18 / 61
詰めすぎた距離、引き離される心
4
しおりを挟む
強引に志信に手を引かれ、深夜まで営業しているアイスクリームスタンドでアイスを買ってもらった薫は、少し腑に落ちない様子で店先のベンチに座ってアイスを食べていた。
(何この展開……?おかしくないか……?)
「うまい?」
志信はタバコを吸いながら、アイスを食べる薫を嬉しそうに笑って見ている。
「美味しいけど……。なんでアイス?」
「食べたいかなぁと思っただけ」
「何それ……」
(何なの?その目は……)
カップの中のバニラアイスをスプーンで口に運びながら、薫は少し眉を寄せた。
(しかも食べてるの私だけだし……)
「笠松くんは食べないの?」
「ん?卯月さんが食べさせてくれるなら食べたいけど」
「バカ……そんな事しないよ」
照れくさそうに呟く薫を、志信は愛しげに見つめている。
(だから……なんで?)
やけに急速に距離を縮められた気がして、薫は志信の言動に戸惑っていた。
(一体なんなの?私と笠松くんは仲のいい同期ってだけなのに……。こんなのまるで……)
いつの間にか志信のペースに乗せられている自分と、笑いながらどんどん自分の領域に入ってこようとする志信。
一緒にいるのはラクだし楽しいとは思う。
でも、それは『同じ会社の同期』として。
それだけだ。
(勘違いしちゃダメ……。変に期待させちゃダメ……。私はもう……)
「オレ……さっき勝ったよねぇ」
志信の言葉にハッとして、薫は顔を上げた。
「え?ああ、うん」
「卯月さんにアイス食べさせて欲しい、って言うのもアリかなぁ……」
「えぇっ……」
「あ……でも、やっぱり……呼び方変えたいって言うのも捨てがたいし、手料理も食べさせて欲しいしなぁ……」
「何言ってるの……」
(もうやめてよ……)
「どうしようかなぁ……迷うなぁ……」
薫はアイスを食べる手を止めて、少し考えてから静かに息をついた。
「笠松くん……そういうの、私に求められても困るよ。前にも言ったでしょ?そういう事は……彼女にやってもらって」
薫の言葉を聞くと、それまで楽しそうに笑っていた志信は一瞬真顔になって、薫の顔をジッと見た。
『だったらオレの彼女になってよ』
思わずそう言いかけて、志信はその言葉がこぼれ落ちないように、奥歯をグッと噛みしめた。
そして薫からそっと目をそらすと、少し寂しげに笑った。
「ハハ……ちょっと飲みすぎたかな……。ごめん、つい調子に乗っちゃった」
「うん……」
二人の間に、ぎこちない空気と沈黙が流れた。
お互いに目をそらして合わせないようにした。
薫がアイスの最後の一口を食べ終わると、志信はタバコの煙を吐き出して、短くなったタバコを水の入った灰皿に投げ込んだ。
「帰ろうか」
「うん……」
さっきとは違って少し距離を取って歩く薫に、志信は静かに話し掛けた。
「やっぱり……明日はいいや」
「え?」
「休みの日までただの同期のオレと一緒にいるなんて、卯月さんにとっては迷惑だよね」
「……迷惑なんて言ってないよ」
「無理しなくていいよ。さっきのゲームの分のお願いは……明日の約束、取り消させて。それでいい?」
「……うん」
薫は小さくうなずいて、志信の背中を見た。
(なんか……笠松くんが今何を思ってるのかとか……もう何も考えたくない……)
それから黙ったまま歩き、薫のマンションの前までたどり着くと、志信はほんの一瞬薫の顔を見つめて、じゃあね、と背を向けた。
遠くなっていく志信の背中を見つめながら、薫はため息をついた。
(これで……いいんだよね……)
志信は足早に歩きながら、さっきの薫の言葉を思い出してため息をついた。
(さすがにヘコんだな……。フラれっぱなしだよ……。オレの事なんて、ただの同期くらいにしか思ってないんだもんな……)
やっと少し距離を縮められたと思ったら、『ここから先には入らないで』とでも言うかのように、ハッキリと線を引かれる。
(オレの事……そんなに迷惑……?)
どうにもならない想いが、志信の心をしめつけた。
どんなに優しくしても、どれだけ自分の存在をアピールしても、薫の心には触れる事ができない。
(最初っから『有り得ない』って言われてたもんな……。やっぱり無理なのか……。いくら押してもダメなら、少し距離を置いた方がいいのかな……。どうしてあんなに頑なに恋愛を拒むんだろう……)
どんどん大きくなる薫への想いを持て余して、志信はまた大きくため息をついた。
(何この展開……?おかしくないか……?)
