君に恋していいですか?

櫻井音衣

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後輩は鎹(かすがい)?

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「あぁ……。やっぱり、ちゃんと貸してあげれば良かったですねぇ」
「何を?」
「メイク道具です。卯月さん、いつもは化粧直しなんてしないのに、急に貸して欲しいって。ちゃんと化粧しましょうかって言ったら、恥ずかしがって結局化粧直しもしないで行っちゃったから……」

梨花の言葉の意味がいまいちよくわからなくて、志信は首をかしげた。

「それが何か?」
「忙しくて汗かいたしって、化粧崩れしてるの気になってたみたいなんで。笠松さんに見られるの、恥ずかしかったんじゃないですか?」
「まさか……。それにオレは、そんな事全然気にしないけど……」
「卯月さんも女の子って事ですよ。自分の事を女らしくないってよく言うし、自分に自信がないみたいなんで、後輩さんたちと自分を比べて気後れしちゃったんじゃないですか?」
「ふーん……」

(オレにとっては、あの子たちより卯月さんの方が何倍もかわいいけどな……)

どこか腑に落ちない様子の志信に、梨花が笑い掛けた。

「自信持たせてあげて下さいよ、笠松さん。卯月さん、キレイでスタイルもいいのにもったいないですから」
「卯月さんにとっては、オレなんかただの同期だよ?まったく眼中にないからね」
「そんな事はないと思いますよ。急に化粧崩れとか服装を気にするなんて、卯月さんが笠松さんを意識してるって証拠です」
「……だといいんだけどね」

志信がため息混じりに呟くと、梨花は急に何かを思い出したようにポンと手を叩いた。

「あっ、そうだ。さっき卯月さんと下着買いに行ったんですけど」
「えっ、何、突然?!」

急に下着の話をされて、志信はドギマギしている。

「見せる相手はいないって。それから卯月さん……Eカップらしいです」
「いっ……」

突然の梨花の暴露話に、志信は絶句した。

(Eカップ?!あの細さで?!道理で大きいはずだよ!!)

「笠松さんに教えちゃった事、卯月さんには内緒ですよ。梨花、今日は誕生日なんです。卯月さんと笠松さんにお祝いしてもらえたら嬉しいなぁ」

甘えた声で報酬をおねだりをする梨花に、志信は頭を下げた。

「……お祝いさせて下さい……」



その後、3人で昼食を取る事になった。
薫と志信は、あんな事があったのが昨日の今日で、どこかぎこちない。
そんな二人の仲を梨花が取り持つように、3人でイタリアンレストランに足を運んだ。

「ここのパスタランチが美味しいんです!!」
「へぇ……こんなオシャレなお店があったんだね。会社のすぐ近くなのに知らなかった」

慣れない店の雰囲気に薫はソワソワしている。

「私、お昼とか仕事の後に同僚と一緒によく来るんですよ。卯月さんはあまり外食しないんですか?」
「こういう店には来ないから。普段お昼はコンビニとか弁当屋で買ってSSで食べるし。外で食べる時も一人で定食屋とか、サラリーマンのオジサンに混じって食べたりする」

志信は薫の言葉を聞きながら、美味しそうに食べる薫の顔を思い出して微笑んだ。

(なんか卯月さんらしいな……)

梨花は驚いた様子で更に尋ねる。

「夜はどうしてます?」
「誰かと飲みに行く時は居酒屋かな。一人の時はたまにバーに行ったりもするけど、だいたいは家で簡単な物作って、お酒飲みながら食べるし」

『誰かと』と言う薫の言葉に、志信はなんとなくモヤッとした。

(誰かと飲みに、って……オレ以外にもそんな相手がいるのかなぁ……)

「自炊してるんですねぇ。私なんか、一人だとつい面倒で、デパ地下でデリ買って帰っちゃいますよ」

薫が首をかしげる。

「デリ……?」
「お惣菜です」
「お惣菜ね……」

今時の流行りに疎い薫は、なんでもオシャレに言う若い女の子の言葉がよくわからない。
そんな自分は全然かわいくないと思う。
一人でも平気でサラリーマンのオジサンに混じって定食屋でガッツリと定食を食べるあたり、かわいい女の子には程遠い。

(色気より食い気……だな)

自分のかわいげの無さに、薫はまたガックリと肩を落とした。
そんな薫の顔を見ながら、志信は考える。

(また昼飯一緒に行こうって言ったら、OKしてくれるかな……?)

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