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高鳴る鼓動
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「どの辺がかわいいの?」
「どの辺が、って……みんなキレイに化粧してオシャレして、いい香りがするでしょ?なんとなくフワフワしてて女の子らしいって言うか……」
薫の言葉を聞きながら、志信はつまらなさそうにタバコに火をつけた。
「……だから何?」
「えっ……」
「オレはそういう、うわべばっかり飾ってるのが女の子らしいとは思ってないし、ああいう香水とか化粧の匂いも好きじゃない。うんざりする。それに、フワフワの意味がよくわからないんだけど」
「物腰が柔らかいって言うか……」
薫の言いたい事がなんとなくわかって、志信はまたひとつ大きくため息をついた。
「それは卯月さんとは正反対だって言いたいの?」
志信にハッキリと言葉にされて、薫はまたうつむいた。
「……だってそうでしょ。私なんか見た目も中身も全然女らしくないし……タバコ臭いし、汗臭いし、オイル臭いし……」
(なんだかんだ言って、めちゃめちゃ女の子じゃんか……。自覚ないのかな。かわい過ぎて連れて帰りたくなるよ……)
「オレはそうは思わないよ」
志信は薫の髪を手に取り、鼻先をくっ付けた。
「一日中、誰よりも目一杯仕事頑張った卯月さんの匂い、オレは好き。愛しくて抱きしめたくなる」
「な……何言ってるの……。恥ずかしいからやめてよ……」
真っ赤になってうつむく薫を、志信は微笑んで愛しそうに見つめている。
「どんなカッコしてたって、しっかり化粧してなくたって、オレは卯月さんのこと、すっげぇかわいいって思ってる」
(かっ……かわいいって何……?!)
思いもよらない志信の言葉に、薫は急にドキドキして、顔を上げる事ができなかった。
「さっきから何言ってるの……。笠松くん、おかしいよ……。酔ってる?」
真っ赤な顔をして、うつむいたまま恥ずかしそうに尋ねる薫に、志信は少し意地悪く笑って、更に顔を近付けた。
「そうかもなぁ……それじゃさ……」
志信が薫の耳元に唇を寄せて甘い声で囁いた。
「酔ったせいにして、ただの同期以上の事、してもいい?」
いつもと違う、『男』の顔で志信に迫られて、薫の鼓動が激しく高鳴る。
(な、何これ……?!なんでこんな……)
ドキドキしているのを隠すように、薫はそっぽを向いて素っ気なく答えた。
「そんなの……ダメに決まってるでしょ」
予想していた通りに薫に拒否されて、志信は自嘲気味に笑い、近付けていた顔を離した。
「当たり前か。……ただの同期だもんな」
「酔ってそんな事言う笠松くんとは……もう一緒に飲むの、やめようかな……」
「ごめん、冗談。忘れて」
「タチ悪い……」
今までに見た事がないような色っぽい目で見つめられ、甘い声で囁かれて、薫は高鳴る鼓動を抑える事ができなかった。
このまま流されてしまいそうで、これ以上近付くのは危険だと心にブレーキを掛ける。
『同期として仲良く』する事を望んだのは自分なのに、志信の口から『ただの同期』と言う言葉を聞かされるのは、少し寂しい気もした。
今以上の関係になりたいような、すべてを委ねてしまいたいような、そんな気持ちを受け入れるのは、正直まだ怖い。
(私……なんかおかしい……。男の人にこんな事言われたのなんて、何年ぶりだろう……。免疫無さ過ぎて勘違いしてる……?!)