「うまい?」
志信はタバコを吸いながら、アイスを食べる薫を嬉しそうに笑って見ている。
「美味しいけど……。なんでアイス?」
「食べたいかなぁと思っただけ」
「何それ……」
(何なの?その目は……)
カップの中のバニラアイスをスプーンで口に運びながら、薫は少し眉を寄せた。
(しかも食べてるの私だけだし……)
「笠松くんは食べないの?」
「ん?卯月さんが食べさせてくれるなら食べたいけど」
「バカ……そんな事しないよ」
照れくさそうに呟く薫を、志信は愛しげに見つめている。
(だから……なんで?)
やけに急速に距離を縮められた気がして、薫は志信の言動に戸惑っていた。
(一体なんなの?私と笠松くんは仲のいい同期ってだけなのに……。こんなのまるで……)
いつの間にか志信のペースに乗せられている自分と、笑いながらどんどん自分の領域に入ってこようとする志信。
一緒にいるのはラクだし楽しいとは思う。
でも、それは『同じ会社の同期』として。
それだけだ。
(勘違いしちゃダメ……。変に期待させちゃダメ……。私はもう……)
「オレ……さっき勝ったよねぇ」
志信の言葉にハッとして、薫は顔を上げた。
「え?ああ、うん」
「卯月さんにアイス食べさせて欲しい、って言うのもアリかなぁ……」
「えぇっ……」
「あ……でも、やっぱり……呼び方変えたいって言うのも捨てがたいし、手料理も食べさせて欲しいしなぁ……」
「何言ってるの……」
(もうやめてよ……)
「どうしようかなぁ……迷うなぁ……」
薫はアイスを食べる手を止めて、少し考えてから静かに息をついた。
「笠松くん……そういうの、私に求められても困るよ。前にも言ったでしょ?そういう事は……彼女にやってもらって」
薫の言葉を聞くと、それまで楽しそうに笑っていた志信は一瞬真顔になって、薫の顔をジッと見た。
『だったらオレの彼女になってよ』
思わずそう言いかけて、志信はその言葉がこぼれ落ちないように、奥歯をグッと噛みしめた。
そして薫からそっと目をそらすと、少し寂しげに笑った。
「ハハ……ちょっと飲みすぎたかな……。ごめん、つい調子に乗っちゃった」
「うん……」
二人の間に、ぎこちない空気と沈黙が流れた。
お互いに目をそらして合わせないようにした。
薫がアイスの最後の一口を食べ終わると、志信はタバコの煙を吐き出して、短くなったタバコを水の入った灰皿に投げ込んだ。
「帰ろうか」
「うん……」
さっきとは違って少し距離を取って歩く薫に、志信は静かに話し掛けた。
「やっぱり……明日はいいや」
「え?」
「休みの日までただの同期のオレと一緒にいるなんて、卯月さんにとっては迷惑だよね」
「……迷惑なんて言ってないよ」
「無理しなくていいよ。さっきのゲームの分のお願いは……明日の約束、取り消させて。それでいい?」
「……うん」
薫は小さくうなずいて、志信の背中を見た。
(なんか……笠松くんが今何を思ってるのかとか……もう何も考えたくない……)
それから黙ったまま歩き、薫のマンションの前までたどり着くと、志信はほんの一瞬薫の顔を見つめて、じゃあね、と背を向けた。
遠くなっていく志信の背中を見つめながら、薫はため息をついた。
(これで……いいんだよね……)
志信は足早に歩きながら、さっきの薫の言葉を思い出してため息をついた。
(さすがにヘコんだな……。フラれっぱなしだよ……。オレの事なんて、ただの同期くらいにしか思ってないんだもんな……)
やっと少し距離を縮められたと思ったら、『ここから先には入らないで』とでも言うかのように、ハッキリと線を引かれる。
(オレの事……そんなに迷惑……?)
どうにもならない想いが、志信の心をしめつけた。
どんなに優しくしても、どれだけ自分の存在をアピールしても、薫の心には触れる事ができない。
(最初っから『有り得ない』って言われてたもんな……。やっぱり無理なのか……。いくら押してもダメなら、少し距離を置いた方がいいのかな……。どうしてあんなに頑なに恋愛を拒むんだろう……)
どんどん大きくなる薫への想いを持て余して、志信はまた大きくため息をついた。
3
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる