか……。あまり広くはないけど……」

呆気なく薫がOKして、志信と梨花は薫にはわからないように、笑って親指を立てた。

「じゃあ、そこのスーパーで買い出ししよう。何が食べたいの?」
「卯月さんの得意料理はなんですか?」
「得意料理ってほどでもないけど……唐揚げとか酢豚とか……いつもあるもので適当に炒め物とか煮物とか作ってるからね。たいした物は作れないよ?」
「やっぱりいい奥さんになりそうですねぇ。あるもので適当に作るのは、料理上手な人じゃないとできないんですって」

やたらと『いい奥さん』を推すなと思いながら、薫はため息をついた。

「いくら料理ができてもね……相手がいないと、奥さんにはなれないの。わかる?」
「これから現れるんじゃないですかぁ?それとも卯月さんが気付いてないだけで、もうすでにすぐそばにいたりして」

梨花の言葉に、薫は慌てて首を横に振る。

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