それから何事もなかったかのように焼き鳥屋を出た二人は、少しぎこちなく距離を取って歩いた。
薫はなんだか気まずくて、ソワソワしながら志信の横顔をそっと窺った。
もしかしたら志信は、酔ったら誰でも口説くタイプなんだろうか。
自分だけでなく他の女の子にもそうしているのかも知れないと思うと、ほんの少し心がチクリと痛む。
(こんなのおかしい……。同期以上の事を求めないでって言ったのは私なんだから……)
「笠松くんってモテるんだね。女の子たちに囲まれてた時はビックリしちゃった。酔ったら口説くタイプ?」
「ん、何?気になる?もしそうだったら?」
「別に……私には関係ない」
「だよな。オレの事なんかまったく眼中にないもんな。オレが誰を口説こうが、誰と付き合おうが、卯月さんには関係ない」
表情を読み取る事ができなくて、薫は志信の顔を見上げた。
「何?」
「……なんでもない」
それからは二人とも黙ったまま歩いた。
志信は薫のマンションの前まで来ると、いつものように『じゃあね』と言い残して帰って行った。
モヤモヤしたものだけが薫の胸に残る。
(関係ない……か……)
突き放すような志信の言葉を思い出すと、どういうわけか少し寂しい気がした。
(なんなの、もう……)
「どの辺が、って……みんなキレイに化粧してオシャレして、いい香りがするでしょ?なんとなくフワフワしてて女の子らしいって言うか……」
薫の言葉を聞きながら、志信はつまらなさそうにタバコに火をつけた。
「……だから何?」
「えっ……」
「オレはそういう、うわべばっかり飾ってるのが女の子らしいとは思ってないし、ああいう香水とか化粧の匂いも好きじゃない。うんざりする。それに、フワフワの意味がよくわからないんだけど」
「物腰が柔らかいって言うか……」
薫の言いたい事がなんとなくわかって、志信はまたひとつ大きくため息をついた。
「それは卯月さんとは正反対だって言いたいの?」
志信にハッキリと言葉にされて、薫はまたうつむいた。
「……だってそうでしょ。私なんか見た目も中身も全然女らしくないし……タバコ臭いし、汗臭いし、オイル臭いし……」
(なんだかんだ言って、めちゃめちゃ女の子じゃんか……。自覚ないのかな。かわい過ぎて連れて帰りたくなるよ……)
「オレはそうは思わないよ」
志信は薫の髪を手に取り、鼻先をくっ付けた。
「一日中、誰よりも目一杯仕事頑張った卯月さんの匂い、オレは好き。愛しくて抱きしめたくなる」
「な……何言ってるの……。恥ずかしいからやめてよ……」
真っ赤になってうつむく薫を、志信は微笑んで愛しそうに見つめている。
「どんなカッコしてたって、しっかり化粧してなくたって、オレは卯月さんのこと、すっげぇかわいいって思ってる」
(かっ……かわいいって何……?!)
思いもよらない志信の言葉に、薫は急にドキドキして、顔を上げる事ができなかった。
「さっきから何言ってるの……。笠松くん、おかしいよ……。酔ってる?」
真っ赤な顔をして、うつむいたまま恥ずかしそうに尋ねる薫に、志信は少し意地悪く笑って、更に顔を近付けた。
「そうかもなぁ……それじゃさ……」
志信が薫の耳元に唇を寄せて甘い声で囁いた。
「酔ったせいにして、ただの同期以上の事、してもいい?」
いつもと違う、『男』の顔で志信に迫られて、薫の鼓動が激しく高鳴る。
(な、何これ……?!なんでこんな……)
ドキドキしているのを隠すように、薫はそっぽを向いて素っ気なく答えた。
「そんなの……ダメに決まってるでしょ」
予想していた通りに薫に拒否されて、志信は自嘲気味に笑い、近付けていた顔を離した。
「当たり前か。……ただの同期だもんな」
「酔ってそんな事言う笠松くんとは……もう一緒に飲むの、やめようかな……」
「ごめん、冗談。忘れて」
「タチ悪い……」
今までに見た事がないような色っぽい目で見つめられ、甘い声で囁かれて、薫は高鳴る鼓動を抑える事ができなかった。
このまま流されてしまいそうで、これ以上近付くのは危険だと心にブレーキを掛ける。
『同期として仲良く』する事を望んだのは自分なのに、志信の口から『ただの同期』と言う言葉を聞かされるのは、少し寂しい気もした。
今以上の関係になりたいような、すべてを委ねてしまいたいような、そんな気持ちを受け入れるのは、正直まだ怖い。
(私……なんかおかしい……。男の人にこんな事言われたのなんて、何年ぶりだろう……。免疫無さ過ぎて勘違いしてる……?!)
それから何事もなかったかのように焼き鳥屋を出た二人は、少しぎこちなく距離を取って歩いた。
薫はなんだか気まずくて、ソワソワしながら志信の横顔をそっと窺った。
もしかしたら志信は、酔ったら誰でも口説くタイプなんだろうか。
自分だけでなく他の女の子にもそうしているのかも知れないと思うと、ほんの少し心がチクリと痛む。
(こんなのおかしい……。同期以上の事を求めないでって言ったのは私なんだから……)
「笠松くんってモテるんだね。女の子たちに囲まれてた時はビックリしちゃった。酔ったら口説くタイプ?」
「ん、何?気になる?もしそうだったら?」
「別に……私には関係ない」
「だよな。オレの事なんかまったく眼中にないもんな。オレが誰を口説こうが、誰と付き合おうが、卯月さんには関係ない」
表情を読み取る事ができなくて、薫は志信の顔を見上げた。
「何?」
「……なんでもない」
それからは二人とも黙ったまま歩いた。
志信は薫のマンションの前まで来ると、いつものように『じゃあね』と言い残して帰って行った。
モヤモヤしたものだけが薫の胸に残る。
(関係ない……か……)
突き放すような志信の言葉を思い出すと、どういうわけか少し寂しい気がした。
(なんなの、もう……)
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