君に恋していいですか?

櫻井音衣

文字の大きさ
上 下
26 / 61
後輩は鎹(かすがい)?

しおりを挟む
「こっちに来て下さい」
「いや……オレ、女の子の服の事は全然わからないよ?!」
「いいから!!」

梨花に強引に手を引かれ、志信は店内に足を踏み入れた。

(すっげぇ恥ずかしいんだけど……)

「着替えました?開けてもいいですか?」

試着室の前で、梨花が中の誰かに声を掛けた。

「あ……ちょっと待って……」

その聞き覚えのある声に志信はドキッとした。
しかしあの薫が休日に社内の人間と仲良く買い物に出掛けたりするはずはない。

(え?今のって……。オレ、卯月さんの事好きすぎて、おかしくなってきたのかな?)

「もう大丈夫」

志信が首をかしげていると、また試着室の中から声が聞こえた。
その声はやっぱり薫の声に似ている。

「じゃあ、開けますよぉ」

梨花が試着室のカーテンを開けると、志信が今まで見た事のない薫の姿がそこにあった。

「え……」
「あ……」

薫と志信はお互いに、そこにいるはずのない相手の姿に驚いて、一瞬言葉を失った。

(なんで卯月さんが?!って言うか、めちゃめちゃ色っぽいんだけど!!)

さっきまでここにいなかったはずの志信の姿を見て、薫は驚いて顔を真っ赤にした。

(な、なんで?!なんで笠松くんがいるの?!)

急にあたふたしている二人を内心面白がりながら、梨花はいつものように明るく、何事もない風を装った。

「うわぁー!やっぱり似合う!!すっごく素敵です!!ねっ、笠松さん!」

梨花に同意を求められ、志信は我に返る。

「え?あっ、うん……」

(やべぇ……思いっきり見とれてた……)


昨日、酔った勢いに任せて、随分いろいろと口走った。
普段なら絶対言わないような甘い言葉を吐き、拒まれるのをわかっていながら、冗談めかして薫を口説いた。
その上、薫をわざと突き放すような、責めるような卑屈な物の言い方をしてしまった。
頭では何を言っているかわかっていたのに、酔って自分の言動を止める事ができなかった。
その時の薫の顔を思い出すと、志信はいたたまれない気持ちでいっぱいになる。

(うぅ……気まずい……。あんな変な事ばっかり言って、嫌われてたらどうしよう……)

「あの……恥ずかしいから、もうそろそろ着替えてもいい?」

薫がためらいがちに尋ねると、梨花は大袈裟に声をあげた。

「せっかくだから買っちゃえばどうですかぁ。卯月さんスタイルもいいし、すっごく似合ってるしキレイですよ!」
「いや……あの……こんな服、着て行くとこもないし……持っててもしょうがないって言うか……」
「デートで着たらいいじゃないですかぁ」

恥ずかしそうにカーテンで自分の体を隠そうとする薫に、梨花は事も無げに言い放つ。

「さっきも言ったけど、そんな相手いないし」

恥ずかしそうにうつむく薫に、志信はまた見とれている。

(かっ……かわいい……!!オレならいつでも喜んでデートするけど!!って言うか、して下さい!!)

「男と女なんて、いつどうなるかわかりませんよ?」

梨花の意味深な微笑みに、薫はまた真っ赤になった。

「変な事ばっかり言わないで……。とりあえず、これはいらない……。やっぱりこういう服は落ち着かないから……。もう着替えるね」
「すっごく似合ってるのに、もったいない」

薫がカーテンを閉めると、梨花は残念そうに肩をすくめたあと、試着室から少し離れた場所へ移動し、志信を手招きした。
そして薫には聞こえないように、小声で尋ねる。

「笠松さん、昨日卯月さんと会ってたでしょう?」

昨日薫と約束していた事は梨花には言っていなかったはずなのに、梨花が知っていた事に志信は少し驚いた。

「会ってたけど……」
「やっぱり。どうでした?」
「うーん……。なんとなくだけど、ちょっと様子がおかしかったような……」
「おかしかったですか?」
「うん。うちの部署の後輩の女の子たちに、卯月さんも一緒に飲みに行こうって誘われたんだけどさ。私はいいから笠松くんだけでも行ってきたら?とか言われて。もちろん断ったけど、二人で飲んでても、なんかソワソワしてるって言うか、やたらとうつむいたりして……」

志信が説明すると、梨花は小さくため息をついた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Re_Love 〜婚約破棄した元彼と〜

鳴宮鶉子
恋愛
Re_Love 〜婚約破棄した元彼と〜

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

史上最強最低男からの求愛〜今更貴方とはやり直せません!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
中高一貫校時代に愛し合ってた仲だけど、大学時代に史上最強最低な別れ方をし、わたしを男嫌いにした相手と復縁できますか?

幼馴染以上恋人未満 〜お試し交際始めてみました〜

鳴宮鶉子
恋愛
婚約破棄され傷心してる理愛の前に現れたハイスペックな幼馴染。『俺とお試し交際してみないか?』

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

鳴宮鶉子
恋愛
Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

処理中です...